廃止される競技もある中で「なくしてはいけない」と考える理由とは 行き過ぎた勝利至上主義などを理由に、スポーツ界では小学生…

廃止される競技もある中で「なくしてはいけない」と考える理由とは

 行き過ぎた勝利至上主義などを理由に、スポーツ界では小学生を対象にした全国大会の是非が議論されている。今夏も予定していた大会の廃止が決まった競技もある中、学童野球の全国大会を主催する全日本軟式野球連盟(全軟連)は「絶対に必要」との基本姿勢を変えていない。現在のトーナメント方式を継続するかを含め、より有意義な大会の在り方を検討していく。

「全国大会の廃止は全く考えていません。なくしてはいけないと思っています」

「小学生の全国大会は必要なのか」と少年野球界でも議論になる中、全軟連の小林三郎専務理事は廃止の選択肢はないと強調した。

 全軟連が主催する全国大会は、今年も8月8日から1週間の日程で予定されている。今回で42回目と歴史が長く、全国1万1000チームの中から都道府県の代表が出場する大会は「小学生の甲子園」と呼ばれている。小林専務理事は「全国大会は、普段一生懸命やってきたものを発表する場。子どもたちが夢や希望を感じる場を提供するのが役割だと思っています」と開催の意義を語る。

 勉強や仕事でも目標を設定することで、日々努力を重ねられる。全国大会は子どもたちの大きな目標の1つであり、小林専務理事は野球を通じて勉強や体験をしてほしいと話す。また大会を通じて、同世代との交流も財産になると考えている。

 一方で「日本一決定戦」という性格が強い大会形式に関しては、勝利至上、一部選手の酷使による故障、燃え尽き症候群など多様な問題を検証する考えがあるという。例えば、今夏に予定されている小学生世代の全国大会(全日本学童大会とNPBガールズトーナメント)では、熱中症対策の一環として、リスクの高い時間の試合を避ける。大会を継続する上で、参加者や関係者をはじめ、社会的にも理解を得られる方法を検討している。

行き過ぎた勝利至上主義に警鐘、トーナメント形式の変更まで検討

 一部の競技が全国大会廃止の理由に挙げた「勝利至上主義」は、少年野球でも共通の問題と認識している。勝利を優先するあまり、指導者が選手を酷使したり、暴言や暴力で選手を押さえつけたりすれば、本末転倒となる。全軟連では「暴力・ハラスメントの撲滅」を掲げ、相談窓口を設置。指導者を対象にした講習会を開き、資格も設けている。特定の選手に起用が偏って故障につながるリスクを減らすため、投手の球数制限や試合時間の短縮といったルールを導入している。対策を講じ、根拠を示した上で、全国大会を継続していく考えだ。

 ただ、大会のやり方については、外部の有識者を交えた委員会で協議を重ねている。その中で検討しているのが、トーナメント方式の是非だ。優勝を目指すことがモチベーションになる反面、行き過ぎた勝利至上主義につながるというリスクもある。

 2020年に新型コロナウイルスの感染拡大で選抜高校野球大会が中止になった時のように、都道府県代表による交流戦に変更するのも選択肢の1つ。小林専務理事は「子どもたちにとって、何が必要なのかを第一に考えなければいけません。様々な角度から意見を集めて、子どもたちの健康や安全を守る万全な体制をつくっていきたいと思います」と語った。

 小林専務理事は毎年、全国大会を観戦し、子どもたちに熱い視線を送っている。「子どもたちが楽しそうに野球をしている姿を見ると、全国大会は絶対に必要で、なくしてはいけないと感じます」。勝利至上主義に偏らない、子どもたちのための大会を目指す。(間淳 / Jun Aida)