佐々木寿人インタビュー(前編) Mリーグが2022−2023シーズンに向けて動き始めている。6月1日に5年目となる新シー…

佐々木寿人インタビュー(前編)

 Mリーグが2022−2023シーズンに向けて動き始めている。6月1日に5年目となる新シーズンの概要が決まり、各チームが来季の陣容を発表。7月上旬のドラフト会議を経て、10月から2022−2023シーズンが開幕する。

 その新シーズンに向けて腕を撫すのが、人気と実力でMリーグを牽引するKONAMI麻雀格闘倶楽部の佐々木寿人(日本プロ麻雀連盟)だ。

 2020−2021シーズンはレギュラーシーズンの個人スコアトップの選手に贈られるMVPを獲得。しかし、昨季は32選手中20位と苦戦した。チームメイトの活躍もあってファイナルシリーズまで勝ち進んだものの、最後はKADOKAWAサクラナイツに初優勝を許す結果になった。

 Mリーグ制覇に向けて意気込んでいる佐々木選手に、麻雀との出会いから、プロ入り、さらには個人戦とは異なるMリーグならではの難しさや魅力を聞いた。

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Mリーグで絶大な人気を誇る佐々木寿人

---- まずは、麻雀との出会いから教えてください。

「高校2年の時、友人に誘われて初めて卓を囲んで麻雀牌を触ったんですけど、衝撃的でしたね。『こんなにおもしろいものがあるのか!』と。麻雀を長くやってきて興奮して眠れなかったのは、あの日が最初で最後。そんな出会いでした」

---- それまでは部活動をしていたんですか?

「サッカー部でした。でも、そこからはサッカーそっちのけで(笑)。初めて麻雀をやった翌日には、ホームセンターに麻雀牌を買いに行ってましたから。麻雀の本を買ってルールを覚えて、高校を卒業する頃にはルールも点数計算も完璧でした。それくらいハマりました」

---- 高校卒業後の進路は?

「東北学院大に入りましたね。でも、2年で中退して」

---- 中退の原因はやっぱり麻雀だったんですか?

「そこは違いますね(笑)。学費を払うのが1日遅れちゃって、もう1回、2年生をやらないといけないとなって......それで辞めちゃいました」

---- そこから麻雀の道にどっぷり浸かっていくのですか?

「麻雀荘でアルバイトはしていましたけど、大学を辞めるまではそれほどでもなかったですよ。でも、大学を辞めたら、ほかにやることもないから麻雀に精を出すようになって。それで麻雀の腕を買われて22歳、今から23年前に東京に来ました」

---- 誘われるくらい、当時から強かったということなんですね。

「それなりに麻雀は強かったのかもしれませんね」

---- どうすれば、それほど麻雀が強くなれるんでしょう?

「大学を辞めてからは、麻雀しかやることがなくなっちゃったので、意識や向き合い方を変えた。それが大きかったでしょうね」

---- 具体的に何を変えたのですか。

「遊びでやっていた頃は、勝負に負けたら熱くなっていました。でも、それは勝負事には非常にマイナスなので、そこを直しました」

---- 麻雀の競技プロになった経緯を教えてください。

「前原さん(雄大/元KONAMI麻雀格闘倶楽部/日本プロ麻雀連盟)から『前原塾に一度来てみないか』と誘われて、一回行ったんですね。それもひとつのキッカケではあるんですけど、競技プロになったからと言っても給料をもらえるわけではないから、ずっと『競技プロになります』とは言えなくて。28歳くらいまで決断できなかったんですよね」

---- 決断した理由は?

「27歳くらいの頃に鳳凰位決定戦(※日本プロ麻雀連盟が主催するリーグ・鳳凰戦の最高位を決める年に一度のタイトル戦)を見に行ったんです。『こういう世界もあるんだな』と競技麻雀の空気感を知ったのも大きかったですね」

---- 2006年に日本プロ麻雀連盟に22期生として入会しました。競技プロになって何か変化はあったのでしょうか?

「当然、意識を変えなければいけなかったですね。見られる勝負であることを意識しましたし、それまで以上にしっかり勝って、結果を残すことにこだわりました」

---- 競技プロになったことで、ルールに適応するために打ち方なども変えたのですか?

「だんだん変わりました。プロになる前と同じ打ち方でやっても勝てなくなったり、壁にぶつかったりして、少しずつ変えながらという感じですね」

---- 大きく変わったのはどこですか?

「我慢ですね、我慢。守備は好きじゃないので、攻撃麻雀だったんですけど、それだと勝てないってことで、守備を覚えつつ、攻撃面を少し削っていって。自分らしい打ち方も追求したいし、勝負の結果にもこだわりたい。そのバランスが一番変わりました」

---- 今も佐々木選手のイメージは超攻撃型な麻雀ですが、むやみやたらに打って出るわけではないということですよね。そこの押し引きはどうやって身につけるのでしょう?

「やっぱり経験ですよね。プロ入りした頃は荒削りなところもあって、点数を失うことがあったんで。守備もちゃんとできないと勝ちきれない。勝ちきるにはどうしたらいいのかを考えて積み重ねていくなかで、パッと掴めんだものがあった感じです」

---- それはいつくらいなんでしょう?

「日本プロ麻雀連盟の鳳凰戦でA2リーグからA1リーグに上がれそうだったのに、有利な位置につけていたのにダメで。その頃ですかね」

---- それは2015年のことでしたよね。

「そう。その後もB1リーグに降格したんですけど、あの経験が大きかったですね。『なぜ負けたか』、しっかり自分を見つめ直せた。

 勝負というものは、何かに気づくことかなと思うんです。それが何かは人によって違うけれど、僕はあの時期に『意外にこうやれば勝てるんだなぁ』というのを見つけた気がします。気づくと『なんだ、実は簡単なことじゃん!』って思うんですけど(笑)」

---- 2017年に日本プロ麻雀連盟主催の『麻雀グランプリMAX』に優勝して初のG1タイトルを獲得。さらに2018年にMリーグが始まってKONAMI麻雀格闘倶楽部からドラフト1位指名され、2019年には鳳凰位リーグでA1に昇格。2020年度、2021年度は日本プロ麻雀連盟で最高のタイトル『鳳凰位』を2連覇。Mリーグがスタートしたタイミングに合わせて佐々木時代が始まった印象です。

「たまたまですけど、ありがたいことですよね」

---- 今年3月31日に約2年ぶりに開催されたMリーグのパブリックビューイングでは、選手が登壇するたびに満員の観客から大きな拍手が送られていましたが、佐々木選手が登場した際はチームの垣根を超えてひときわ大きな拍手が響きました。

「パワーになりますよね。Mリーグをすごくたくさんの人が見てくださっているので、心に届くような麻雀を打ちたいと思っていて。SNSでのメッセージも『勇気をもらいました』などの温かいものが多くて、逆にこちらが励みにさせてもらっているんですけど、パブリックビューイングで久しぶりにサポーターの方たちと直接会えたことで、自身の麻雀を打ち抜きたいという思いは強くなりましたね」

---- Mリーグのオフシーズンは、どういう生活スタイルなんですか?

「連盟の対局や放送対局があって、たまにゲストで呼ばれるので地方に行ったり、『近代麻雀』でのコラム連載を書いたり」

---- 休みはあるのですか?

「ありますよ。週に1、2回ほど」

---- 休みの日は何をしているのですか?

「基本的には寝ていることが多いですね。最近になってわかってきたのが、麻雀は神経を使っているし、ストレスも溜まっているんだなってこと。Mリーグがある時期は特に、Mリーグでの1敗はけっこうメンタルにきたりするんですよ。だから、休みの日はできるだけ体と頭を休ませるようにしています」

---- Mリーグが注目を集めた反面、選手にかかる負荷も大きくなったということですね。そのMリーグでの戦いについては、後編で詳しく教えてください。

>>佐々木寿人(後編)につづく>>「どうすれば役満は上がれるのですか?」

【profile】
佐々木寿人(ささき・ひさと)
1977年1月12日生まれ、宮城県仙台市出身。2006年、日本プロ麻雀連盟に入会してプロ雀士となる。2008年に女流プロ雀士の手塚紗掬と結婚。2018年、KONAMI麻雀格闘倶楽部よりドラフト1位指名でMリーガーとなり、リーグ初の役満(国士無双)を上がるなど超攻撃型の雀風で人気を博す。2020年、Mリーグ最高スコア&MVP受賞。ニックネームは「魔王」。