アマチュアボクシングの「国体毎年開催復帰」前編、日本連盟の改革とは 日本のアマチュアボクシング界が、一つの目標を達成した。日本ボクシング連盟は前会長の山根明氏の体制下で様々な問題が表面化し、国民体育大会(国体)が2024年からの4年間は「隔…

アマチュアボクシングの「国体毎年開催復帰」前編、日本連盟の改革とは

 日本のアマチュアボクシング界が、一つの目標を達成した。日本ボクシング連盟は前会長の山根明氏の体制下で様々な問題が表面化し、国民体育大会(国体)が2024年からの4年間は「隔年開催」に降格。しかし、28年からは「毎年開催」に復帰することが発表された。18年に体制を引き継いだ内田貞信会長は、今月26日の総会で2期目の任期を満了する。新体制移行からもうすぐ4年。国体復帰の“悲願”を叶えるまでにどんな改革があったのか。

 前編では、ガバナンスを含めた日本連盟内の環境整備、選手へのサポート強化、競技普及、メディア戦略などに注目。前体制にはなかった取り組みについて、内田会長と仲間達也専務理事に聞いた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

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 9日、日本連盟に朗報が届いた。4年ごとに見直される国体の実施競技。日本スポーツ協会は各中央競技団体への調査結果として、5項目の点数評価を発表した。ボクシングは32位。正式競技の中で最下位の41位だった前回から大きく順位を上げた。

 2018年夏、前会長の山根氏の体制下では様々な問題が表面化。山根氏の風貌と独特なキャラクターも相まって、大騒動に発展した。助成金の不正流用、審判員の不正判定疑惑、試合用グラブの不透明な独占販売、絶対的存在の会長によるトップダウン……。後を継いだ内田会長は、新体制に関わった全ての人に感謝しながら3年半を振り返った。

「全て改善してきました。目指したのは選手、審判、関わる人全員にとって少しでも楽しい大会であること。その上で上部団体のJOC(日本オリンピック委員会)などのご指摘をしっかり聞きながら、いかにクリアしていくか。みんなで協力してやってきました」

 日本スポーツ協会の調査項目は競技会活性化、ジュニア充実、女性スポーツ推進、医科学サポート、競技会開催運営能力の5つ。それぞれ点数化し、ボクシングは合計点で32位だった。「前体制まで完全に何もやっていなかった」と振り返る仲間専務理事。中でも特に問題視されたガバナンスにおいて改革がなされた。

 法人運営の拠点となる事務局は、常勤スタッフを6人から11人に増やした。「財務・会計・経理」「助成金事務」など担当を細分化。特に、役員の選出においては、会長や特定の理事による“密室人事”をなくすため、第三者の役員候補者選考委員会を設置した。前体制では年2回だった理事会は10回前後に増加。古い上意下達をなくすため、「大切なコト・大事なコトは皆で話し合って決める」を徹底し、適正なガバナンスを保つよう努めた。

仲間氏「規則、規程の整備がされていませんでした。スポーツガバナンスコードにしっかりと適応していくことが大切です。しかしながら、早急な達成は困難です。上部団体へは、段階的な目標達成を行うと報告しています。例えば、ガバナンスコード上は全理事の40%以上が女性、25%以上が外部からの登用であることが求められます。

 当連盟としては、今年度の役員改選において、女性理事20%、外部理事12.5%の達成、そして2024年度の改正において、ガバナンスコードの示す目標を達成する予定です。幸い、今月26日の総会で、当初の目標を上回る25%の女性理事比率を達成できます。現実的に達成可能な目標を示しながら、それを実行し続ける。そこを上部団体にも評価して頂いています。

 あとは役員の任期に関しても、連続任期を4期(8年)までと定めました。同じような人間だけが固定される状況を避ける仕組みを作っていく必要があります。スポーツガバナンスコードという、『NF(国内競技連盟)とはこうあるべきだ』という枠組みがあるので、それを守っていきます。できた部分、できていない部分を明確にしながら、日本連盟が自分たちで規律を正しているということを示してきました」

国体の隔年開催、競技人口減少以外に「非常に問題」と指摘する理由

 山根体制では普及活動はほとんど行われていなかった。昨年11月には全日本マスボクシング(寸止めボクシング)大会を初開催。ジュニア充実、競技会活性化、運営能力の向上を踏まえた新たな試みだ。男女で年代別にカテゴリーが分けられ、小学1年生から上限の年齢制限はなし。最も上のシルバーエイジ(71歳以上)男子の部では74歳が優勝した。持続可能な大会運営であり、毎年開催していく方針だ。

 女性スポーツ推進では、合宿で専門家のリモート講義を実施。女子選手へ月経コントロールなど最新のコンディショニング知識を提供した。選手からのフィードバックを受け、医科学的なサポート体制も充実させて来ている。仲間氏は「当然、これは競技団体として取り組まなければならないこと。選手のニーズを汲んだ形のサポートができるようになった」と説明。医科学サポートでは、アンチ・ドーピングの普及活動などに注力。各大会にブースを設置し、セミナーを開催した。

 審判員、コーチの育成にも尽力。ここまでの道のりは長かった。しかし、現状を自己分析すれば「本来あるべき姿になった」という言葉が適切だという。

仲間専務理事「国体実施競技評価において、本来ならボクシングの点数は極端に低くなるはずがないんです。女子競技の歴史が短い部分はありますが、競技の歴史が古く、アジア大会、オリンピックでも正式競技であり、基本的には基礎点数が高い競技です。NFが選手のためにやるべきことをやり、適切な組織運営を行なっていれば、自ずと評価される。国体の毎年開催競技へ復帰できたのは、ある意味当然のことです。

 山根体制よりも前は20位台でした。前体制は現代のスポーツ団体に求められる活動をないがしろにしてきたので、41位まで落ちました。今回はそれを本来あるべき姿に戻した状況。ボクシングの歴史、オリンピックを含め国際的に認知度が高い競技であることにプラスして、NFとして当然やるべきことを丁寧に積み重ねてきたことが評価されたため、国体の毎年開催競技へ復帰できたと考えております」

 そもそも、国体の隔年開催への格下げはどんな影響があるのか。一つは競技人口。内田会長は言う。

「やはりかなり減ってしまう可能性があると思います。甲子園でも春夏2回ありますが、どちらも目指すものですよね。ボクシングで大学進学を目指す選手、プロで成功したい選手は国体、インターハイに凄くこだわっています。それがインターハイ一本になると、アピールするチャンスが減りますし、モチベーションの維持も難しくなります。それは監督、コーチ、審判も同じ。全国のボクシング関係者のモチベーションが下がると心配しています」

 ネガティブな要素はこれだけではない。仲間氏が「非常に問題」と指摘するのが、行政予算がなくなることだ。国体やそのプレ大会開催時に得られる重要な運営資金は、大会開催だけでなく、国体に向けた環境整備などにも充てられる。しかし、隔年開催になれば、行政予算が得られるのも2年に一度だけ。仲間氏は「国体がなくなる=大会が1つなくなる、というだけの話ではないです」と強調した。

大目標にしてきた公益法人化へ、内田会長「最終段落」

 24年からの4年間は隔年開催が決まっているため、24、26年は実施されない。少しでも競技人口を減らさない努力が求められる中、日本連盟は広報戦略にも力を入れている。東京五輪で金1つを含むメダル3つ、世界選手権で金メダル2つを獲得。選手の活躍で勢いを受け、最近では木村拓哉主演のドラマで監修を務めたほか、SNSで積極的に情報発信し、ボクシングの露出を増やしている。

内田氏「日本連盟に広報戦略委員会を作りました。そこが前体制とは大きく違う部分の一つです。ボクシングがメディアに出る回数が非常に増えました。全日本マスボクシング大会の申し込みも受付が対応できないほど多かった。少しずつですが、競技人口も増えてきていると思います」

仲間氏「ボクシングに対する社会的な注目度は、オリンピックを中心に高まってきています。アマチュアで活躍した後にプロ転向した村田諒太選手、井上尚弥選手などが活躍してくださることで、アマチュアへの興味も上がってきています。少子化の影響も相まって競技人口が減ってしまう状況はありましたが、相対的には追い風です」

 前体制が連日ワイドショーに取り上げられ、大騒動を巻き起こして4年近くになる。生まれ変わった日本連盟は確かに前に進んできた。内田会長は「でも、まだ最終段階」と話す。大目標は一般社団法人から「公益法人」になることだ。

 内閣府によって認定される公共の利益を目的とした団体のこと。税制上の優遇措置を受けることができ、信頼の証しでもあるため、企業からスポンサーを受けやすい。活動資金は競技の普及、発展には不可欠だ。実現への残る課題は少ないが、その一つが日本連盟と各都道府県連盟の関係性を示す加盟団体規定の整備。現状ではどのような形やタイミングで作成するか、内閣府と最終調整を行なっている。

内田会長「これまで各地方の都道府県連盟には無理を言って、かなりの負担を掛けてしまいました。私たち以上に時間を割いていただいて、都道府県の各大会、子どもたちのイベントを作るために献身的に働いてくださっています。ですから、この加盟団体規定も、決して我々からの一方的な押し付けであってはならないと思っています」

 ボクシングを愛する多くの人の手を借り、山根体制にはなかった数々の取り組みで組織を作り変えてきた。中でも顕著なのは「風通しの良さ」。その背景には、率先して雑用にも奔走する内田会長の姿があった。

(23日掲載の後編「自ら雑用をやる日本ボクシング連盟会長」に続く)(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)