那須川天心インタビュー(前編) 6月19日に東京ドームで開催される格闘技イベント『THE MATCH』で、武尊との"世紀の一戦"に挑む那須川天心。長年にわたって待望され、ようやく実現した夢のカード。それと同時に、ボクシング転向を明言している…

那須川天心インタビュー(前編)

 6月19日に東京ドームで開催される格闘技イベント『THE MATCH』で、武尊との"世紀の一戦"に挑む那須川天心。長年にわたって待望され、ようやく実現した夢のカード。それと同時に、ボクシング転向を明言している那須川にとってはキックボクサーとして最後の試合になる。日本中が注目する大一番を前に、那須川が心境を語った。


『THE MATCH』のメインで武尊と戦う那須川天心

「絶対勝つ」ことだけに集中

── 決戦まであと少しとなりましたが、やはりこれまでのどの試合とも違う心持ちでいるのでしょうか?

「最初に対戦が決まった時はすごくそういう感覚があったんですけど、今はいつもどおりかなというのはあります。それでも自然といつも以上に気合いは入っているんですけど、あんまり思わないようにはしていますね」

── 特別な試合だと思わないようにしていると。

「そうです。やっぱり最初は特別だと思いましたけど、日が経つにつれて『試合をする、絶対に勝つ』ということに集中してやっている感じはあります」

── 試合が決まった当初の特別な意識というのは、どんな感じだったんですか?

「やっぱり"何年越しの実現"という部分とか。自分のなかでもそうですし、客観的に見てもなかなかこういうことはないし、やらないほうがいいんじゃないかという思いもありました。そういう葛藤とかすべてがいつもとは違っていました」

── 「やらないほうがいいんじゃないか」という思いは、どういった理由からですか?

「結果が出てしまうとファンの方が悲しむんじゃないかと。やっぱり格闘技ってすべての人がハッピーエンドでは終わらないじゃないですか? だから実現せずに、のちのちまで語られるほうがいいのかなとも思ったり」

いつも以上に自然体

── 対戦を熱望していた以前と状況が違うのは、この試合を最後に那須川選手はキックを引退してしまう。

「これでいなくなっちゃうわけだから、『自分勝手なのかな』と思う部分もなくはないんです。それでも『やる!』と決めたのは、やっぱり今後の格闘技のためというよりも"未来のある子どもたちのため"だったり......格闘技界だけじゃなく、いろんな世界に出て行こうとする子どもたちに勇気を与えられるんじゃないか、何かのきっかけになってくれればいいなというのはありましたね。僕、子どもが大好きなんですよ。僕が昔のK−1に憧れてキックを始めたように、子どもたちが今回の試合を見て『格闘技をやってみようかな』ってなってくれたらうれしいじゃないですか。かつて僕が与えられたものを、次は僕が残していくべきなのかなと思ったんです」


大一番を前に

「自然体でいられている」と語る那須川天心(写真左)

── 予想どおり、東京ドームのチケットは即完売しました。

「そうなるだろうなとは思っていましたよね。思っていましたし、いま周囲が盛り上がってワーッとなっている反面、『浮かれすぎないでほしいな』というのもありますよね。それは自分自身に対しても」

── この戦前の盛り上がり、その渦中の当事者であるということに関してはどう思っていますか?

「まあ、うれしいですけどね。日本中から注目されるということもなかなかないでしょうから。自分がこうしてその当事者として選ばれたことは本当にうれしいですし、やっぱり『いろいろ任されているんだろうな』というのは思います。でも、騒がれてはいるんですけど、普段生活をしていてそれを実感することはあんまりないんですよね」

── 試合に向かうと練習と身体を休めるということに集中するので、それだけ行動範囲がどんどん狭まって地味になっていきますよね。

「そうですね。こうして取材とか撮影も久々なので、『なんか久々に人と接したな』という感じはします。だからとくに変わったことはなくて、変わった点はSNSを見たりとか更新するのをやめたぐらいですかね」

── インスタグラムの過去の投稿を全部消しましたよね。そういう心理状態って気になるんですけど。

「いや、それはあんまり意味なくて。今回の試合が決まって、めっちゃチェックしに来る人が増えるじゃないですか。『那須川天心ってどんな人なんだ?』みたいな。それが嫌だったのかな?(笑)」

── 「那須川天心はちょっとナーバスになっているんじゃないか?」という見方もできるわけですけど。

「そうですね。でもナーバスになることもなく自然体でいられています。いつも以上に自然体でいられているのかなと思います」

後編につづく>>

那須川天心(なすかわ・てんしん)/1998年8月18日、千葉県生まれ。5歳から極真空手を始め、2009年、小学校5年で極真空手ジュニア世界大会で優勝、その後キックボクシングに転身。その後も数多くの大会を総ナメし2014年7月、RISE 100にてプロデビュー。翌年には村越優汰を下し、RISEバンタム級王座を獲得。2016年、ISKAオリエンタルルール世界バンタム級王座、2018年、RISE世界フェザー級王座と複数の王座を獲得した