那須川天心インタビュー(後編)前編:那須川天心が武尊との一戦に「やらないほうがいいんじゃないか...」と思ったワケ>> 6月19日に東京ドームで開催される格闘技イベント『THE MATCH』で、武尊との"世紀の一戦"に挑む那須川天心。格闘技…

那須川天心インタビュー(後編)

前編:那須川天心が武尊との一戦に「やらないほうがいいんじゃないか...」と思ったワケ>>

 6月19日に東京ドームで開催される格闘技イベント『THE MATCH』で、武尊との"世紀の一戦"に挑む那須川天心。格闘技人生最大にして、最強の相手である武尊に対してどのような戦いを挑むのか。また武尊のイメージとは。那須川天心が語った。



武尊との試合がキックボクサーとして最後の試合になる那須川天心(写真右)

実現するとは思わなかった

── 那須川選手は今回の武尊戦でキックを完全引退。今後もキックボクサーであり続けるならば、自身でキック界を盛り上げていけばいいけど、そうではないと。

「そこが大きいですね。しかも本来だったら、この前の4月の試合で終わりだったので、これは"エクストラステージ"というか」

── その引退の日が先延ばしになったことに関してはどうですか?

「以前から『ボクシングに行く』ということは公言していましたけど、それでもみんなが『やっぱり(武尊戦が)見たい』というふうに言ってくれたことはすごくうれしかったです」 

── そもそも本当に実現すると思っていましたか?

「いや、思っていなかったですね。それでもべつに、僕はどちらかというと『無理』と言われたらすぐに『わかりました』と納得するタイプなので。だから、たとえば好きな人に告白して『ごめんなさい』と言われたら『わかりました』ってなりますし(笑)。もともとそういう感覚なので、いつまでも『いいじゃん、いいじゃん、お願い』というふうにはなれないんですよね」

── あらためて、ファイターとしての武尊選手の印象を。

「本当に自分とは正反対だなと思いますね。僕は武尊選手のことを人としてはそんなに知らないですけど、性格とかも逆なのかなというふうに思ったりしますよね。発言の仕方だったりとか、SNSの使い方だったりとか、すべてが自分と真逆の考えをしているんだろうな、みたいな」

── 武尊選手は「この試合は実現しないかもしれない」と言われたとしても、その運命に身を任せないタイプですよね。「絶対にやろうよ。最後まであきらめない」っていう。

「そうかもしれないですね。ファイターとしても自分とはまったく逆だなと思いますね。あのスタイルを見ればわかりますよね? 僕は格闘技を競技としてやっていますけど、武尊選手の場合はまた違う。僕は相手としっかり距離をとって戦い、技のキレや正確さとかを意識していますけど、武尊選手の場合は『ガンガン前に出て気合いで倒す』みたいなスタイルですよね」

── そういうスタイルはやりやすいですか? やりづらいですか?

「僕のなかではやりやすいですけど、そのなかでも武尊選手は強い選手だなと思っていますので。だから『こういうタイプの選手なんだろうな』と決めつけないようにしています」

── とにかくあの打たれ強さは脅威だなと思いますよね。

「はい。それは思いますけど、打たれ強かったら勝つという競技でもないので。打たれ強いからこそ負ける時もあるし、弱点がない人はいないですから」

── 武尊選手は過去最強の相手ということで間違いないですか?

「だと思います。実力もそうですし、功績も認めています。だからこそ、戦う意味もあるし、お客さんも興奮するんじゃないかなと思いますね。まあ、試合をやるんですけど、僕は今でも本当に実現するのかって、ちょっと疑っていますもん。100%信じて練習もしていますし、倒す気でやっていますけど、『これ、本当にやるのかな?』みたいな」

武尊戦はキャリアの総決算

── 試合当日まで何が起こるか、何がひっくり返るかわからないと。

「そう」

── 何か特別、普段と変わった練習をしたりはしていますか?

「いや、特別はないですね。いつものように対策を立ててやっています。ただ最後のキックの試合なので、今までお世話になった人のところに練習に行ったりとかしています。たとえばボクシングの葛西(裕一)さんのところだったり、昔一緒に練習していた仲間がTEPPEN GYMに来てくれたりとか。それと父親(那須川弘幸氏)とのマンツーマンを復活させて、そういうものを全部吸収して向かうというか。そんな感じですね」



武尊戦に向けて静かに闘志を燃やす那須川天心

── キックのキャリア総決算。

「そんな感覚ですね。毎日が確認作業の繰り返しというか。あとは日が経てば経つほど、僕のキックの引退も近くなっているわけですから、後輩にちょっと技術を教えたりとかっていうこともやっています」

── 「KOで勝つ」とか「判定までいくだろうな」とかっていうイメージはありますか?

「いろんな想像ができますね。正直、前は『負けるかもしれない』と思ったり、そういう焦りみたいなものも多少はあったんですけど、もうなくなりましたね」

── 自分が負けのパターンはない。

「ないです。ここまで来たら運命に任せるしかない。そういえば最近、朝ランニングしている時とか、神社に行くようになりました」

── 神社に立ち寄って、そこでちょっと手を合わせるみたいな。

「そうです。それが多くなりましたね。まあ、お願いするというよりも『今、僕はこんな感じです。だから見ていてください』みたいな」

── 現在、気分転換やリフレッシュするために何かやっていることはありますか?

「あんまりやっていないですけど、何だろう? 友だちと他愛もない話をしたり、サウナに行ったりすることくらいですかね。だから、人生的には今は楽しくないですよね(笑)。いろいろな世界や景色が変わるのは、6月19日の試合が終わってからじゃないですか。だから『早く試合したいな』っていうのはありますね」

那須川天心(なすかわ・てんしん)/1998年8月18日、千葉県生まれ。5歳から極真空手を始め、2009年、小学校5年で極真空手ジュニア世界大会で優勝、その後キックボクシングに転身。その後も数多くの大会を総ナメし2014年7月、RISE 100にてプロデビュー。翌年には村越優汰を下し、RISEバンタム級王座を獲得。2016年、ISKAオリエンタルルール世界バンタム級王座、2018年、RISE世界フェザー級王座と複数の王座を獲得した