現地時間6月9日(以下同)、本拠地で行なわれたボストン・レッドソックス戦で4勝目を挙げ、打っては12号ホームラン。大谷…

 現地時間6月9日(以下同)、本拠地で行なわれたボストン・レッドソックス戦で4勝目を挙げ、打っては12号ホームラン。大谷翔平の投打にわたる活躍で待望の勝利を手にしたが、ロサンゼルス・エンゼルスは"千辛万苦"のなかにいる。



投打で活躍し、チームの連敗を止めた大谷(左)と、フィル・ネビン監督代行

 5月初旬はア・リーグ西地区の首位に立つなど、開幕から好スタートをきった。5月6日には、『MLB.com』によるプレーオフ進出確率予想で、「開幕前の44.7%から67.2%に上昇。22.5ポイントアップはMLB全30球団でもトップ」とも報じられ、8年ぶりのプレーオフ進出へ期待も高まった。

 ところが突然、5月末から連敗街道を突き進むことになる。6月8日までに球団ワーストの14連敗を記録。米予測サイト『ファイブ・サーティー・エイト』によるプレーオフ進出確率は22%(6月9日時点)となり、その機運も低下した。

 エンゼルスの混迷はさらに深まっていく。6月7日の朝、エンゼルスはジョー・マドン監督を解任し、後任にフィル・ネビン三塁ベースコーチを指名したことを発表。この報は、ファンや全米のメディア、とりわけエンゼルスの地元メディアに大きな衝撃を与えた。同日に行なわれた会見で、ペリー・ミナシアンGMは「(連敗脱出のため)新しい風を入れるべき」とその理由を説明。一方、マドン前監督は「突然のことで驚いている」と、まさに"寝耳に水"だったことを明かした。

 その球団フロントのやり方に、地元メディアは不信感を顕わにした。地元紙『オレンジカウンティ・レジスター』は、「(データ)分析が盛んとなった現在、シーズン途中での監督解雇は稀だ」と指摘し、「混乱の排除と、憂さ晴らしをするための前例を作った」と批判。

 さらに、同紙でエンゼルス番を務めるジェフ・フレッチャー記者は、「選手たちは、(連敗は)マドンの責任ではないし、もし今後に勝ってもネビンのおかげでもないことを理解している」と述べ、ネビン代理監督の初陣では、「ネビンは天才だ。オオタニに『二塁打を打て』とサインを出し、トラウトに『ホームランを打て』と指示した」と、監督を変えたフロントを皮肉った。彼の目には、"監督解任で問題を解決させよう"という球団の考えは、まったくの見当違いに映ったようだ。

先発とリリーフ陣が一気に崩壊

 しかし、わずか2週間でエンゼルスがここまで転落するとは誰も予想できなかった。現地メディアは低迷の原因を探り、さまざまな理由を挙げた。たとえば、「東海岸のチーム(トロント・ブルージェイズ、ニューヨーク・ヤンキース、フィラデルフィア・フィリーズ、ボストン・レッドソックス)と当たってしまったことが原因だ」という見方もあれば、解任されたマドン監督の采配も取り上げられている。

 さらに、『ロサンゼルス・タイムズ』からは「(本拠地のある)アナハイム前市長の呪いだ」という意見も出ている。記事によれば、エンゼルスの連敗が始まった5月24日は、エンゼルスの本拠地の土地売却を巡る不正疑惑が発覚して、その話が頓挫された日でもある。この疑惑に関わったとして、アナハイムのハリー・シドゥー市長はその前日に辞任した。

 このような眉唾モノの話は別として、現地メディアから特に指摘されているのは、「投手陣の崩壊と打撃力の低下が同時に起こったこと」だ。

 フレッチャー記者は投手陣の崩壊について、SNSでの投稿で「エンゼルスの負け方は主に2パターンある」といい、「先発による序盤の大量失点とリリーフ陣の崩壊だ」と指摘している。特にリリーフ陣の崩壊は著しく、「12連敗中、7回、またはそれ以降に逆転された試合は5つもある」と言及。同じような指摘は、データ分析サイト『ファングラフス』からも出ており、次のように述べられている。

「マドン解任前の12試合で、先発陣の防御率は6.88とFIP(守備が関与しない与四球、奪三振、被本塁打のみで評価する指標)は5.50を記録。先発ローテーション(6人)の平均投球回数はわずか4.5回で、与四球と被本塁打の比率も高くなった。リリーフ陣もよくはなく、防御率は5.88、FIPは5.10となった」

 米スポーツ誌『スポーティングニュース』は5月13日、「エンゼルスはついにファンに(プレーオフ進出を)信じる理由を与えた」という記事で、「(大谷を含めた)先発投手陣がしっかりと失点を抑えているのも見逃せない」と述べていた。フレッチャー記者もそれには同意しており、「(序盤の)投手陣は期待どおり、もしくはそれ以上の活躍をしていた」とも話していた。ところが、この連敗でチーム防御率はリーグ29位の6.40に悪化。先発投手陣とリリーフ陣の両方が一気に崩壊したことが、低迷の大きな原因になった、と見られている。

トラウトら打者たちも急失速

 そこに打撃力の低下が加わったことが、さらに拍車をかけた。5月上旬は得点、本塁打、長打率、OPSでMLBトップだったが、連敗中は極度の得点不足に悩まされた。たとえば、5月31日からのニューヨーク・フィラデルフィアでの6連戦では、43失点に対して12得点しか挙げられていない。スポーツメディア『ジ・アスレチック』でエンゼルスを担当するサム・ブラム記者は、6月9日にSNSで、「エンゼルスは(6月8日までの)8試合でたった1本塁打しか出ていない」という事実を投稿した。

 レギュラー野手、アンソニー・レンドンとテイラー・ウォードの故障者リスト入りが大きな負担となった。特にウォードは5月17日時点で、打率.376、出塁率.484、長打率.733、OPS1.217をマークし、各部門MLB1位の打撃4冠。ところが、5月20日にライトフェンスにぶつかり右肩を負傷。復帰後6試合27打席で打率.167、出塁率.259、長打率.333と低迷しはじめ、6月5日に「右ふととも裏の張り」で10日間の故障者リスト入りとなった。

 残った主軸もほぼ同じタイミングでスランプに陥った。主砲マイク・トラウトは、自己キャリアワーストの26打席無安打というスランプに陥っていた。前出の『ファングラフス』は、「連敗が始まる前は、wRC+(打席あたりの得点創出できるかを計る指標。平均的な打者の数値は100)が221だったトラウトは、マドン解任前の12試合49打席で、打率/出塁率/長打率をそれぞれ114/.204/.205を記録」と、その悪化具合を紹介している。

 悪いことはさらに続く。6月7日の試合途中で、トラウトは「左股関節の張り」を訴えて途中交代。この日、第1打席で念願の14号2ランを放ったばかりだった。幸い故障者リストには入らなかったものの、トラウトはその日以降、欠場中だ。

 頼みの綱の大谷も、本拠地でのトロント・ブルージェイズ戦(5月29日)での2打席連続本塁打を最後に快音が出ていなかった。大谷は8日までに5試合連続安打を記録したが、いずれも得点にはつながらず。トラウト離脱前の6日には、地元紙『ロサンゼルス・タイムズ』のマイク・ディジョヴァンナ記者が、「オオタニとトラウトの打順を変えるべき」と提言。同記者は続けて、「オオタニは、トラウトの前では四球で歩こうとするメンタリティが強いように見える。彼はあまりに受動的である。もっと積極的にスイングして打ってもらわないと」と苦言を呈した。

 それでも、エンゼルス専門メディア『ヘイロー・ハングアウト』も「この14連敗を止められる選手はショウヘイ・オオタニしかいない」という記事を出したが、大谷は気迫のプレーでその期待に応えて見せた。

 エンゼルスはかろうじてア・リーグ西地区の2位をキープしている。シーズンも約100試合残っており、MLBは今季からプレーオフ進出枠が各リーグ5球団から6球団に拡大。フレッチャー記者も「(プレーオフ進出の)望みはまだ十分にある」と話している。主力の離脱が続くなかで、今後の大谷の活躍がエンゼルス浮上のカギを握っていることは間違いない。