3つのベルトを手にした井上が目指すのは、4団体統一と階級を上げたスーパーバンタムでの新たな挑戦だ。(C)Getty Images ボクシングWBAスーパー&IBF世界バンタム級統一王者・井上尚弥が6月7日、WBC同級王者ノニト・ドネ…

3つのベルトを手にした井上が目指すのは、4団体統一と階級を上げたスーパーバンタムでの新たな挑戦だ。(C)Getty Images

 ボクシングWBAスーパー&IBF世界バンタム級統一王者・井上尚弥が6月7日、WBC同級王者ノニト・ドネア(フィリピン)とさいたまスーパーアリーナで3団体王座統一戦を行い、圧倒的な力を見せつけて2ラウンドTKO勝ちを収めた。

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 この注目のビッグマッチを制した井上を、2014年前からサポートしているのが、明治の村野あずさ管理栄養士だ。

 当初は大幅な減量に苦しんでいた井上も、村野さんとの食事改革でカラダづくりを見直し、階級を上げた今では、最終的に7、8キロの減量で済んでいるという。しかし、それでも減量末期に迎える“最後の2キロ”を落とす際には、やはりキツさはあるようだ。

「最後の1週間ぐらいは精神的にもキツいと思いますし、最後は水分で調整は必要になります。でも、皆さんがよく想像しているような絶食絶飲だったり、何日間もサウナで発汗・脱水のような形で減量しているわけではありません。井上選手も、そうした方法はコンディション的にマイナスだと分かっています。減量中もまったく食事ができないわけではなくて、少しでも栄養を摂りながら減量をしていこうと2日前までは食事としての固形物も食べています。もちろん、最後の1,2日間は相当過酷ですが、そこをクリアした後の最後の1日で、コンディション調整をものすごく上手にできるのも井上選手の特長です」

 一流ボクサーでも、減量という大きな壁を乗り越えるのは至難の業だという村野さん。これまで見てきたボクサーの現実を語ってくれた。

「やっぱり計量をクリアする事だけにフォーカスして、栄養を考えずに食べない・飲まないという無理のある減量では厳しいですね。私もこれまで多くのボクサーの様子を近くで見させてもらって、計量にも立ち会っていますが、中には適正階級で試合を組めていないと感じる選手もいました。そういう選手は、絶食絶飲で何とか体重を落とせても、その後の最後の1日でうまく体重を戻すことができずコンディションを崩しやすいです」

「減量が凄くきついと、計量が終わった後の食事でリバウンドがきます。解放感というか、そこまでのストレスとしんどさで、急激に水分をカラダの中に入れようとするんです。ただ、カラダがそれを受け付けない状態になっていますから、無理やり飲んで食べて体重を戻そうとしても、逆に気持ち悪くなって、もどしてしまう選手もいます」

「実際に井上選手の対戦相手にも、そうした選手がいました。短期間で急激に水分を抜く減量方法をとり直前まで体重調整に苦戦していた結果、計量の時間に1時間も遅れで到着。瞳孔が開き目の焦点もあっていないような状況で自力では歩けずスタッフに支えられながら計量会場に向かうという危険な状態でした。なんとか計量をパスした直後、ドリンクを一気飲みしていましたが、その後の調整が大変だったと聞いています。一方、井上選手はその様子に怒りを感じながらも至って冷静に、いつも通りゆっくり時間をかけながら水分や糖質の補給を行うことができました。その様子からも『明日は絶対勝てる』という自信を感じました」

 自分のカラダを理解することの難しさは、プロであっても変わらない。しかし、井上は減量だけでなく、試合までの調整の上手さも備わっていると村野さんは言う。

「そういった選手と比べると井上選手はまったく違います。本当に調整が上手です。計量がゴールではなく、リングに立って試合が終わるところまで全てを計算しながら、トータルのコンディショニングができています。そのあたりは、この8年間で本当に進化していると感じます」

 長年支え続ける村野さんの目から見ても、井上の進化スピードはすさまじいようだ。次戦でもさらに強くなった“モンスター”が、我々を驚かせてくれるに違いない。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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