NPBの支配下登録期限が残り2カ月を切るなか、スカウトたちの注目をひそかに集めている剛腕投手がいる。 昨年セサル・バル…
NPBの支配下登録期限が残り2カ月を切るなか、スカウトたちの注目をひそかに集めている剛腕投手がいる。
昨年セサル・バルガスをオリックス、ダリエル・アルバレスをソフトバンクに送り出したBCリーグの茨城アストロプラネッツに加入したばかりの右腕、デイビッド・ペレズだ。

BCリーグの茨城アストロプラネッツに加入したドミニカ出身のデイビッド・ペレズ
元レンジャーズの有望株
196センチ、108キロという巨漢のドミニカ共和国出身の29歳。来日初登板となった5月28日の巨人三軍戦で球速153キロを計測すると、2連投となった6月1日の埼玉武蔵ヒートベアーズ戦では同155キロをマーク。来日前にはアメリカで98マイル(約157.7キロ)を記録したという話もある。
興味深いのが、独特の経歴だ。2017年にロサンゼルス・エンゼルス傘下のマイナー球団オレム・アウルズ(ルーキーリーグ)でプレーしたのを最後に、4年間も現役から離れていたのだ。
なぜ、長いブランクを経て茨城にやって来ることになったのか。
「今年の2月末か3月前半、ピッツバーグ・パイレーツのスカウトと電話で話していたら、『デイビッド・ペレズという本当に面白いヤツがいるから、フロリダに見に来たらどうだ?』と言われたんです」
そう明かすのは、茨城球団GMの色川冬馬氏だ。同氏はイランやパキスタン、香港の代表チームを率いた経験があり、昨年にはロサンゼルス・ドジャースに右腕投手の松田康甫(こうすけ)を送り出すなど独自のルートを持っている。その色川GMが、アジアンブリーズというトラベリングチームの活動をアリゾナで行なっていた頃、パイレーツに変わった経歴の"逸材"がいると聞きつけた。
ただし、ペレズは選手として在籍していたわけではない。投手コーチとしてマイナーリーガーの指導にあたっていた。
もともとペレズは2009年、16歳の時にテキサス・レンジャーズと42万5000ドル(現在のレートで約5560万円)で契約した。翌年ドミニカで行なわれたサマーリーグでは14試合に先発して防御率1.41、70イニングで68奪三振、与四球8という好成績を残し、MLBの公式ページはレンジャーズの2011年プロスペクト(有望株)ランキングで9位に選出した。
だが、2012年はわずか9イニングを投げたあとにトミー・ジョン手術を受け、以降は伸び悩んだ。結局メジャー昇格を果たせぬまま、2017年シーズンを最後に選手生活から退いている。
色川GMによると、その後はアメリカの大学で投手コーチを2年間務めた後、パイレーツで同職へ。マイナーリーガーたちを指導しながら自身もキャッチボールやトレーニングを続け、ライブBP(実戦形式の打撃練習)で時折投げると98マイルを計測したという。スピードに加えて制球力もあり、スプリットやスライダー、ツーシームのキレもあるという情報を色川GMはキャッチした。
「155キロ前後のストレートに加えて140キロ前後のスプリット、130キロ前後のスライダーと、10キロ幅で各球種を持っています。これは十分に日本のトップリーグでやれる可能性があるだろうと思いました」
ペレズ獲得の意義
4年のブランクを経て現役復帰するのは、日本ではなかなか例がない。逆にその点も魅力的だったと色川GMは語る。
「日本人の独立リーガーもそうですが、既存の仕組みや組織から外れてもなお野球がしたいとか、野球で人生を変えたい選手たちが独立リーグに集まってきます。いい意味で、再チャレンジの場所ということですね。デイビッドのように選手生活が4年間プツっと切れている選手の獲得は、独立リーグだからこそできると思います。茨城でシーズンを通して投げられると証明できれば、NPBへのステップが大いにあり得るだろうと考えました」
冒頭で述べたように、昨シーズン途中、茨城球団はふたりの外国人選手をNPBに送り出した。これは獲得時から色川GMが狙っていたことだった。選手のキャリアが開けることに加え、球団には移籍金が発生するので経営的にも大きい。
昨年には西武やオリックスなどで活躍したアレックス・カブレラの息子でメジャー経験もあるラモン・カブレラを獲得したように、"話題性"も重要なポイントだと色川GMは捉えている。
背景にあるのが、独立リーグの置かれた状況だ。同じ名を冠しても、日米でその環境は大きく異なっている。たとえば、赤沼淳平投手が所属するアメリカの独立リーグ球団シャンバーグ・ブーマーズはシカゴ市外に本拠地を置き、観衆6000人を集めることも珍しくないという。専用球場を持つことに加え、スタジアムに行けば友人や知人と一緒にビールを楽しめるという"文化"があるからだ。
対して日本の独立リーグは公営球場を転々とし、3ケタ台の観衆にとどまることが日常的だ。社会における存在感が極端に小さく、色川GMは一石を投じられないかと考えている。
「アメリカの独立リーグはインフラが整っていることに加え、選手がメジャーリーグにステップアップして有名になっていきます。そうした選手を独立リーグで先に見られるのは、ファンからすれば"永遠の自慢話"になるじゃないですか。僕はGMの立場としてそういう選手を連れてきて地域を盛り上げたい。
デイビッドが4年間のブランクを経て復帰するのは、日本人選手の勇気にもなると思います。日本は1回失敗したらチャレンジしにくい社会ですが、その中でポジティブに自分の人生をつくっていく姿はうちの選手たちにも大きく影響するはずです。NPBに行けるかはタイミングもあることなのでわかりませんが、うちのチーム、地域、リーグ、そして野球界全体にとっても意味のあることにしていきたい」
NPB入りの可能性は?
ペレズは選手のキャリアを断念したあと、投手コーチの立場から俯瞰して野球を眺めることで違った視点を手に入れ、ピッチャーとしてレベルアップした。ドミニカのサマーリーグで17歳だった頃は球速90マイル前半(145〜150キロ程度)だったと報じられているが、4年のブランクを経て30歳目前の今は155キロを計測する。
そうして投手として自身の成長を実感したことが、今回の現役復帰につながった。獲得交渉にあたった色川GMが代弁する。
「デイビッドはコーチをしながら『現役時代にもっとこうしておけばよかった』という後悔のような念もあり、『もう一度、選手として勝負したい』という気持ちを持っていたみたいです。結婚していて子どももいますが、奥さんも含めて応援してくれると。パイレーツのコーチという安定を捨てて、我々の世界にまた飛び込んできてくれました」
地球の裏側でキャリアをスタートさせた元プロスペクトは、30歳を迎える今年、4年のブランクを経て花開かせることはできるだろうか。
ひとつ言えるのは、BCリーグで投げている球は一級品ということだ。角度のあるストレートや鋭く落ちるスプリットは、見慣れないNPBの打者も手を焼く可能性は十分にある。優勝やクライマックスシリーズ出場に向けて最後の補強を狙う球団にとって"ジョーカー"となるかもしれない。実際、すでに高い評価が聞かれると色川GMは言う。
「視察に来たNPBのスカウトは『なんで一度やめたんだろう?』と言っていました。それくらいの球を投げています。デイビッドが上に行くにしろ、行かないにしろ、こういう挑戦をしているピッチャーがいると多くの人に知ってほしい。独立リーグで見られるのは今しかないかもしれないので、ぜひ見にきてください」
日本球界にとってさまざまな意義が込められた、ドミニカンの挑戦は果たしてシンデレラストーリーとして結実するだろうか。独立リーグだからこそ実現できた今回のチャレンジを、多くの野球ファンにぜひ見届けてほしい。