Amazon プライム・ビデオで独占生配信 ボクシングのWBAスーパー&IBF世界バンタム級統一王者・井上尚弥(大橋)が7日、さいたまスーパーアリーナでWBC同級王者ノニト・ドネア(フィリピン)に2回1分24秒TKO勝ちし、日本人初の3団体…

Amazon プライム・ビデオで独占生配信

 ボクシングのWBAスーパー&IBF世界バンタム級統一王者・井上尚弥(大橋)が7日、さいたまスーパーアリーナでWBC同級王者ノニト・ドネア(フィリピン)に2回1分24秒TKO勝ちし、日本人初の3団体王座統一に成功した。4団体統一の偉業に王手をかけた裏で、陣営の大橋秀行会長ら関係者が抱えていたのは「不安」。しかし、そんな周囲の想いはモンスターにしか描けない筋書きに吹き飛ばされた。戦績は29歳の井上が23勝(20KO)、39歳のドネアが42勝(28KO)7敗。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 井上の「ベストバウト」が更新された。1万7000人の息が詰まった緊張感。決戦のリングに登場した両雄に大歓声が突き刺さった。初回のゴングが鳴り、ドネアが繰り出したのは左フック。代名詞を右目付近に受けた。「効いてはいない。引き締まった」。骨折させられた前戦のようにはさせない。「当て返してやる」。残り10秒でエンジンをフルスロットルにした。

 右ストレートが左テンプルを貫いた。39歳の生きる伝説はたまらずダウン。立ち上がったが、再開直後に初回終了で助けられた。

 1分間のインターバル。井上はセコンドの父・真吾トレーナーに「行かない」と様子を見る作戦を伝えた。「初回終了間際のダウン。ドネアにどれだけダメージが残っているかわからない」。早期KOを期待する観衆をよそに、自分に言い聞かせるように冷静さを保とうと努めた。しかし、モンスターの本能は抑えられない。

 左フックでダメージを与え、ロープ際で猛攻。「まだドネアのパンチは生きている」。一発で形勢逆転を試みる相手に再び左フックを入れ、ぐらりと膝を折らせた。連打でコーナーに追いつめ、とどめの一発も左フック。2度目のダウンを奪い、ライバルを大の字に倒した。完全決着だ。

大橋会長は試合勘を指摘、父は軽度の故障を明かす

 2019年11月7日のワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)決勝以来、2年7か月ぶりの再戦。当時は井上が歴史的死闘の末に判定勝ちし、多くの海外メディアから「年間最高試合」に選ばれた。試合直後、井上が明かしたのは「楽しかった」「やっとボクシングをやっている感じがした」という充実感。第2章はどうだったのか。

「また違った楽しさがある。ダウンを取った瞬間、夢じゃないかと思うほど上手く行き過ぎていました。自分をセーブするために慎重に進めていました。がむしゃらに行くこともなく、乱れることもなく、出すパンチ一つひとつ覚えているくらい冷静に進めていた。その面がよかったと思う。それほど攻め急がなかったけど、ここで終わらせないとこの先のステージに進めないと思っていた」

 完全決着の裏には、陣営の「不安」があった。大橋会長が指摘したのは「強敵への試合勘」。報道陣に明かした。

「私たち関係者の間ではヤバイという声があった。最近戦ってきた相手の質が違う。尚弥は強い相手を避けてきたのではなく、やる相手がいなかった。ここ最近の試合では一番不安があった」

 第1戦以降、井上は明らかな格下相手に3試合、ドネアは正規王者、暫定王者との緊迫した2試合だった。しかし、結果は井上の圧勝。大橋会長は「凄かった。ベストバウトだよね。過去にいろんな試合があったけど、それでもベストバウトだった。尚弥のことを凄い凄いと思っていたけど、ほんとに凄かった。凄い男ですね」と大興奮で繰り返した。

 一方、真吾トレーナーは「調子自体はバッチリでした。けど、心配なところがあった。言ってしまえば故障のところ。悪化したら嫌だなと思っていた。1か月ちょっと前からですね」と説明。具体的な部位などは伏せ「ちょっと痛みがある」と明かした。それでも、明確な診断名を受けるほどではなかったようで、「いやぁ、大したもんですね。凄いですよ」と息子の衝撃TKOに鼻高々だった。

「ドラマにしない」と自分にプレッシャーをかけた井上「向上心をつくりたい」

 周囲が少しネガティブな印象を抱えていた一方、主役は自分にプレッシャーを掛け続けた。「ドラマ・イン・サイタマ」と称賛された第1戦。「今回はドラマにしない」「何もさせずに勝つ」「皆さんの期待を超える試合をする」。物語の結末はモンスターのシナリオ通り。自分自身を追い詰めながら気持ちを作ってきた。

「トレーニング、試合に向けて向上心をつくりたい。こういう発言をしたからにはやらなきゃいけないので。それでも不安な面があるし、それに打ち勝っていくからこそ今日の試合の結果がある」

 2試合で計14ラウンド、40分24秒を戦った。ドネアへの尊敬の念は尽きない。

「WBSSの決勝で戦えて、この3団体統一を懸けて戦えて、ドネアだからこそここまでできた。学生時代から憧れているチャンピオンだったので、こういう試合を生んだ。自分にとってはこの先の4団体、もしくは階級を上げる中でドネアと戦えて誇りに思います」

 いよいよ4団体統一にリーチ。ターゲットはWBO王者ポール・バトラー(英国)だ。国内外を問わず、年内開催に向けて即交渉に入る予定だが、難航すれば1階級上のスーパーバンタム級のベルトを狙う。

「バンタム級は適正階級ではありますけど、さらに上に挑戦したい気持ちもある。4団体統一戦が叶わないのなら、新たなステージで挑戦していきたい」

「ドラマにしない」と宣言し、本当に期待以上の試合を熱演。ドラマを超えたドラマにファンは酔いしれた。こんな筋書きはモンスターにしか描けない。4団体統一は世界でも8人しか達成しておらず、軽量級では初の偉業。日本ボクシング界の「最高傑作」はどこまで高みに昇るのか。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)