江川卓氏独占インタビュー第3回、“昭和の怪物”が“令和の怪物”を語る 巨人OBで野球解説者の江川卓氏の単独インタビュー第3回。今回からは2回に渡り、人気のYouTubeチャンネル「江川卓のたかされ」でも何度か解説で名前を挙げているロッテ・佐…

江川卓氏独占インタビュー第3回、“昭和の怪物”が“令和の怪物”を語る

 巨人OBで野球解説者の江川卓氏の単独インタビュー第3回。今回からは2回に渡り、人気のYouTubeチャンネル「江川卓のたかされ」でも何度か解説で名前を挙げているロッテ・佐々木朗希投手について。令和の怪物はどのように成長の階段を昇っていくのか――。160キロ台を連発している右腕だが、江川氏はもし佐々木朗と同じ190センチの身長があれば「170キロを投げられる」と推測した。果たして、その根拠とは?【聞き手・楢崎豊、宮脇広久】

――今から約3年前の2019年。6月2日、江川さんは大船渡高校(岩手)時代の佐々木朗希投手の練習試合を番組の解説で視察されました。江川さんはその後、報道陣の取材に応じていただき、佐々木朗希投手のことを「うらやましい」と仰っていました。時が経ち、今も「うらやましい」と思うところはありますか?

「その時と変わっていません。僕は身長が183センチなんですが、やっぱり身長が5センチ高いというのは、速い球を投げるという点ではかなり有利なことです。バッターに対する威圧感を考えても、非常に有利です。だから自分にも、もう少し身長があったらなと思うことがあるのです」

――身長が5センチ違うと、高さや角度がつくなどのメリットがありそうですが、球速にはどのような影響があるとお考えですか?

「高さはあまり気にしたことはないですね。ただ、身長が5センチ高いというだけで腕の振りも大きくなりますし、バッターの近くで球が離せるわけですから、5センチはかなり違います。自分が190センチだったら、170キロぐらい投げるかなって……思うくらいです」

――170キロ……ですか。

「当時の周りの平均身長が178センチくらいだったので、それから比べると高かったから、他の方より球が速く感じたのだとは思います。(数値として)スピードを単純に出すならば、回転数を考えながら、ショートバウンドや低めの球を投げればいいんです。理論上は(170キロに)なるということです」

――視察された時は佐久長聖(長野)と練習試合でした。佐々木朗希投手は9回9安打4失点、13奪三振。その日の最速は153キロでした。変化球が中心で、ストレートも140キロ後半がほとんどでした。どのようにご覧になっていましたか?

「僕は後ろから見るのが好きなので、ブルペンを捕手の後ろから見ていました。当時は手に掛かったのは3球に1球ぐらい。その1球のボールが続けば、すごく良いピッチャーになるなと思っていました。まだ完成されていないので、いずれ体もできてきたら、いい投手になっていくだろうな、と」

――今のロッテでのピッチングではどれくらいの割合で手にかかった球を投げている印象ですか?

「試合をすべて見ていたわけではないですけれど、ニュースで見ていると、80%ぐらいになってきています。まだ少し伸びる可能性があるなという風に思いますね。フォークが多いのではないかと言う方もいらっしゃるのですが、それは今のところは大丈夫じゃないかな。どういう方向に進んでいくのか……」

江川氏が一番好きな打者の打ち取り方は「一番好きなコースの“すぐ横”」へ投げる

――どういう方向と言いますと?

「完全試合をしたオリックス戦で19個の三振を奪いました。フォークボールで三振を奪っていることが多かったです。なので、今のところはフォークボールがウイニングショットとなっています。それがストレートで三振を取れるようになってくると、一つ段階が上がるなという風に思います。ですが、問題はそこから。そっち(スピードに)に向かうのかどうか。それは個々の考え方ですが、もう少し“精密度”を上げる方向にいくのかどうかの分かれ道が来ます。本人次第ですからどうなるかわかりませんが、楽しみです」

――仮の話になってしまうのですが、もしも、江川さんが170キロ投手になれたとしたら、真っすぐのスピードを追い求めるのか、それとも制球を求めるのか、どのような方向へ進むのでしょうか?

「僕は制球です。170キロの方にはいかないです。どうやったら(球速が)出るのかは知っていますが、そっち(スピード)を追わないですね。自分の好きなように言わせてもらうのならば、僕はバッターが一番好きなところのすぐ横(で打ち取ること)が一番好きなんです。少し間違えたら本塁打になる、危険なところなんですけどね。その付近で勝負してきました」

――結果以上に相手のバッターにダメージを与える打ち取り方ですね。それが理想のピッチングということになりますか?

「そうですね。ある意味ではそうかもしれませんね。そこが一番楽しいところです。打った方も、楽しいと思いますけどね。そこの戦いが一番面白いですね。(現役時代は)そういう戦い方をしていました」

――ストレートの話になるのですが、江川さんのストレートはホップするという風に打者から言われていました。ご自身の中で、佐々木朗希投手のストレートとは質が違うと感じていますか?

「そうですね。佐々木くんの方がバッターの方に(近づいて)行ってから上がっていくような気がしますね。僕の場合はもっと手前から上がっていくんじゃないかと思います」

――どちらも打者にとっては脅威ですね。

「どちらが良いとか悪いとかではなく、僕の方が多分ちょっと回転数が多いので、早めに上がってくる。だから、佐々木投手よりもボールが高いと思います。ボールの中で1個ぐらいの差です。多分、佐々木投手の球は低いところから上がってくる。そこでフォークボールが落ちるので、打者は全部、振ってしまう。高めに(ホップする感じで)行く(元阪神の)藤川さんの球の方が、僕の直球に近いと思います」

(第4回に続く)

○江川卓(えがわ・すぐる) 1955年5月25日生まれ、福島県出身。作新学院高(栃木)時代にノーヒット・ノーラン12回、イニング連続145回無失点など数々の記録を達成し、甲子園でも活躍。1978年に巨人に入団。9年間で135勝を挙げ、MVP1回、最多勝2回、最優秀防御率1回。1987年に現役を引退後は、野球解説者・評論家として多方面で活躍。チャンネル名の「たかされ」は座右の銘でもある「たかが野球、されど野球」、著書の「たかが江川、されど江川」というところから。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)