プロへ進んだ先輩の影響 身長188センチ、体重88キロの大型右腕が両腕を頭上に掲げる。昔ながらのワインドアップモーションは、緑に囲まれた札幌円山球場でよく映えた。 苫小牧中央高の斉藤優汰は今春、話題を集めた投手だった。室蘭地区予選では、自己…
プロへ進んだ先輩の影響
身長188センチ、体重88キロの大型右腕が両腕を頭上に掲げる。昔ながらのワインドアップモーションは、緑に囲まれた札幌円山球場でよく映えた。
苫小牧中央高の斉藤優汰は今春、話題を集めた投手だった。室蘭地区予選では、自己最速を2キロ更新する150キロをマーク。5月24日の全道大会1回戦・北海戦には多くのプロスカウトが視察に訪れた。
この春、自己最速の150キロをマークした苫小牧中央高の斉藤優汰
「再現性」がもてはやされる現代では、ランナーの有無にかかわらずセットポジションから投球する投手が多い。左足を高々と上げるフォームの佐々木朗希(ロッテ)にしても、セットポジションから始動する。
なぜ、ワインドアップなのか。その質問に対する斉藤の答えがふるっていた。
「ワインドアップのほうがカッコいいなと思って」
カッコいい先輩もいた。根本悠楓(はるか)。苫小牧中央の2学年上の左投手で、2020年ドラフト5位で日本ハムへと進んでいる。根本がワインドアップだった影響を受け、斉藤の投球スタイルは徐々に固まっていく。中学2年秋まで捕手と投手経験は浅かったものの、渡邊宏禎監督の指導のもとバランスのいい投球フォームをつくり上げた。
「1、2年生の頃はワインドアップで投げても下半身が弱くて、軸足にうまく体重を乗せられなかったんです。冬場に下半身を鍛えたことで、軸足にしっかり乗せられるようになって、スピードもキレも出るようになり、球がばらつかなくなりました」
北海戦では、その成長ぶりをいかんなく発揮した。渡邊監督が「立ち上がりに難がある」と危惧したとおり、1回表の守備で2人のランナーを還す暴投を犯し2失点。それでも、2回以降の斉藤は常にワインドアップで投げ続けた。6回表までの打者15人をすべて打ちとったのだ。
斉藤は「カーブ、スライダーの変化球でカウントをとれたのが大きかった」と振り返る。ただし、そんな変化球が生きたのも、捕手に向かって加速するようなストレートがあってこそだ。斉藤は自分の理想のストレートについて、こう語る。
「物理的にはあり得ないんですけど、低めを這うようにしてアウトコースに収まるようなボールを投げたいです」
進路はプロ志望
3対2とリードして迎えた試合終盤には、そのストレートが自分の身を助けた。名門・北海が相次いで敢行したスクイズを、渾身のストレートでファウルにしたのだ。
9回表一死三塁の場面では、「バントは得意」と語る北海の3番打者・小原海月がスクイズを試みるも、捕邪飛に倒れている。試合後、小原はこう語っている。
「高めの真っすぐが思ったよりも伸びてきました。自分の実力不足です。ここまでボールが伸びるピッチャーと対戦したことがありませんでした」
一方の斉藤は「フライになってくれたらいいな」と念じながら、ストレートを投じていたという。
北海戦は9回を投げきり、被安打はわずか3。奪った三振数は11を数えた。さらに「自分にしては珍しくフォアボールを出さなかった」と自画自賛したように、無四球の制球力もアピールした。
バックネット裏で快投を目の当たりにしたある北海道地区担当スカウトは、「こんなにいいピッチングは初めて見ました」と冗談交じりに語った。とはいえ、大舞台で最高のパフォーマンスを見せられるのも、プロスカウトが求める立派な能力だ。
中1日を挟んで迎えた釧路工との準々決勝では、8回二死一、二塁のピンチで2番手左腕の横野大飛が指の爪を割るアクシデント。登板予定のなかった斉藤が、急遽リリーフのマウンドに上がった。
「今日は短いイニングなので、コントロールより力で押していこうと思いました」
いきなりギアを上げた斉藤は、残る打者4人をあっさりと片づけ、チームをベスト4進出に導いた。
試合後、渡邊監督はこうつぶやいた。
「この大会でひと回り大きくなったかな。見ていて、正直言って『大丈夫だろうな』と思っていました」
進路はプロ志望だ。強く、たくましい肉体。うなりをあげる快速球と、変化球でカウントを整えられるコントロール。この春のマウンドで自信を得た瑞々しさ。北の大地ですくすくと育つこの逸材右腕が、秋までにどれだけ評価を高めるのか。そのワインドアップモーションには、大きな夢が詰まっている。