) 2020年11月、スターダムに参戦し、中野たむ、白川未奈と共に「コズミック・エンジェルズ」を結成したウナギ・サヤカ。12月にはアーティスト・オブ・スターダム王座のベルトを戴冠した。これまでの歩み、今後についても語ったウナギ・サヤカ ph…

 2020年11月、スターダムに参戦し、中野たむ、白川未奈と共に「コズミック・エンジェルズ」を結成したウナギ・サヤカ。12月にはアーティスト・オブ・スターダム王座のベルトを戴冠した。


これまでの歩み、今後についても語ったウナギ・サヤカ

 photo by 林ユバ

 翌年1月、エディオンアリーナ大阪大会にて「(スターライト・)キッドに負けて悔しいです。偉い人、もっと強い奴とシングルやらせてください!」と直訴。2月、「ウナギ・カブキ7番勝負」が行なわれることになった。対戦相手は、ジュリア、AZM、岩谷麻優、ひめか、小波、ビー・プレストリ―、朱里という強豪たちだ。その月の11試合中、7試合がシングルマッチという過酷な日々が始まった。

「ゲロですよね、マジで。言ったこっちも、あの7人が来るとは思ってない。麻優さんと朱里さんの時は、マジで試合中に泣きました。ジュリアさんもかな。私が立つまで鬼みたいな顔して待ってるんですよ。『お前、自分で立て』みたいな。普段って相手を立たせるじゃないですか。でも立つまで待ってる。立ったら立ったで来るし、立たないと怒ってるし。うわあ、やだなあって。めっちゃ怖かった」

 特に岩谷とのシングルが忘れられないという。場外に出て、笑顔で待っている。テーピングを巻いているところを、ガンガン攻撃してくる......。

「『性格わるっ!』と思いました。でもそういうところから、『この人も死ぬほど試練を乗り越えてきたんだろうな』って感じて。試合のあとには、麻優さんがハイスピード(王座)に泣きながら挑戦する動画を見て、麻優さんもこんな時があったんだなあと。そういう意味で、麻優さんの存在は励みになりましたね」

 7番勝負を通じて、成長を感じる余裕はなかった。しかし欠場せずに乗り越えられたことが、大きな達成感に繋がった。

「このメンツとシングルできるって、本当にないじゃないですか。死ぬほどラッキーだと思ったし、『7番勝負、試されてんのはそっちだぞ』くらいの感じでした。フニャフニャ小僧みたいな私とのシングルで、終わろうと思えば"瞬殺"できたと思うんですよ。でも、対戦相手の人たちが引き出してくれたのをすごい感じましたね」

 3月3日、スターダム日本武道館大会では、オールスター・ランブルに出場。24選手が出場する中、最後に愛川ゆず希を破り、勝利した。

■物議を醸した"査定マッチ"


試合中のウナギ

 写真提供/スターダム

 7月、白川未奈が持つフューチャー・オブ・スターダム王座のベルトを奪取。「20歳以下」「キャリア3年未満」のいずれかを満たす選手を対象としたタイトル。王者・ウナギは挑戦者に、スターダム初参戦の桜井まい、月山和香を次々と指名し、"査定マッチ"として物議を醸した。

「初めてスターダムに上がったリングが、タイトルマッチなんです。たぶんいきなりハードルが高いことをやってたと思うんですけど、それを越えたらどんな試合でもできる。新しく入った人間は叩かれる傾向にあるけど、変に叩かれることを恐れないでほしかった。

 それに、飯田(沙耶)とか舞華とかが巻いてた時って、ちょっと格が高いイメージというか、『私の目標はフューチャーです』って言いにくい雰囲気があったんですよ。でもこのベルトは期限があるからこそ、権利がある人たちが全員で『取りたいです』っていうベルトにしたかった。遠慮しない人間作り、カブキ流の教育、みたいな感じですね」

「団体のことを考えてますね」と言うと、「考えてないです」と笑う。そうしたほうが面白いからしているだけ、と。

「あの時、本当に全員が『ベルトがほしい』って言ってたんですよ。今まで言ってなかった人たちが『ウナギが巻いてるなら、私だって』みたいな。それでもいいんです。みんなが巻きたいって言えるベルトが一番いい。赤(ワールド・オブ・スターダム王座)って、たぶんみんなが巻きたいって思ってるけど、全員が巻きたいとは言わないじゃないですか。そういう"日本人あるある"の遠慮を取り払ってほしいという意味での査定マッチでした」

 ウナギはアンチに対して、よくこう言う。「あなたのトラウマになりたい」――。普通だと思われるくらいなら、徹底的に嫌われるほうがよっぽどいいと彼女は考えている。

「『人間何年生』っていう法則が自分の中にあるんです。人間は徳を積んでいないと人間に生まれ変われないんですよ。ウナは何回も人間やってるけど、アンチたちはまだ人間1年目だから、これを言ったら人が傷つくとかがわかってない。自分の気持ちを抑えることができない、人間になりたての奴が言ってるだけだから、『こいつ、人間1年生かよ!』みたいな感じに思ってます。『お前、そんな感情動かされてんの? ざまあだな!』と。本当に思うツボです。人間の感情を動かしてナンボなんで」

■いい意味でプロレスを飛び出したい

 コズミック・エンジェルズは快進撃を続け、アーティスト・オブ・スターダム王座V7という最多防衛記録を樹立。しかし、2021年10月3日、名古屋大会で8度目の防衛に失敗し、ベルトを失った。

「もちろんショックだし、悔しいんですけど、どちらかというと私の中では、もうベルトがなくても3人でいろんな人と勝負できる自信があったから、一旦アーティストに育ててもらうというターンは終わったのかな、という感覚でした。ベルトがなくても『コズミック・エンジェルズが一番です』って言える自信がある。落としてもなお、あのベルトはコズミック・エンジェルズのイメージがあるって言われるくらい、うちらの中では濃いベルトでした。その自信もあるし、感謝もあるし、不思議な感じですね。たぶん本当に育ててもらったんでしょうね、あのベルトに」

 最近では、長与千種率いる団体・マーベラスを意識した発言を繰り返している。「彩羽(匠)選手と闘いたい?」と聞くと、間髪入れずに「闘いたい!」と答える。

「長与さんの"後継者"って、めっちゃすごいじゃないですか。なのに、なぜか彼女は自分のためだけに闘わない。5★STAR(GP)の時も『マーベラスのために』と言っていて、私はすごく違和感があったんですよ。シングルをやってるのに、『この人はなんのために闘ってるんだろう?』と思った。めっちゃ真面目じゃないですか。いやあ、もう脱がしたいですよね、全部」

 彩羽は昨年の5★STAR GP(スターダムのリーグ戦)に参戦し、ウナギとも対戦。勝利した彩羽は試合後、「(ウナギは)変なヤツじゃなかったです。ちゃんとしたプロレスラーでした」と健闘を称えた。

「スターダムに来たからもう大丈夫って思ってた自分がいたんですよね。でも彩羽選手と闘って、『あ、違うんだ』って初めて思った。いろんなところにマジでラスボスクラスの奴がこんなにいるんだって思ったんです。

 彼女は今、ベルト(AAAWシングル王座)を巻いてるじゃないですか。ちょうどいいですよね。マジでキレさせたい。マーベラスって他の団体と違って、彩羽匠の"絶対政権"みたいなのに逆らわない人たちしかいないじゃないですか。うちらからしたら、『お前ら、なにやってんだよ』っていう感じですよ。マーベラス、乗り込みたいですね」

 ウナギは「てっぺん」という言葉をよく口にする。スターダムのてっぺんということなのだろうか。女子プロレスのてっぺんということなのだろうか。はたまた世界の頂点に立ちたいということなのだろうか。

「日本に留まりたくはないです。海外行ってみたいですね。もちろん女子プロレスに留まるつもりもないし。結局、プロレスラーとしてプロレスをやるだけだと、それだけじゃプロレスを好きじゃない人たちに見てもらえない気がしていて。いい意味で『プロレスを飛び出したいな』と思う。決まりがない、正解がない世界だからこそ、『これはしてはいけない』とか『これくらいにしておこう』とか、そういうのを全部取り払いたいなと思ってます」

 レジェンドたちが口々にウナギを褒め称えるのを耳にした私は、「とにかくウナギ・サヤカに会ってみたい」と思った。会ってみて感じたのは、彼女は生来の"人たらし"だということ。一瞬にして、人を虜にしてしまう魅力の持ち主だ。彼女にインタビューをして、しばらく胸の鼓動が鳴りやまなかった。今でも彼女の眩い笑顔が頭から離れない。

 私がプロレスラーにインタビューをして"人たらし"だと感じたのは、彼女が2人目だ。1人目は、長与千種――。ウナギ・サヤカはもしかしたら、想像を遥かに超えるとんでもないプロレスラーになるのかもしれない。

【プロフィール】
■ウナギ・サヤカ
1989年9月2日、大阪府生まれ。168cm、54kg。小学校2年生からアーティスティック・スイミングを始め、全国大会3位入賞。オリンピック候補生となる。高校ではチアリーディング部に入部し、全国大会優勝。卒業後、ダンスの専門学校に入学し、2008年より芸能活動を行う。2018年5月、東京女子プロレスの練習生となり、翌年1月4日、後楽園ホールにて「うなぎひまわり」としてデビュー。2020年11月、スターダムに初参戦。コズミック・エンジェルズを結成し、12月、アーティスト・オブ・スターダム王座を戴冠。過去最多防衛記録(V7)を樹立する。2021年7月、フューチャー・オブ・スターダム王座を戴冠し、査定マッチが話題となった。