今年はカタールW杯が11月に開催されるため、代表としてたっぷり時間が取れるのは今のこの時期しかない。そのため各国が国際…

 今年はカタールW杯が11月に開催されるため、代表としてたっぷり時間が取れるのは今のこの時期しかない。そのため各国が国際試合を予定しており、ブラジル代表がプレーするのは6月2日の韓国戦と6日の日本戦だ。ただこのアジアツアーを、ブラジルの人々は懐疑的な目で見ている。

 ブラジルはW杯南米予選を史上最高の成績で突破した。当然、本大会でも優勝を目指している。ただ、コロナ禍だったこともあり、ブラジルは最近、南米以外のチームとはプレーしていない。直近は2019年11月の韓国戦で、ヨーロッパのチームとなると2019年の3月のチェコ戦が最後。それ以前はロシアW杯となってしまう。

 南米にも強いチームは多いが、なにせ(南米サッカー連盟加盟国は)10カ国しかないので、お互いに相手の手の内を知り尽くしている。世界の頂点を狙うには、そこでライバルとなるようなチーム、つまりヨーロッパの強豪との試合経験を重ねていく必要がある。

 しかし、ブラジルがこの期間に対戦するのは韓国と日本。大事な時期にこれでいいのかと、ブラジル人は不安を隠せない。別に日本や韓国がいけないというわけではない。リスペクトしていないわけでもない。ただ、ブラジルが入ったグループGはスイス、セルビア、カメルーン。W杯でアジアのチームと当たる可能性は15%くらいではないかと言われている。わざわざ時間をかけて地球の裏側まで行って対戦する必要は本当にあるのかと、みな、首をひねっているのだ。



韓国戦を前に練習で笑顔を見せるネイマール(ブラジル代表)photo by AFP/AFLO

 実際にはヨーロッパのチームはネーションズリーグが行なわれるため、調整は難しかったかもしれない。だがヨーロッパがダメなら、カメルーンに似たアフリカのチームのほうがよかったのではないか。

 ブラジルサッカー連盟(CBF)は2012年から2022年末まで、イギリスの「ピッチ」という会社と契約をしており、「ピッチ」は代表チームの親善試合すべての開催権を得ている。今回の遠征ももちろん彼らの仕切りだ。「ピッチ」がアフリカより日韓を遠征先に選んだのはチームのためというより、金になるからだ。ブラジルはこの2試合で合計250万ドル(約3億2000万円)を稼ぐ計算だ。この決定には、「ピッチ」はもちろん、それを許した代表の責任者ジュニーニョ・パウリスタも批判の的になっている。

日本戦は韓国戦からほぼ別メンバーに

 もうひとつ、ブラジル人が不満を募らせているのがその試合数だ。ブラジルは先日、4年8カ月ぶりにFIFAランキング第1位に返り咲いたが、ランキングトップ20以内でW杯出場が決まっている国のうち、ブラジルは親善試合の数がかなり少ないのだ。

 ヨーロッパのチームはネーションズリーグがあるため最低4試合は戦うし、メキシコもアメリカも4試合、ウルグアイは3試合を予定している。アルゼンチンは今のところ1試合しか決まっていないが、その1試合はヨーロッパ選手権とコパ・アメリカの勝者同士がぶつかるカップ・オブ・チャンピオンズだ。イタリアはW杯出場こそ逃しているが、ランキング6位の強豪であるし、なによりタイトルを賭けた真剣勝負である。この経験は彼らにとって大きなものとなるだろう。

 実はブラジルは、アジアツアー後の6月11日に、そのアルゼンチンとオーストラリアのメルボルンで試合をするはずだった。年に一度、南米の2大チームが対戦するヌーベル・クラシコだ。しかし、6万枚のチケットがすべて完売していたにもかかわらず、なぜか前出のプロモーション会社「ピッチ」からキャンセルの申し入れがあったという。オーストラリア側もこの件については大激怒で、スイスのスポーツ仲裁裁判所に訴えられるかもしれない。

 今回、ブラジルはまず韓国、その後に日本と戦うが、2試合のメンバーは大幅に入れ替わることが予想される。先週末に行なわれたチャンピオンズリーグ(CL)決勝で対戦した両チームには、史上最多の計9人のブラジル選手がいた。そのうちの6人、ヴィニシウス・ジュニオール、カゼミーロ、エデル・ミリトン、ロドリゴ・ゴエス(レアル・マドリード)、アリソン・ベッカー、ファビーニョ(リバプール)は代表の主軸メンバーだ。

 ブラジル代表のほとんどは26日に韓国入りしたが、CL決勝組は遅れて31日にチームと合流した。そのため、チッチ監督は彼らを韓国戦では使わない可能性が高い。

ネイマールは朝までクラブで......

 今回の遠征は、ほぼカタールを戦うであろう最終メンバーで組まれている。今後11月までに入れ替わったとしても1、2名だろう。このチームの何よりの強みは、代表内でほぼ2つのチームを作れることである。CL組が遅れたことは、チッチにとってはラッキーだった。ターンオーバーを試すいい口実ができたからだ。韓国戦と日本戦では、多ければ9人の選手が入れ替わるだろう。もちろん、日本戦のほうがベストメンバーに近い。

 ブラジルの次世代を担うリシャルリソン(エバートン)は、「日本に行くのが楽しみだ」と、ソウルで記者たちに語っている。

 昨年の夏、ブラジルは東京五輪で金メダルを勝ち獲っている。リシャルリソンのほかにもブルーノ・ギマランイス(ニューカッスル)、マテウス・クーニャ(アトレティコ・マドリード)、ラフィーニャ(リーズ)、ギリェルミ・アラーナ(アトレティコ・ミネイロ)の5人のオリンピアンが今回、代表入りをしている。彼らにとって、東京は縁起のいい場所だ。

「日本に帰れるのが楽しみだ。チャンピオンになった場所にまた帰るのは嬉しい。一歩、東京に足を踏み入れたら、オリンピックのあのエネルギーの波がまた俺に戻ってくるだろう。東京で俺は王様だった。もう一度そこでいいプレーしたい」と、リシャルリソンは言う。

「アジア遠征は意味がない」と叩かれていると述べたが、私は大きな効能を持っていると思う。今回、選手たちはほぼ3週間をともに過ごす。ブラジルメディアの批判的な目も気にせず、ともに旅をし、プレーし、そして時にはともに羽を伸ばす。これから一緒に戦っていくチームが互いをよく知り、結束を高めるという点では、とても効果的であると思う。代表メンバーが次にいつ集まれるかはわからないだけに、貴重な時間である。

 ブラジルの多くの選手たちは、先週土曜のオフ日、ソウル郊外のテーマパーク、「エバーランド」で過ごした。絶叫マシンに興奮する選手たちの動画を、ネイマール(パリ・サンジェルマン)が自身のSNSにアップしている。

 ただし、ちょっと羽を伸ばしすぎたきらいもある。元気なネイマールはテーマパークのあと市内のクラブ「レース」に繰り出した。夜中の1時から閉店の朝5時半まで遊び、1本15万円するようなシャンパンを空け、なんと一晩で120万円を使ったという。ネイマールはいまだ健在だった。その後、練習中にケガをしたとの報道もあり、日本戦に出場することも危ぶまれている。