サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マ…

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は、ワールドカップの審判が男女同数になる未来―。

■現在世界ナンバーワンの女性審判員

 ビビアナ・シュタインハウスに続いて「ビッグ5」の舞台に立ったのが、今回山下良美主審らとともにワールドカップに選出されたフランスのステファニー・フラパール主審である。2019年の女子ワールドカップの決勝戦で主審を務めた後、8月にイスタンブールで行われた男性の「欧州スーパーカップ」(リバプールチェルシー)の主審に選ばれ、大きな話題となった。そして翌年4月には「リーグ1」でデビューを飾る。

 2020/211シーズンがスタートすると、フラパールは次々と歴史を書き変えていく。9月には「UEFAネーションズリーグ」Dグループ1組のマルタ対ラトビアで史上初めて男性の代表同士の公式戦の主審を務め、1か月後には「UEFA欧州リーグ」(レスターシティ対ゾリャ・ルハンスク)、さらに12月には、「UEFAチャンピオンズリーグ」(ユベントス対ディナモ・キエフ)の主審となった。

 そして年が明けた2021年3月には、ワールドカップ欧州予選G組のオランダ対ラトビアの主審を任された。予選の第2節。アウェーで戦ったトルコとの初戦を2-4で落としていたオランダにとっては「生か死か」の試合だったが、フラパールは平然とこなした。なお翌日には、ウクライナの女性主審カテリナ・モンズールがF組のオーストリア対フェロー諸島を担当している。そして4月、フラパールは欧州選手権(EURO)の第4審判に選出された。

■フラパールの力ある言葉

 フラパールは、間違いなく現在の世界でナンバーワンの女性主審である。そして彼女が男性を含めた現在の欧州のレフェリーたちのなかでも高いポジションにいることも、多くの人が認めるところだ。身長は164センチ。日本の山下良美主審よりも小さいものの、強いパーソナリティーで非常に堂々としている。

 「女性のサッカーと男性のサッカーに大きな違いがあるとは思わない。プレー自体に多少の違いはあるかもしれないが、サッカーはサッカーだからだ。女性の試合を担当することも男性の試合を担当することも、私にとってはまったく同じ。なぜなら同じルールで行うゲームで、判定基準も変わらないからだ。どんなに大きなものがかかった試合でも、私はけっして恐れない」(2019年、UEFAスーパーカップを前にした記者会見で)

 このフラパール主審とともに、山下主審、そしてルワンダのサリマ・ムカンサンガ主審(ことし1月のアフリカ・ネーションズカップで主審を務める)の3主審が、史上初の「ワールドカップ女性主審」である。「史上初のワールドカップ女性副審」は、ブラジルのネウザ・バッキ、メキシコのカレン・ディアス=メディナ、アメリカのキャスリン・ネスビットの3人。主審がすべて「旧大陸」で、3人の副審が「新大陸」であるところが興味深い。

 ただ、FIFAの年齢制限のない男性の大会に選ばれた女性審判員は、彼女たちが初めてではない。2021年2月にUAEで行われた「FIFAクラブワールドカップ」に、エディナ・アウベス・バティスタ主審、マリアナ・ジ・アウメイダ副審、ネウザ・バッキ副審のブラジル・トリオが参加し、蔚山現代(韓国)とアルドゥハイル(カタール)の間で行われた5位決定戦を3人で担当している。バッキ副審は、2年連続の「FIFA男性世界大会」ということになる。

■ブラジルから届いた衝撃のニュース

 ことしの4月、5月と、連続してブラジルからショッキングなニュースが流れた。男性のプロ選手による女性審判員への暴行である。4月には、前半終了直後に主審に詰め寄り猛抗議してイエローカードを出された監督を制止しようとした女性副審に、その監督が頭突きを食らわし、レッドカードだけでなく、クラブから解雇されるという事態になった。5月には、VARのオンフィールドレビューでヒジ打ちを確認されレッドカードを示された選手が、女性主審に猛然と詰め寄ってなぐりかかろうとし、大きな話題となった。

 だが、ブラジルでは、審判員に対する暴行(あるいはその未遂)はそう珍しいことではない。このふたつの事件がニュースになって世界の注目を集めたのは、相手が女性審判員だったからだろう。

 ことしのワールドカップで6人の女性審判員たちがしっかりとしたレフェリングを見せることで、近い将来には、男性の試合で女性審判員たちが活躍する姿が当たり前になるだろう。そしてワールドカップという「目標」ができたことでさらに優秀な女性審判員が輩出され、10年後には、ワールドカップで男女の審判員が同数、あるいは女性のほうが多くなる可能性さえ否定できない。そうなったら、ブラジルのこんなニュースが日本まで届くこともなくなるだろう。

 審判員には、「パワー」は大きな問題ではない。68メートル×105メートルのピッチのなかで90分間必要な場所にすばやく移動し続けられるフィジカルのレベルさえ獲得できれば、あとは判断力とパーソナリティーだけの勝負だ。この勝負において、女性より男性が優れているという証拠は、どこにもない。

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