日本の競馬界では昨年、名馬・名牝たちの引退が相次いだ。その結果、古馬のいくつかの路線で今、"王者不在"の状況となってい…
日本の競馬界では昨年、名馬・名牝たちの引退が相次いだ。その結果、古馬のいくつかの路線で今、"王者不在"の状況となっている。
芝のマイル路線もそのひとつだ。
この路線にはこれまで、「絶対女王」アーモンドアイをも蹴散らしたグランアレグリアがいた。
芝のマイルGI5勝という輝かしい実績を誇る女帝。彼女が引退したのは、昨年の秋だった。ラストランとなったGIマイルCS(阪神・芝1600m)も快勝して、有終の美を飾った。
その女帝がターフを去ったあと、初めて行なわれる牡馬混合の芝マイルGIとなるのが、GI安田記念(6月5日/東京・芝1600m)である。
つまり、今年の安田記念は単に勝敗だけでなく、グランアレグリアの後継となる「マイル王」にどの馬が名乗りを挙げるのか、という意味でも注目の一戦となる。

昨年のNHKマイルCで戴冠を遂げているシュネルマイスター
その候補として最も有力なのは、昨年のGINHKマイルC(東京・芝1600m)の覇者であるシュネルマイスター(牡4歳)だ。
グランアレグリアとも過去に2回、マイルGIで対戦。いずれも敗れているが、ともにコンマ1秒差の接戦を演じている。
しかもこの時、シュネルマイスターはまだ成長過程にある3歳馬だった。それを考えれば、そもそものポテンシャルではグランアレグリアと互角か、それ以上のものを示したとも言える。
まともに走れば、この馬が一番強いはずである。今回のメンバー構成であれば、ぶっちぎりまであり得るのではないか。
ただ、気になるのは前走、海外GIのドバイターフ(3月26日/UAE・芝1800m)での敗戦だ。
日本馬のパンサラッサが勝利し(1着同着)、今回の安田記念にも出走するヴァンドギャルド(牡6歳)が3着に入ったレースで、人気、実績ともにこの2頭をはるかに上回るシュネルマイスターは、8着と惨敗を喫した。
その敗戦について、鞍上のクリストフ・ルメール騎手は「ドバイではテンションが上がっていた」と語っている。確かに、ふだんはきちんと折り合うこの馬が、ドバイではレース前半から折り合いを欠いていた。
それゆえ、この一戦については「度外視していい」と競馬専門紙記者は言う。
「初の海外遠征で、雰囲気にのまれてしまったようですね。レース前のテンションがいつもとは明らかに違っていたし、レースでは苦しがるような素振りまで見せていましたから。初の海外遠征で、馬が入れ込んで力が出せないことはよくあること。その意味では、シュネルマイスターの前走はノーカウントでいいと思いますよ」
気になることはもうひとつある。同馬は昨年、NHKマイルCで戴冠を遂げて、GII毎日王冠(東京・芝1800m)でも古馬を一蹴しているが、それぞれタイム差なしの辛勝。最後の最後で少しだけかわして勝った、という印象がある。
これは、この馬自身の個性なのか、それとも能力的な限界を示すものなのか?
この点について、前出の専門紙記者はこう分析する。
「昨年のシュネルマイスターは、まだ完成途上の3歳馬。馬体が仕上げきれていませんでした。いわゆる"ゆるい"状態。そのため、ゴーサインが出てからの反応が鈍かった。少ししか勝たないという印象があるのは、その鈍さのため。能力的な限界などではありません。
それに、馬体が緩くて、反応が鈍くても、GIを勝ったり、グランアレグリアと接戦を演じたりしているわけですから。完成したら、どれだけすごい馬になるのかと期待は膨らむ一方です」
これまでも強かったが、その能力にはさらに奥があり、もう一段か二段上のギアを秘めている可能性もあるという。
そして、そのことは主戦のルメール騎手が誰よりも強く感じている。先の専門紙記者によれば、ドバイ遠征をする前からその結果にかかわらず、「安田記念では、この馬に乗る」と決めていたそうだ。
海外帰りとなると、とかく仕上げが慎重になりがちで、結果的に重め残りといった状態でレースを迎えてしまうことがよくある。現に今回のシュネルマイスターも少し重めが残ってしまったようだが、この程度のハンデはやすやすと越えて見せてこそ、王者というもの。
はたして、シュネルマイスターは新たなマイル王の座に就くことができるのか。安田記念の走りに注目したい。