帝京高校からプロ入りした11年目の松本剛(日本ハム)が、パ・リーグのバットマンレースを独走している。この遅咲きの首位打…
帝京高校からプロ入りした11年目の松本剛(日本ハム)が、パ・リーグのバットマンレースを独走している。この遅咲きの首位打者・松本はなぜ今シーズン、突如として覚醒したのか探ってみたい。

パ・リーグ首位打者レース独走中の日本ハム・松本剛
2017年に打撃10位に入るも...
帝京から日本ハム入団というと、自称「スギノール」こと杉谷拳士が思い浮かぶ。松本はその杉谷の3年後輩である。高校通算33本塁打、3年夏の甲子園に出場し、1回戦で当時花巻東高校の2年生・大谷翔平(現・エンゼルス)から決勝タイムリーを放っている。
2011年、ドラフト2位の高評価で日本ハムに入団。ちなみに、この年の日本ハムのドラフト1位は東海大の菅野智之(入団拒否→12年、巨人ドラフト1位)だった。
松本は遊撃手でのプロ入りだったが、イースタン・リーグで2度のシーズン最多失策など守備に難があり、外野手に転向した。
プロ6年目の2017年、千賀滉大(ソフトバンク)から2本塁打を放つなど進境を見せ、115試合に出場し打率.274をマークして打撃ベスト10入りを果たした(5本塁打、33打点、6盗塁)。しかし翌年以降は結果を残せず、西川遥輝(現・楽天)、大田泰示(現・DeNA)、近藤健介の後塵を拝することになる。
今季は新監督に就任した新庄剛志"BIGBOSS"のもと、西川や大田の退団もあって出場機会を増やすと、再ブレイクを果たした。「投高打低」が著しいパ・リーグにおいて、打率.390(成績は5月27日現在のもの、以下同)とダントツの数字を残している。しかも盗塁14もトップタイである。
これまで首位打者と盗塁王のW受賞は、1964年の広瀬叔功(南海/打率.366、72盗塁)、92年の佐々木誠(ダイエー/打率.322、40盗塁)、95年のイチロー(オリックス/打率.342、49盗塁)の3人だけ。いずれもプロ野球史に残る名選手であり、松本が達成すれば意義深い。
ここで2001年以降、打撃主要部門(打率、打点、本塁打)のタイトルを、プロ10年目以降で初めて獲得した選手たちを見てみたい。
■首位打者
2004年 嶋重宣(広島)プロ10年目
2015年 川端慎吾(ヤクルト)プロ10年目
2016年 坂本勇人(巨人)プロ10年目
■本塁打王
なし
■打点王
2015年 畠山和洋(ヤクルト)プロ15年目
坂本はプロ6年目に「最多安打」のタイトルを獲得しており、川端や畠山もタイトル獲得前からレギュラーとして活躍していたことを考えると、いきなりのタイトル奪取は嶋ひとりだ。
嶋は投手として入団するも5年間でわずか2試合の登板に終わり、5年目から野手転向して10年目に大ブレイクを果たした。
過去を遡ると、1976年にプロ9年目の吉岡悟(太平洋クラブ)が打率.309で首位打者に。吉岡は富山商から67年ドラフト10位でロッテに入団し、75年に太平洋クラブにトレード。移籍2年目の76年に初の規定打席到達でタイトルを獲得した。この年は打撃2位が藤原満(南海)で打率.302と、3割打者が4人だけという、奇しくも今年と同じ「投高打低」だった。
きっかけは新庄監督就任⁉︎
日本ハムで通算2000本安打を達成し、2010年から17年まで日本ハムの二軍打撃コーチ、二軍監督を歴任した田中幸雄氏に、松本の好調の理由について聞いてみた。
── 二軍監督時代に松本選手をよく見ていたと思いますが、打者としてどのようなタイプなのか教えてください。
「ものすごく真面目で、野球に取り組む姿勢はほかの選手の見本となっていた。打者としてのタイプは、本塁打は1ケタで、中距離ヒッターでもなく、単打を積み重ねていくスタイルの選手です。清宮幸太郎や万波中正といった長距離砲がいるので、今シーズンは自分が生き残るためのスタイルをあらためて認識したのだと思います」
── 打順は何番がいいと思いますか。
「今シーズンの日本ハムは、選手の状態や相手投手との相性などを見ながら決めていると思うのだが、松本に限らず選手はいろんな打順を打っている。松本については、4番を任されたこともあるが、盗塁が多く、積極性がいい方向に出るのなら、1番が合っているのかもしれないですね」
── これまで一軍に定着できなかった理由は何だと思いますか。
「松本はプロ6年目の2017年に、一軍でリーグ10位の打率を残しました。とにかくミート力に長けた選手で、思いきりもいい。そのままレギュラーに定着するのかと思ったら、翌年以降は成績が上がらなかった。どの選手にも好不調の波があるのですが、悪くなった時にどれだけ短い期間で復調できるかが重要になる。体力的、精神的、さらに技術的な部分も含めて、レギュラーの選手と比べて足りなかったのかもしれません」
── そんななか、今シーズンはここまでダントツの成績を残しています。好調の要因はどこにあると思いますか。
「今年は新庄監督が就任し、『レギュラーは白紙、横一線からのスタート』を明言したことで、心機一転、新たな気持ちでスタートをきれたことが大きいと思う。技術的な部分を挙げると、ストレートに力負けしなくなったことと、変化球への対応力がついた。そのなかで甘めの球を積極的に打ちにいくことで、いい方向に打球が飛んで結果としてヒットになっている印象があります。三振が少なく、四球も少ないというのも、新庄監督の指示どおり積極的に初球から打ちにいっている証だと思います」
── ペナントレースはまだ90試合近くあります。プロ11年目の「遅咲きの首位打者」のタイトル獲得に期待が高まります。
「私も長年プロの世界でいろいろな選手を見てきたが、1シーズンを通して好調を続けるのは大変だ。松本がシーズン半分を終えた時点で、どのくらいの数字を維持できているか。今後不調に陥った時こそ、たとえば四球を選んだりすることが大事になる。せっかく好スタートをきったのだから、このまま首位打者を獲れるよう応援しています」