風間八宏のサッカー深堀りSTYLE第2回:ルカ・モドリッチ(レアル・マドリード/クロアチア)独自のサッカー技術論を広め、…
風間八宏のサッカー深堀りSTYLE
第2回:ルカ・モドリッチ(レアル・マドリード/クロアチア)
独自のサッカー技術論を広め、サッカー界の選手、指導者に大きな影響を与えている、風間八宏氏の新連載。国内外のトップクラスのサッカー選手のテクニック、戦術を深く解説する。第2回は、ベテランの域に入ってもますます好パフォーマンスを続けている、レアル・マドリードのルカ・モドリッチのテクニックに迫る。
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ほとんどボールにタッチしていない
現在世界で最もうまいMFは誰かと聞かれれば、おそらく多くの人はクロアチアの小さな天才プレーヤーの名前をあげるのではないだろうか。
ルカ・モドリッチ、36歳。すでにプロキャリア19年を数えるベテランは、現在も所属のレアル・マドリードとクロアチア代表で極上のプレーを披露する。眩いばかりのその輝きは、バロンドールを受賞した2018年の頃をしのぐレベルだ。

ベテランになってもますます光るプレーをするモドリッチ
観る者を魅了するモドリッチのプレーのなかには、はたしてどのようなテクニックが潜んでいるのか。風間八宏氏が最初に指摘してくれたのは、モドリッチがボールを保持した時に見せる特徴的なプレーだった。
「モドリッチの場合、ボールを保持している時でも、実はほとんどボールにタッチしていません。ボールを静止させた状態でステップを踏み変えて、自分の身体だけを動かしている。モドリッチが簡単にボールを奪われない理由は、そこにあります」
たしかにモドリッチは、ほとんどボールを失わない。たとえ相手がボールを奪いにかかってきても、いとも簡単に相手を外し、素早く次のプレーに移行する。では、なぜモドリッチはボールに触れなくても、相手にボールを奪われないのか。
「まず、モドリッチはボールを止める技術が抜群にうまい。ボールを止めると言っても、単純にボールを止めることを言っているのではなく、自分にとってベストな場所にボールを静止させられるという意味です。
ベストな場所とは、自分がいつでも何でもできる場所。そこにピタッとボールを置けるから、自分の好きなタイミングでパスもできれば、ドリブルを始めることもできる。だから、相手は簡単にはモドリッチの懐に飛び込めません。それが、必要以上にボールに触れなくても、モドリッチがボールを奪われない最大の理由です。
多くの人は、"ボールを止める"という意味を、ただ足元に止めればいいだけだと思っていますが、モドリッチのように、一度で自分にとってベストな場所に‟ボールを静止させる"というのが、本来の意味です」
いつでもボールを蹴れる状態になっている
「相手にボールを奪われないためには、相手からボールを隠すような場所に置くとよく言われますが、それだと次のプレーに移る前にボールの置き場所を変えなければならないので、プレーのやり直しになってしまう。また、相手の身体能力が高ければ、そのまま強引に奪われてしまう可能性もあります。
要するに、本当の意味で相手にボールを奪われない場所とは、相手が自分の懐に飛び込めない場所になります。モドリッチのように、一度でその場所にボールを静止させることができれば、簡単にボールを奪われません」
風間氏の話を聞くと、いかにベストな場所にボールを止める技術が重要であるかがよくわかる。そして、それが素早くできるからこそ、モドリッチの武器でもある正確無比なパスも生まれると指摘する。
「自分にとってベストな場所にボールを置く、イコール、いつでもボールを蹴れる状態になっているということ。モドリッチの場合も、ボールを動かさないで、自分がパスしたいタイミングで蹴ることができる。もちろん、キックの技術と球種が並外れているところもありますが、まずはその前提として、自分にとってベストな場所に置けているからこそ、あの正確無比なパスが生まれるのです。
しかもモドリッチは、体の正面中央にボールを置きながら、正確なアウトサイドキックができるのがすごい。一般的に、右利きの選手であれば、アウトサイドキックは体の正面やや右側にボールを置いて蹴りますが、モドリッチは中央に置いてもそれができる。
さらに言えば、同じ場所にボールを置いた状態で、アウトサイド以外のすべてのキックが正確にできるのも特徴です。だからベストなタイミングで状況に合わせたキックを使い分けられる。相手にとっては、次のプレーが読みにくい選手ですよね」
技術の正確性がドリブルの速さにつながる
さらにもうひとつ、モドリッチのドリブル、つまり"ボールを運ぶ"プレーに見られるテクニックについても、ポイントを解説してくれた。
「まず大前提として知ってほしいのは、ドリブルの速さを決めるのは、単純に走る速さではなく、ドリブルにおける技術の正確性が、そのまま速さにつながるということ。つねに自分の体の正面で、ボールを縦回転で転がすのがいちばん速くなります。
モドリッチのドリブルを見ると、どの方向にボールを運ぶ時も、しっかりそれができている。だから、走るスピードがそれほど速くなくても、ドリブルそのものは速い。しかもボールを置く場所が安定していて、つねに相手のいない場所に向かってドリブルしていくので、相手はなかなか捕まえることができない。メッシもそうですが、このレベルの選手はみんなそれができていますよね。
いくら走るのが速くても、ボールの置く場所がずれてしまうと、自分の体の正面に対して縦回転ではなくなってしまうので、ドリブル自体が失速してしまう。しかも、ボールを置く場所が不安定だと、相手が自分の懐に飛び込む隙を与えてしまいます。もちろん、ドリブルする時にボールを置くベストな場所やステップの幅は、選手によって異なりますが、ここで説明した基本部分はどの選手にも共通することです」
ボールを止める、蹴る、運ぶ。これはサッカーの基本とされるが、モドリッチは、そのすべが極めてハイクオリティだ。今回、風間氏が指摘してくれたモドリッチの特徴に着目しながらそのプレーを見てみると、また違った視点でサッカーというスポーツの奥深さを感じとることができるのではないだろうか。
ルカ・モドリッチ
Luka Modric/1985年9月9日生まれ。クロアチア・サダル出身。地元クラブのユースから国内強豪のディナモ・ザグレブに移籍し、18歳でプロ契約。2008年からトッテナム(イングランド)、2012年からはレアル・マドリード(スペイン)でプレー。数々のタイトル獲得に貢献してきた。クロアチア代表では2018年ロシアW杯準優勝。同年にバロンドールを受賞している。

風間八宏
かざま・やひろ/1961年10月16日生まれ。静岡県出身。清水市立商業(当時)、筑波大学と進み、ドイツで5シーズンプレーしたのち、帰国後はマツダSC(サンフレッチェ広島の前身)に入り、Jリーグでは1994年サントリーシリーズの優勝に中心選手として貢献した。引退後は桐蔭横浜大学、筑波大学、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任。各チームで技術力にあふれたサッカーを展開する。現在はセレッソ大阪アカデミーの技術委員長を務めつつ、全国でサッカー選手指導、サッカーコーチの指導に携わっている。