) 幼い頃から体型について心ない言葉を浴びせられ、自信を喪失していたまなせゆうな。今成夢人との出会いを通して、「自分が人生の主人公なんだ」と思い始める。プロレス、プラスサイズモデルとしても活躍するまなせゆうな 2020年7月、東京女子プロレ…

 幼い頃から体型について心ない言葉を浴びせられ、自信を喪失していたまなせゆうな。今成夢人との出会いを通して、「自分が人生の主人公なんだ」と思い始める。



プロレス、プラスサイズモデルとしても活躍するまなせゆうな

 2020年7月、東京女子プロレスへのレギュラー参戦を終了し、7月26日、今成が所属するガンバレ☆プロレスに参戦。代表・大家健に「レギュラー参戦してください」と言われるが、これを断る。「私はガンプロの家族になりたいの!」――。つまり、ガンプロの所属選手になりたいということだ。大家は、まなせの申し出を快諾。まなせは晴れてガンプロの"家族"になった。

 それまでずっと、東京女子プロレスの仲間になりたくて、「東京女子プロレスらしくしなきゃ」と思っていた。しかし、「間違っていた」とガンプロに入団して気づいた。

「東京女子プロレスで活躍している選手は、東京女子プロレスらしい試合をしてるんじゃなくて、自分らしいプロレスをしている結果が東京女子プロレスなんです。わたしは東京女子プロレスっぽくしようとしていた結果、埋もれてしまってたんですよね」

 アクトレスガールズ時代に言われたことがある。「ゆうなは自分が売れることは考えるな」――。

「お前は前田敦子にはなれないんだから、AKBでいられることを考えなさいって。その頃は自信がなかったので、『AKBでいられるだけでありがてえ』って思ってました。AKBじゃないですけど(笑)。けど、ガンプロに来てから、私はAKBじゃなくて自分ひとりでステージに立ちたいと思った。だれかのためにそのグループにいるんじゃなくて、まなせゆうなでありたいんです」

 そう思えるようになったきっかけは、今成主催の「ぽっちゃり女子プロレス」だったという。

「私の中で今成さんの存在はすごく大きい。大人って言葉にしないじゃないですか。でも今成さんは、めっちゃ叫んでる。こんなに自分の気持ちを言葉にしていいんだって感じてから、自分もどうしたいかを考えるようになりました。私は何になりたかったんだっけ。あ、キャメロン・ディアスだ。なんで好きだったんだっけ。笑顔がめっちゃ素敵だからだ。......ああ、私は笑っていたいんだって気づいて、自分が面白いと思えること、笑顔でいられることをどんどんやろうと動き出したんですよね」

お客様のためにやっちゃうと、その人に届かない

 2020年10月25日付のブログに、体型について悩んでいた過去を赤裸々に綴っている。「現在75キロ。つい最近まで歳を重ねたこと、太っていること、可愛らしくないことに悩んでいました。本当に自分がダメだとおもったし、他のみんなと比べて悲しくなってよく泣いてました。紆余曲折ありまして最近やっとみんなと違くてもいいじゃん。歳を重ねたからこそできることもある。大きいってダイナミックだしかっこいいじゃん。と思えるようになってこれました」――。

「新体操もグラビアも、太っていることが悪だった。けど、大きいことがイイって言う人が増えてきたんです。近くに今成さんもいるし、今成さんがそれを言ったことによって、『実は僕も、まなせさんみたいな大きい体が好きなんですよ』って言ってもらえるようになった。そういう人もいるんだなって思ったら、気持ちがめっちゃ晴れたんですよね」



取材中に笑顔を見せるまなせ

 プラスサイズモデルの仕事を始め、下着のアンバサダーも務めるようになった。憧れのモデルはイギリス出身のイスクラ・ローレンス。グラマーな体型で堂々とビキニを着こなす彼女に、まなせは勇気をもらった。自分と同じように体型でネガティブな気持ちになっている人に向けて、「ありのままでいいんだよ」と発信していきたいと考えている。

「誰かのためにっていうんじゃないんです。プロレスで言うと、自分で選んでプロレスやってるじゃないですか。自分のためにやってるのに、だれかのためにやってるって言うと、そのだれかが求めていないことをやったときに、『違う』ってなってしまう。私がやったことを見て、なにか感じてくれたら嬉しいですけど、自分がお客様のためにやっちゃうと、その人に届かないと思う」

10分の試合だったら10分で人生を終えるつもりでやる

 プロレスを表現する上でのこだわりを聞くと、「私の中にあるものをリングの上で全部出すこと」と答える。

「前までは試合が終わった時に、もちろん疲れるし、痛いけど、どこかで『まだイケる』って思ってた。でも、ガンプロの人たちって、その日の試合に人生を賭けてるんですよ。あとで聞いたら、『試合数が少ないから、一回一回にすべてを賭けてた』と。今は状況は違うのかもしれないけど、私はそれってすごい大事だなと思って。

 私も今、10分の試合だったら10分で人生を終えるつもりでやってます。すべて出し切って勝たないと、相手に対しても失礼だし、余裕で勝ったところでお客様になにを伝えられるの?って思う。立ってるだけで『可愛い!』ってなる人だったらそれでもいいのかもしれないけど、私はたぶんそういう人間じゃないから。私の中にあるものをすべて出して、やっと足りないくらいだと思うんですよ」

 ガンプロの試合を初めて見た時、「なんて美しいんだろう」と思ったという。大会中、これでもかと泣き叫ぶ大家と今成を、カッコ悪いと言う人もいる。しかしまなせは「めっちゃカッコいい!」と思った。

「一生懸命生きることは恥ずかしいことじゃない。カッコ悪い姿を見せることって、カッコいいと思う。スターダムのときは『優雅に闘え』という教えだったので、そことは真逆。がむしゃらに一生懸命生きるって、実は気持ちいい。そういうことをガンプロから学びました」

 今年7月10日、ガンプロは大田区総合体育館でビッグマッチを開催する。ガンプロの規模を考えれば、異例中の異例だ。

「私たちもまだ『本当かどうか?』みたいな感じ。カードとかなにも決まってないと思うし、本当に勢いで箱を取ったんじゃないかなって。でも去年の年末から『2022年、ガンプロは勝負を賭けたい』というのはみんな思っていたんです。サイバーファイトフェスでもガンプロはすごくいい試合をしたのに、本戦に出られなかった。やっぱり悔しい気持ちをみんな持っています」

「ありのままの自分を愛せ」

 ガンプロ代表の大家健は、大田区総合体育館大会についてこう話す。

「KinKi Kidsは東京ドームを2人で埋める。俺たちは今はまだ選手20人いても後楽園ホールを埋められない。俺はプロレスをメジャースポーツにしたい。板橋(グリーンホール)がどんなに超満員になっても、200人しか入らないんですよ。それが大田区、両国(国技館)、さらに東京ドームになったら、それだけ人が入るわけじゃないですか。今年は勝負の年。無理だのなんだの言われても、大きな箱でやるって決めたらやるしかないんです。そうしないとメジャースポーツに押し上げることはできない」

 4月26日、埼玉・レッスル武闘館にて、「ぽっちゃり女子プロレス3」が開催された。メインイベントは、まなせゆうな対今成夢人。ぽっちゃり女子プロレス旗揚げ戦以来、3年ぶりのシングルマッチだ。

 まなせのファイトスタイルは、3年前と明らかに変わっていた。体の大きさを生かしたダイナミックな動き。今成の厚い胸板に、得意技のラリアットをがんがんぶつける。

 インタビューで、まなせはラリアットについてこう話していた。「心臓に近いから、気持ちを直接ぶつけられる気がする」――。まさに彼女のラリアットを見ていると、力だけではない。気持ちを全力で相手にぶつけているように感じる。

 結果は、今成が勝利した。まなせは泣きながら、マイクを持つ。頚髄損傷で闘病中の大谷晋二郎にインスパイアされた言葉――。

「ぽっちゃりの教科書、101ページ! ありのままの自分を愛せ。一番後ろに、自分から行くな。だれかのために、真ん中を譲るな。私たちは、ぽっちゃりは、脇役じゃない。センターだ!」

 3年前に流した涙とは違っていた。今の彼女は、自分を愛し、仲間を愛し、ファンを愛している。

「試合はきついけど、それを越えたら物販もあってみんなに会えるし、楽しいから。私は自分の可能性を信じています」

 人は変われる。いくつになっても、何度でも。まなせゆうなというプロレスラーは、リングの上で、私たちにそう教えてくれる。

(過去に連載でインタビューした女子プロレスラーたち>>)

【プロフィール】
■まなせゆうな
1987年11月11日、千葉県生まれ。170cm、75kg。5歳の時に新体操を始め、小学校1年生から6年生まで、関東大会で優勝。高校2年生の時、芸能事務所にスカウトされ、グラビア活動を始める。2013年2月、スターダムに入門。2014年1月12日、新木場1stRING大会にて宝城カイリ戦でデビュー。2015年3月、スターダムを退団し、5月「アクトレスガールズBeginning〜プロローグ〜」でプロレス復帰。2016年12月、ミス東スポ2017特別賞を受賞。2017年3月より東京女子プロレスにレギュラー参戦。2019年7月26日、ガンバレ☆プロレスへの入団を発表。プラスサイズモデルとしても活躍している。