森口祐子プロが徹底解剖シーズン序盤で躍動する注目選手(前編)2022年シーズンも多彩なタレントたちがハイレベルな戦いを繰り広げている女子ツアー。序盤戦から悲願のツアー初優勝を遂げるヒロインたちが続々と登場するなどして、例年と違わぬ盛り上がり…

森口祐子プロが徹底解剖
シーズン序盤で躍動する注目選手(前編)

2022年シーズンも多彩なタレントたちがハイレベルな戦いを繰り広げている女子ツアー。序盤戦から悲願のツアー初優勝を遂げるヒロインたちが続々と登場するなどして、例年と違わぬ盛り上がりを見せている。そんなシーズン序盤に躍動し、今季ツアーでの活躍が見込まれる選手たちの"特長"や"強さの秘密"などについて、永久シードの森口祐子プロに分析してもらった――。




西郷真央(さいごう・まお)
2001年10月8日生まれ。千葉県出身。身長158cm。血液型AB型。
ツアー通算4勝。2022年シーズン優勝4回。トップ10入り7回。
メルセデスランキング1位。賞金ランキング1位(獲得賞金8136万円)。
※成績などの数字は2022年5月10日現在(以下同)

「今季の西郷さんの好調の理由を言葉で表現すると、"待てる"ようになったというのが一番かなと思います。

 いいところまでいくけど、なかなか勝てなかった昨シーズン(2020-2021シーズン)は(勝ちたい)気持ちが"待てず"に前のめりになってしまい、試合の佳境となる勝負どころでのショットで上半身の力が抜けきらず、2~3m飛びすぎてしまうことがありました。それが、今シーズンは"待てる"ようになって、大きなミスが減りました。

 その"待てる"ことが顕著に表れているのは、歩き方。テンポがとてもいいです。そう見えるのは、体幹とか、体軸とかが安定しているから。そのため、アドレスに入る時にもストンとハマって、ショットにおける打ち急ぎがありません。上半身の力がうまく抜けて、下半身とのバランスがよく、そのスイングはとても滑らかです。

 この一連の流れが"待てる"という印象を(見る側に)与えているのです。シーズンオフにパッティングの練習を重ねて、今季はパットが入っていること(平均パット数〈1ラウンドあたり〉=昨季59位→今季34位)も、それ以前のプレーで"待てる"ようになった要因のひとつだと思います」




山下美夢有(やました・みゆう)
2001年8月2日生まれ。大阪府出身。身長150cm。血液型A型。
ツアー通算2勝。2022年シーズン優勝1回。トップ10入り3回。
メルセデスランキング2位。賞金ランキング3位(獲得賞金3802万2000円)。

「昨年の前半戦において、大いに注目された選手のひとりです。ヤマハレディースで、優勝した稲見萌寧さんといい戦いをして2位。その翌々週のKKT杯バンテリンレディスでツアー初優勝を飾って、その翌週のフジサンケイレディスでまた、稲見さんと優勝争いを演じました(結果は2位)。

 KKT杯バンテリンレディスの優勝会見で披露した、1年前に先行投資のつもりで約300万円の弾道測定器を購入したというエピソードは有名ですが、優勝したことを考えれば、投資は正解だったと思います。

 西村(優菜)さんと同じ身長150cmと、最も小柄なシード選手。体格に恵まれない選手が、何を自分の武器としてスコアを作っていくのかと言ったら、やはり100ヤード以内のショットです。彼女は弾道測定器を利用しながら、その100ヤード以内のショットを3ヤード刻みで身につける練習をしていたと言います。

 その成果もあって、昨季はパーオンしないホールでパーか、それよりいいスコアで上がる率を表す『リカバリー率』が1位でした。これは100ヤード以内からのショットの精度が高い証拠ですから、確実に自分の武器を身につけている、と言えるのではないでしょうか」




堀 琴音(ほり・ことね)
1996年3月3日生まれ。徳島県出身。身長165cm。血液型A型。
ツアー通算2勝。2022年シーズン優勝1回。トップ10入り5回。
メルセデスランキング3位。賞金ランキング2位(獲得賞金4056万2125円)。

「不調から抜け出してツアー初優勝を飾った昨シーズン、そして今季ここまでの好調ぶりは、持ち球をドローからフェードに変えて、自分のなかでしっくりくる体の使い方になったことが大きいと思います。特に左端にきられたピンに対して、迷いなく打っていく攻め方ができているので、今の自らの持ち球に相当な自信を持っているんだな、と。

 人は、体を縦に使うことで力を発揮できる人と、横に使うほうがラクな人と大別されるそうですが、もともと彼女は前傾をあまりとらない構えから、クラブを縦方向に動かすアップライトなスイングをします。アップライトなスイングとの相性がいいフェード系に持ち球を変えたことで、気持ちよく力を発揮できるようになったのだと思います。

 以前はバックスイングで、クラブを不用意にポンと上げて打つようなシーンも見受けられました。それが今では、ナチュラルな体の動きができるようになり、バックスイングで迷いなくクラブを上げることができています」



高橋彩華(たかはし・さやか)
1998年7月24日生まれ。新潟県出身。身長162cm。血液型A型。
ツアー通算1勝。2022年シーズン優勝1回。トップ10入り5回。
メルセデスランキング4位。賞金ランキング4位(獲得賞金3561万9166円)。

「高橋さんは昨シーズン、予選ラウンドの平均ストロークは2位なのに、決勝ラウンドになるとその数字は34位まで下がっていました。その分、最終日最終組でのラウンドでは、自ら崩れていったという印象が強く残っているかもしれません。

 でも本来は、アイアンショットが得意でバーディーも多くとれる選手。ですから、最終組の3つくらい前の組で回って、爆発的なスコアを出して逆転優勝というパターンで一度勝てれば、その後はラクに優勝を重ねることができるだろうなと思っていたんです。

 そうしたら、初日、2日目とトップを守り、通算10回目の最終日最終組でのスタートとなったフジサンケイレディスで見事に初優勝。(最終日には)1番、2番と連続ボギーを叩いたあと、3番ホール(パー4)ではバンカー越えのピンに対して、1mにつけてバーディーを奪いました。2打目を打つ前に『逃げんじゃねぇ!』と自分に喝を入れたと言いますから、プレッシャーをはね除け、弱い自分を払拭できた一打だったと思います。

 実は初日のスタート前に会った時、『この試合からシャフトを含めてアイアンを全部替えました』と言っていたので、『新しいクラブをいきなり試合のテンションで打ってみるって、案外いい結果が出るよね』といった話をしたら、初日にノーボギーの8バーディー。キレッキレのアイアンショットでしたから、これは本当にうまくハマったな、と思っていましたね」



菅沼菜々(すがぬま・なな)
2000年2月10日生まれ。東京都出身。身長158cm。血液型AB型。
ツアー通算0勝。2022年シーズン最高位3位タイ。トップ10入り5回。
メルセデスランキング9位。賞金ランキング10位(獲得賞金1923万8458円)。

「昨年、ある試合の帰り際に菅沼さんのお父さんから『(娘は)何を注意したら強くなれますか?』と聞かれ、その時『私は強くないですから』と言ったのですが、それでも熱心にお尋ねになるので、こんな話をしました。

 私は米ツアーのプロテストを受ける時、般若心経を唱えて心が落ちつきました。その内容は、『こだわらない』『偏らない』『囚われない』『広く、広く、もっと広く』といったもので、物事を大局に見ることを覚えたら、気持ちがラクになり、トップ合格を果たせたんですよ、と。

 その後、お父さんはその話を記したものを菅沼さんに見せたらしく、今年のヤマハレディースでお父さんにお会いすると、『娘が(あの言葉に)ハマりましてね』とおっしゃっていました。

 そうしたら、その3週間後のフジサンケイレディスの時、今度は菅沼さん本人から『(試合で)勝つにはどうしたらいいんですか?』って聞かれたんです。その時は、『やっていることは間違っていないのだから、それをやり通す力があれば、そのうち結果はついてくると思うよ』と言いました。

 彼女は、公共交通機関での長時間移動などに対して、激しい恐怖や不安を覚える『広場恐怖症』という症状を抱えていて、ツアーの移動はもっぱらお父さんが運転する車。見た目もアスリートっぽくないというか、可憐な少女という感じで、そういう子が熱い気持ちを持って親子で頑張っているとなれば、応援したくなるものですよね」



植竹希望(うえたけ・のぞみ)
1998年7月29日生まれ。東京都出身。身長170cm。血液型O型。
ツアー通算1勝。2022年シーズン優勝1回。トップ10入り4回。
メルセデスランキング6位。賞金ランキング5位(獲得賞金3164万3125円)。

「2年前に軽井沢の試合の練習ラウンドで、植竹さんが洋芝の上のボールをスパーンと打ち抜くのを見て、初対面ながら思わず『あなたのアイアンショットのキレはすごいね』と声をかけました。それは、ショートトップからクラブを体に引きつけてくる、パワフルで男性的なスイングでした。

 以来、メールを交換するようになって、いつ優勝するかと見ていたのですが、昨シーズンは住友生命Vitalityレディス 東海クラシックで優勝争いを演じながら、最終ホールで池ポチャ。西村優菜さんとのプレーオフに持ち込めず、ツアー初優勝を逃してしまいました。しかし今季、KKT杯バンテリンレディスでついに初優勝を飾りました。

 最終日の組み合わせを見ると、西村さんと同組の最終組。パット巧者の西村さんに対して、昨年までの植竹さんはパッティングが課題だったので、最終日の前日に私は彼女にこんなメールを送りました。

『私はパットが上手い人と回る時は、相手はバーディーパットを全部入れてくるものだと思ってやっていた。そう覚悟すると、人のスコアは変えられないわけだから、結局は自分でどうにかするしかないと思える。自分を見失わないようにするということが、ゴルフでは一番大事よね』と。

 すると、彼女は優勝会見でこの時のやり取りを披露して、『今日は他の人のスコアは見ず、自分が一打でも減らそうと集中してプレーできたのがよかった』とコメントしてくれました。

 でも、そうじゃないんです。シーズン開幕直後、彼女に『シーズンオフはちゃんと過ごせた?』と聞くと、『パターを滅茶苦茶やりました』と。そう言えるほど、追い込んでやってきたのでしょう。この練習の裏づけがあったから勝てたのです」

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