プロゴルファーの父子物語 女子ゴルフの国内メジャー今季初戦・ワールドレディスサロンパス杯(5月5~8日、茨城GC西C)は、「新世紀世代」の20歳・山下美夢有(加賀電子)のメジャー初優勝で終了した。山下がクラブを握ったのは5歳からで、父・勝臣…

プロゴルファーの父子物語

 女子ゴルフの国内メジャー今季初戦・ワールドレディスサロンパス杯(5月5~8日、茨城GC西C)は、「新世紀世代」の20歳・山下美夢有(加賀電子)のメジャー初優勝で終了した。山下がクラブを握ったのは5歳からで、父・勝臣(まさおみ)さんも一緒にゴルフを開始。上達のスピードは山下の方が早くても、今もコーチの父に絶大な信頼を置いている。プロゴルファーにおける父子物語はさまざまあるが、成功者に共通するのは、同じ熱量と固い信頼関係。宮里藍の高2時からゴルファーと父の関係を見てきた記者が、その考察を示す。(取材・文=THE ANSWER編集部・柳田 通斉)

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 山下は優勝会見で言った。

「父は私と弟、妹のためにとにかく一生懸命で、いろんなことを考えてサポートしてくれます。私のクセも全部分かっているので、見てくれたらすぐに修正ができます。(父がコーチの)スタイルは変えるつもりはありません」

 ゴルフのキャリアは全く同じで、上達は自身の方が早かったが、山下は心から父を信頼している。勝臣さんも「(調子が悪くなると)見ればすぐに修正点が分かります。今回は打ち急いでいたのとハンドファーストになり過ぎていたので、そのタイミングを変えたいと思いまして、『トップで間を取るように』と伝えました」と明かした。

 幼少期から毎日のように練習を見ているからこそ、「いい状態」のスイングが頭にあり、そこからのズレに気づけるのだ。14歳からゴルフを始めた藤田さいきの父・健さんに聞いても、「娘のスイングは私と一緒に作り上げたものです。力感がないように見えて、インパクト時だけ最大限の力を入れています。リストの使い方は水泳やオートバイも参考にしている。他人ではちょっと触れないと思いますよ」と返した。

 ゴルフは繊細なスポーツで、中学、高校の強豪ゴルフ部でも、監督、コーチは、技術的な指導を積極的にはしない傾向にある。理由は選手たちには、幼少期から個々にコーチがいて、築いてきた型があるからだ。そこに他の情報が入ると、大きく調子を崩す恐れがある。宮里藍の父・優さんも「3人の子供たちは高校から親元を離れましたが、それは、部活や寮での共同生活を経験して、協調性を高めるためで、技術指導は受けてほしくないと思っていました」と話していた。

 藤田の父はトップアマで、宮里の父はティーチングプロ。だが、山下の父と同じように古江彩佳の父も「ゴルフ未経験者」で、グリップの握り方から勉強し、娘をトッププロに育て上げている。つまり、父親のすさまじい情熱が成功の要因になっている。

間違った指導法で「悲劇」を招くケースも…

 一方で、その熱量のバランスが崩れ、指導法を間違って「悲劇」を招いたケースも少なくない。「子供をプロにしたい」。その思いを押し付け、物心がつかないうちからクラブを握らせる。幼少期はついてくるが、中学生、高校生で自我が芽生えても父はスパルタ指導を続け、スコアが悪いと激怒。子供たちは委縮しながら練習を続ける。そんな子供たちが試合に出て、同組でそろうと最悪な事態を招くケースがあるという。ある有名プロは言った。

「スコアを全員でごまかして、アテストするんですよ。そこまで追い込まれているからなのですが、ゴルファーとして最低の行為です。そんな選手は実力もないので、プロにはなれないんですけど」

 対照的に山下は「父はスコアのことでは怒ったことがない」と言った。一方で「マナーにはすごく厳しかった」と振り返る。それは、宮里の父も同じで、「ゴルファーの前に人格者であれ。ゴルフは人格形成のためのツールだ」を信念に3人の子供たちだけでなく、多くのジュニアゴルファーを指導してきた。現在、活躍するプロの多くが礼儀正しいのも、それぞれの父親、もしくは母親が「目先の結果」に一喜一憂せず、ゴルファーとして、人として成長するための教育をしてきたからだと感じる。

 もちろん、選手たちも親に負けない情熱を持ち、能動的に練習をし、トレーニングを積んできたからこそ、成功をつかめたはずだ。山下の父・勝臣さんは「やっぱり、本人が努力家なんで」と言った。それらを前提にしたプロゴルファーの成功物語。また新たなエピソードをここでお伝えしたい。(THE ANSWER編集部・柳田 通斉 / Michinari Yanagida)