「センスは基礎体力+運動能力に言い換えられる」 センスがあると言われる選手と、そうではない選手の違いはどこにあるのか。そ…
「センスは基礎体力+運動能力に言い換えられる」
センスがあると言われる選手と、そうではない選手の違いはどこにあるのか。そもそも「センス」とは、どんなものなのか。静岡県掛川市に少年野球チームを発足させた理学療法士の男性は、野球センスは経験とトレーニングで磨けると考えている。「センスがない」と言われた少年野球の子どもたちが、中学や高校で一気に技術を伸ばす可能性があるという。
「センスという言葉は曖昧で定義がありません。少年野球で使われるセンスは、これまでの運動経験の差がプレーに表れているケースがあります。体の動かし方を覚えて、運動経験を積めば、センスがないと言われていた子どもの野球技術が中学や高校で一気に伸びる可能性があります」
技術の差を「センス」で説明することに疑問を投げかけるのは、静岡県高野連のメディカルサポート代表で理学療法士の甲賀英敏さん。静岡県掛川市で活動する少年軟式野球チーム「グッドフェローズ」を4月に立ち上げた。チームは怪我の予防を徹底しながら、子どもの成長に合わせた育成を掲げる。野球の技術以上に重視するのは、基礎体力と運動能力を向上させる指導。「野球のセンスがない」子どもたちは、運動経験が足りないだけと考えているためだ。
甲賀さんは「センスがいい」と言われる子どもは、小さい頃から体を動かす環境で育ったケースが多いと指摘する。両親が運動好きな子ども、兄弟であれば長男よりも次男が技術を早く習得できる傾向があるのは、過去の運動経験の差が大きいという。
「野球の動きだけに限れば、同じ動きを一生懸命繰り返して練習すれば、ある程度の形ができます。最初から打撃も守備も上手くできる子どもはいますが、センスがないと言われる子も運動経験を積めば経験が蓄積されて、野球の動きにも生きてきます。センスは基礎体力プラス運動能力に言い換えられると考えています」
運動の上達や成功から自信を得る「運動有能感」向上に力を注ぐ
グッドフェローズの練習では基礎体力と運動能力を向上させるトレーニングに時間を割いている。「走る」「飛ぶ」「回る」など36種類ある基本の動きをもとに練習メニューを作る。そこに「バランス能力」「操作能力」「認知能力」といった5つの能力を鍛えるコーディネーショントレーニングを組み合わせていく。例えば、打撃ではバットを操り、投球に対して空間や時間を把握する力が求められる。操作能力と認知能力を磨けば、打力がアップする。
野球の技術練習だけでなく、こうしたトレーニングを取り入れる理由はもう1つある。運動の上達や成功から自信を得る「運動有能感」を育むためだ。運動経験が少ない子どもに最初からバットやグラブを持たせても、上手くプレーできない。野球が嫌になり、競技から離れてしまう可能性がある。
基礎体力と運動能力を高めるトレーニングで成功体験を積んでからの方が、野球が上手くなり、好きになる確率が上がる。甲賀さんは「はじめから上手くできる子は運動有能感が高い傾向にあります。上手くできるので、さらに練習するという好循環が生まれます。一方、運動に苦手意識がある子は負の連鎖に陥ってしまうので、少しずつ成功体験を積んで、将来の土台を作ることが大切だと思います」と語った。
少年野球における技術の差をセンスで片付けてしまえば、成長や成功の機会を失う。体の使い方を覚えたり、動きのバリエーションを増やしたりすれば、将来的に野球のパフォーマンスアップにつながる。(間淳 / Jun Aida)