パナソニックオープンレディースではワクチン副反応後「68」 今季の国内女子ゴルフツアーでは、30代選手の頑張りが目立つ。9戦を終えて、試合時点で30歳だったサイ・ペイイン、35歳の上田桃子が優勝。前週のパナソニックオープンレディースでも34…

パナソニックオープンレディースではワクチン副反応後「68」

 今季の国内女子ゴルフツアーでは、30代選手の頑張りが目立つ。9戦を終えて、試合時点で30歳だったサイ・ペイイン、35歳の上田桃子が優勝。前週のパナソニックオープンレディースでも34歳のテレサ・ルーが20歳の西郷真央と最後まで優勝を争った。

 36歳の藤田さいき(チェリーゴルフ)は、新型コロナウイルスワクチンの副作用で「フラフラ」になりつつ、回復後に68をマークした。その前週は2位、前々週は6位。11年ぶりとなるツアー6勝目の可能性を高めている。父でコーチの藤田健氏いわく「娘のピークはこれから」。そう言い切れる理由を聞いた。(取材・文=THE ANSWER編集部・柳田 通斉)

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 パナソニックオープンレディースから一夜明け、北海道にいた健氏を電話取材した。同大会第2日に68をマークした藤田は「ワクチンの副反応で寝込んでしまって練習ラウンドができませんでした。スコアが出たのは何も考えず、楽しくプレーしているから」と明るく話したが、何か理由があるに違いない。父は言った。

「正直、練ランなしで68は私も驚きました。月曜日にワクチンを打って、火曜日には38.8度の高熱も出たので、私は欠場を勧めたのですが、『感覚を維持するには試合に出続けないと』と言っていました。まあ、根本的な体の強さと普段のトレーニング、練習量があるから対応できたのでしょう。娘にはまだまだ伸び代もありますから」

 藤田は小5で初めてゴルフ場に連れていかれた。佐野日大高ゴルフ部員だった次兄・勇樹(現プロゴルファー)の応援だった。その時、トップアマゴルファーの健氏は、娘の才能を見抜いたという。

「落ちていた木の枝で素振りをさせたら、何も教えていないのにヘッドの走らせ方の基本ができていました。私と一緒にいたプロもビックリして、『えーっ』となりました。すぐにゴルフをやるように勧めたのですが、なかなか娘はその気にはならなくて」

 当時の藤田は陸上、水泳に夢中。結局、中1までは年に1~2度、練習場に行く程度だったが、中2の冬、自身の将来を考えるようになり、「ゴルフをやってみる」と宣言。本格的な練習が始まったという。健氏の見込み通り、藤田はすぐに頭角を現した。

「半年もしないうちに全国中学校ゴルフ選手権の関東予選で74を出しました。私は娘に力試しをさせたくて、内緒でエントリーしたのに、いきなり全国出場を決めました。さすがに驚いて、『おまえ、すごいね』と言ったのを覚えています。ロングホールで2オンが2回ありましたし」

宮里藍、横峯さくららと同学年「負けたくない一心」

 ただ、全国では上位に絡めなかった。同学年に宮里藍、横峯さくら、青山加織ら強豪選手がいたからだ。佐野日大高に進学しても壁は厚く、藤田は高1を終えた段階で退学。高2から自宅に近い国際情報TBC学院高等課程に編入し、父からのマンツーマン指導を受けるようになった。

「そこからは365日、つきっきりでした。宮里さん、横峯さんに負けたくない一心でした。950グラムのバットを1日300回は振るなど、トレーニングも重ねました。高校生で骨格ができあがっての鍛錬だったので、ここでケガをしない体の土台をつくることができました」

 そうした日々を乗り越え、05年にプロデビュー。06年6月のプロミスレディスで初優勝を飾った。20歳7か月。ゴルフを本格的に始めて6年足らずだった。その後も勝利して11年までに計5勝。だが、同年の富士通レディースを最後に優勝から遠ざかっている。18、19年は賞金ランク50位以内に入れず、シード落ちも経験した。

「私は11年に大病をしまして、ツアーに帯同できなくなりました。4度、死にかけていまして、今も定期的に北海道の病院で検査を受けるなどしています。娘からは今朝もスイング動画が送られてきて、『バックスイングが3センチ、アウトに上がっている』などとアドバイスはしています。ただ、私が付いてやれないことが、成績が安定しなかった一因になっていたと思います」

元西武トレーナーと出会って7年、ツアー2位の飛距離

 一方で、健氏は7年前、埼玉西武ライオンズの元トレーナー黒岩祐次氏を藤田に紹介。同時に黒岩氏にゴルフをレッスンしていた。

「トレーナーがゴルフをちゃんと理解していないと、ゴルファーに対して的確なトレーニング指導ができないと分かっていたからです。そして、黒岩さんはメキメキとゴルフの腕を上げて、娘が合宿で打ち込み練習をした後なども、体のケアをしっかりしてくれています。そして、娘は黒岩さんから教わった、歩く時の疲れにくい姿勢を会得しました。それが理想的なアドレスにもつながりました。結果、徐々に状態が上がり、今、娘の体は20歳ぐらいに若返ってきています。今季、ドライバー飛距離(ツアー2位、250.94ヤード)の要因ですが、実は手首を痛めないように7割の力で打っているんです」

 その上で、藤田はコツコツと練習を重ねている。他の選手たちよりも遅い14歳でゴルフを始めたことも、「モチベーション維持」につながっていると、健氏は分析する。

「遅くゴルフを始めたので、最初から私は『娘のピークは30歳を過ぎてから』と思っていました。ただ、体の状態もいいし、まだまだ伸び代があるように感じます。優勝のチャンスはあるでしょう」

 今季国内メジャー初戦・ワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップ(茨城GC西C)は、5日に開幕する。北海道での検査を終えた後、健氏は週末に観戦予定。藤田にとって最高のサポーターになりそうだ。

■藤田さいき(ふじた・さいき)

 1985年(昭60)11月22日、静岡・沼津市生まれ。国際情報TBC学院高等課程卒。小学校入学前に栃木県内に転居し、14歳でゴルフを始める。11年11月に一般男性と結婚。16年シーズンより、登録名を「藤田幸希」から「藤田さいき」と、ひらがな表記に変更した。ツアー通算5勝。10年には、国内メジャー大会の日本女子プロゴルフ選手権コニカミノルタ杯を制している。168センチ。血液型A。(THE ANSWER編集部・柳田 通斉 / Michinari Yanagida)