サッカー界の至宝FWリオネル・メッシを筆頭に、イタリア代表GKジャンルイジ・ドンナルンマ、モロッコ代表DFアクラフ・ハ…

 サッカー界の至宝FWリオネル・メッシを筆頭に、イタリア代表GKジャンルイジ・ドンナルンマ、モロッコ代表DFアクラフ・ハキミ、オランダ代表MFジョルジニオ・ワイナルドゥム、そしてレアル・マドリードで長年キャプテンを務めたDFセルヒオ・ラモス......。今シーズンのパリ・サンジェルマン(PSG)は"新銀河系軍団"と呼ばれるほど超豪華な陣容を整えた。

 しかしながら、その注目度とは裏腹に、チャンピオンズリーグ(CL)ではラウンド16でレアル・マドリードに敗れ、フランスカップでもラウンド16でニースにPK戦で敗退。期待を大きく裏切るシーズンになってしまった。



メッシ(左)ネイマール(右)エムバペ(中央)の頭文字でMNMトリオ

 唯一手にしたタイトルは、クラブ通算10度目となるリーグ優勝のみ。これにより、通算最多優勝回数を誇る名門サンテティエンヌに肩を並べることになったわけだが、その記録さえも霞んで見えてしまうというのが実際のところだろう。

 2シーズンぶりのリーグ・アン優勝を決めた本拠地パルク・デ・プランスでのRCランス戦(第34節)では、68分にメッシがリーグ4得点目となる先制ゴールを決めるも、試合終了間際に10人で戦う相手に追いつかれ、せっかくのお祝いムードもトーンダウン。試合後にはピッチで選手たちが優勝に歓喜したが、どこかわびしさが残る風景にも見えた。

 ちなみに、この試合でマウリシオ・ポチェッティーノ監督が採用した布陣は3−4−3。最終ラインにマルキーニョス、セルヒオ・ラモス、プレスネル・キンペンベの3人が並び、前線はメッシ、キリアン・エムバペ、ネイマールのMNMトリオ。中盤にはアクラフ・ハキミ、イドリッサ・ゲイェ、マルコ・ヴェッラッティ、ヌーノ・メンデスの4人を配置した。

 実はこれこそ、指揮官がCL決勝トーナメント用の切り札として、年明けからテストしていた新布陣。しかし、セルヒオ・ラモスの戦列復帰が遅れたために、CLではお蔵入りとなった経緯がある。今シーズンの最適解になったかもしれないその布陣を、ほぼ優勝が確定していた国内リーグ戦でお披露目したこと自体も、PSGの今シーズンを象徴していた。

どうする膨れ上がった人件費

 いずれにしても、残る興味は、得点ランキングとアシストランキングの両方でトップに立つエムバペの個人タイトルに絞られた。むしろ人々の関心は、ほぼ終了した今シーズンより、明らかにオフシーズンの動きに集中している。

 まずひとつは、来夏まで契約を残しているポチェッティーノ監督の去就問題だ。

 監督として初めてリーグタイトルを獲得したポチェッティーノは、第35節の前日会見で残留の意志をあらためて表明したうえで、フロントとの関係性も良好であることを強調した。だが、依然として状況は不透明のまま。

 そもそも、これまで冷徹とも言える意思決定を繰り返してきたナーセル・アル=ヘライフィー会長が、レアル・マドリード戦での大失態を見過ごすとは到底思えない。すでにその火の粉は、一昨年のクリスマスにトーマス・トゥヘルを解任してポチェッティーノを招聘したレオナルドSD(スポーツ・ダイレクター)に降りかかっているのが現状だ。

 一部では、カタールの首長がアル=ヘライフィー会長を左遷するという報道もあったが、UEFA(ヨーロッパサッカー連盟)やECA(欧州クラブ協会)の要職に就いている人物をむげにできるはずもない。それを考えると、運命共同体のレオナルドSDとポチェッティーノが同時に責任を取らされる可能性は十分にあるだろう。

 現地報道では、後任候補として現在フリーのジネディーヌ・ジダンやトッテナム監督のアントニオ・コンテらを挙げているが、ジダンはカタールW杯後のフランス代表監督最有力候補であることは周知の事実。コンテにもまだ正式オファーした形跡はなく、おそらく来季の監督人事については、誰がSD職に就くかがターニングポイントになるはずだ。

 一方、ピッチに目を向けると、膨れ上がった人件費を削減すべく、今夏は現有戦力の大量放出が現実的と見られている。

 MFユリアン・ドラクスラー、MFレアンドロ・パレデス、FWマウロ・イカルディ、DFティロ・ケーラー、そして今シーズンはほぼ戦力外となっていたDFレイヴァン・クルザワらがその有力候補。これまでチームの屋台骨として活躍してきたFWアンヘル・ディ・マリアの契約延長も暗礁に乗り上げており、クラブを去る可能性が高まってきた。

 また、異例とも言える完全ローテーション制で起用されてきたふたりの正GK、ケイロル・ナバスとジャンルイジ・ドンナルンマも、どちらかがパリを離れると見られている。去るのがナバスなら売却、ドンナルンマの場合はローン移籍になるだろう。

エムバペの母親が会長と交渉

 そして最大の注目となっているのが、今年6月で契約が満了するエムバペの移籍問題である。実際のところ、来シーズンに向けたチーム編成は、そこがクリアにならないかぎり何も進まないというのが実情だ。

 昨夏に移籍志願したものの、クラブがそれを認めず契約最終年を過ごしてきたエムバペ。当初はCLラウンド16のレアル・マドリード戦後に、何らかの動きがあると見られていた。

 ところが、周囲の予想に反してレアル・マドリードとエムバペ側の移籍交渉は進んでいないようだ。当の本人も、第30節のロリアン戦後に「まだ決めていない。誤った選択をしたくないので、時間をかけて考えたい」と明言している。

 4月下旬には、エムバペの代理人を兼ねる母ファイザがカタールでアル=ヘライフィー会長と会談し、残留する場合の新規契約条件などを話し合ったという。

 PSG側が提示したのは、2年契約プラス1年オプション。今年の冬に開催されるカタールW杯までは、是が非でもエムバペに残ってほしいというスタンスを崩しておらず、そのためにはエムバペの肖像権をすべて本人側に譲り、チーム最高年俸を支払う構えだ。

 仮にエムバペが残留を選択するなら、お金以上にポイントになるのは、契約年数と契約解除の条件だろう。その意味では、今回PSGが提示した契約年数は現実的に見える。

 今後は、PSGの条件を吟味したうえで、エムバペ側が本命レアル・マドリードとの交渉に臨む段取りになるはずだ。

 果たして、マドリードでどんな話し合いが行なわれるのか。今夏のフリー加入になるのか、それとも来夏の加入条件の調整を行なうのか。あるいは交渉が決裂した場合は、第3のクラブが登場する可能性もゼロとは言えない。

 今シーズン終了後、いよいよ"エムバペ狂想曲"が本格的に幕を開ける。