レーシングドライバーJujuインタビュー元F1ドライバーの野田英樹氏を父にもつ、現役女子高生ドライバーJuju(野田樹潤)。2020年から海外で活動をスタートし、今シーズンからは女性のフォーミュラ選手権「Wシリーズ」に史上最年少の16歳で参…

レーシングドライバーJujuインタビュー

元F1ドライバーの野田英樹氏を父にもつ、現役女子高生ドライバーJuju(野田樹潤)。2020年から海外で活動をスタートし、今シーズンからは女性のフォーミュラ選手権「Wシリーズ」に史上最年少の16歳で参戦する。F1のサポートレースとして開催されるWシリーズは、世界からも大きな注目を集めている。新たなステージにチャレンジする野田親子に意気込みを聞いた。



今季、Wシリーズに参戦するJuju photo by NODA RACING CONSULTANTS

今季は3つのレースで世界を転戦

ーーJuju選手にとって今年最初のレースとなった、ヨーロッパ転戦のF3レース「ドレクスラー・フォーミュラ・カップ」第2戦がイタリア・モンツァサーキットで開催されました。1大会で2イベントが行なわれ、レース1は25位、レース2は11位という結果でしたが、どんな手ごたえでしたか?

Juju 予選はちょっと不運でした。雨が降ったり止んだりする難しい天候のなかで、路面が乾ききっていない状態で迎えることになって。ドレクスラーカップは出場台数がすごく多くて(39台)、予選でクリアラップ(※前走車などの外的要因に邪魔されず、ベストな状況でタイムアタックできた周回)を取るのが難しかったんです。

 ギリギリでクリアラップを取れそうなタイミングがあって、アタックに行ったのですが、まだ縁石が乾ききっていなくて前の車両がスピン。避けようとした私もクラッシュしました。このアクシデントとの直前に走ったわずか2周が予選成績となって、34位に終わってしまいました。

 予選と同じ日に開催されたレース1は、メカニックの方が頑張ってくれて何とかスタートに間に合いました。クルマは完璧な状態ではなかったですが、レースではぶつかることもなく、最後まで走りきることができました。

 翌日のレース2は自分のなかでは満足しています。34番手からスタートして、一回も接触することなくマシンを追い抜き、11位でゴールできました。最後にはいい形でまとめられたと思います。



リモート取材に応えるJuju。モーターホームで移動しながら家族と暮らす

ーー今年はドレクスラーカップ、Wシリーズ、デンマークF4の3つのレースに出場するとのことで、メインで戦うWシリーズに向けて経験値を上げる狙いがあるのですか?

Juju そういう目的はあります。あと今年で16歳になったので、年齢制限が緩和され、走れるサーキットが増えてきました。Wシリーズをメインにしていきますが、スケジュールが合う時は、もしかしたらドレクスラーカップとデンマークのF4以外にも出場するかもしれません。いろんなレースに出て経験値を積み重ねたいと思っています。

野田英樹 Wシリーズは練習走行が許されていないので、他にも何かレース活動をしないと、走行距離が稼げません。サーキットをただ走り込むよりは実戦を経験するほうがいいですし、ドレクスラーカップはWシリーズが開催されるF1のサーキットと重なり、コースを覚えることができます。総合的に考えて、このカテゴリーに落ち着きました。

 デンマークF4に関しては昨シーズン、Jujuがぶっちぎりで勝てるレースがたくさんあったのですが、チームのほうがトラブルを出して足を引っ張ってしまいました。本当の実力を見せる意味でも、スケジュールがうまく合えば、1〜2戦は出場したいと考えています。

ーーWシリーズは事前のテストがなく、ほぼぶっつけ本番でレースを迎えることになると。新人ドライバーにとっては厳しい環境ですね。

Juju Wシリーズは30分の公式練習があって、そのあとにすぐに予選です。ヨーロッパやアメリカの広いサーキットなら30分だけで何周できるのかなって感じです。サーキットを覚えるだけで終わってしまうかもしれません。

野田英樹 初めてのマシン、コースで30分間の練習走行をしたあと、いきなりの予選で前に行こうと考えて走っていたら、気持ちが焦るばかりで、取っ散らかってしまうと思います。だから1年目は別に順位を気にしないで、伸び伸びと楽しく、その場その場で自分ができることを精一杯やればいいと。やれることをすべて出しきったと思えるようなレースを目指すのがいいんじゃないかとJujuには話しています。



Jujuを指導する元F1ドライバーで父の野田英樹氏(左)

ーーWシリーズでは「アカデミー・チーム」に所属し、2022〜2023年の2シーズン戦うことが決まっています。どういう目標を持っているのでしょうか?

Juju 契約期間は2年で、落ち着いてレースができるチャンスをいただけました。今シーズンに関しては、すでに参戦して2〜3年目という選手から学べることは学んでいきたいです。あと私にとっては初めて走るサーキットばかりですし、クルマやチームなどすべてが新しくなります。その環境に少しずつ慣れていって、毎戦ベストの走りをして確実に成長することが今年の目標です。そして、参戦2年目には結果を残したいと考えています。

日本のファンに「成長した姿を見せたい」

ーー3月にはスペイン・バルセロナで行なわれたWシリーズのプレシーズンテストに参加しています。印象に残ったことは?

Juju 女性ドライバーだけというのはサーキットではあまり見慣れない光景で新鮮でした。これまでのレースでは女性選手が5人いれば多いなと思っていたので(笑)。でもヘルメットを被ってしまえば、女性だろうが、男性だろうが、10代だろうが20代、30代だろうがわからない。コースに出てしまえば関係ないと思います。

ーーWシリーズは今秋に鈴鹿サーキットで開催されるF1日本GPでもサポートレースとして開催されます。日本のファンにどんな走りを見せたいですか?

Juju もう半年もないんですよね。すごく楽しみです。海外まで来て生でレースを見たいと言ってくださるファンの方々もいるのですが、コロナの関係で日本から出られない状況でした。やっとファンの方にレースを生で見ていただける機会なので、成長した姿を見てもらいたいです。

ーー指導する立場として野田さんは今年、Juju選手にどんな成長を期待していますか?

野田英樹 これまでファミリーチームでやっていたなかから一歩外に出ていくわけなので、社会に出ていく第一歩だと思います。コミュニケーションや交渉能力などを磨いて、外の世界でも惑わされることなく、自分の能力を発揮できる力を身につけてほしいと思います。

 これまでのレースでは私が中心になってチームをつくっていますので、チーム全員が「Jujuを勝たせよう!」という気持ちで戦っていました。Wシリーズの新しいチームでも同じようにJujuを担当してくれるスタッフたちに、「勝たせたい」と思わせることができるのか。Jujuが努力をして、スタッフとコミュニケーションを取りながら、その環境を自分でつくり上げていかなければなりません。これまでと違って大変ですが、Wシリーズには帯同しますので、アドバイスやサポートはできると思っています。

Juju 課題を出せばキリはありません。チームやエンジニアとのコミュニケーションはひとつの大きな課題だと思います。しかも自分の母国語ではない英語でやらなければならないので、もっとハードルが上がります。でも将来、私にとっていつか絶対に必要になってくる部分なので、早めに経験できるのはラッキーだと前向きにとらえています。

家族4人でモーターホーム暮らし

ーー今シーズンは3カテゴリーに出場されるので、移動の連続だと思います。拠点はどこに置いて生活しているのですか?

Juju 現在は両親と小学6年生の弟と4人で、モーターホーム(キャンピングカー)で暮らしています。過去2年間はデンマークが拠点でしたが、今年は年が明けてからいろんなところを転々としていたので、まだデンマークに戻れてないんです。今年は、モーターホームでいろんなところを移動しながらレースをするのかなって思っています。

野田英樹 モーターホームは、Jujuを支援していただいているアドリアというメーカーが提供してくれています。アドリアで一番大きい「ソニック810」という車両で、シャワーやキッチンなどひと通りはついています。家族4人だと少し窮屈ですけど、2人だとちょっと広すぎるかなという感じです。ワンルームマンションよりはかなり快適に過ごせるかなと思います。

Juju 家族4人で全然生活できます。ベッドルームもクルマの前後に2つあります。それぞれのベッドルームは仕切ることができますので、自分のプライベートの空間もあって。すごく快適ですし、レースにも集中できています。

ーーレース以外の時はどんなふうに過ごしているのですか? 息抜きはありますか?

Juju 移動時間にアニメを見るくらいですね。ヨーロッパと日本は時差の関係で、私が起きたら日本は寝る時間。友達と連絡を取るにしても、なかなか時間が合わないんです。あと私は今、高校2年生なので勉強もしています。オンラインで授業を受けていますし、学校の課題がまとめて送られてくるので、それをやっています。

ーーモーターホームでの「旅」で最近楽しかったことは?

Juju この間、イタリアで一日だけ時間に余裕があったので海に行ったり、弟と川にいる鳥を見て遊んだりしていました(笑)。

ーーメインで戦うWシリーズが5月6〜8日、アメリカ・マイアミでスタートします。世界のトップカテゴリーで勝つという夢にまた一歩近づき、ワクワクしているのでは?

Juju そうですね! Wシリーズ参戦というチャンスを生かすことができれば、自分の夢に本当に近づくと思っていますのですごく楽しみです。でも今シーズンは2年目に結果を出すための学びの年。落ち着いて、楽しみながら戦っていきたいです。




【profile】
Juju

 野田樹潤 のだ・じゅじゅ 
2006年2月、東京都生まれ、岡山県育ち。3歳の頃に父からプレゼントされたカートに乗り始め、4歳でレースデビュー。6歳からF4マシンをドライブし、2020年から海外のレースに参戦。デンマークF4選手権ではデビューウィンを飾った。今季からはWシリーズで戦う。

野田英樹 のだ・ひでき 
1969年3月、大阪府生まれ。1982年にカートデビューし、1987年にフォーミュラカーレースにステップアップ。1989年に渡欧し、イギリスF3や国際F3000で活躍。1994年にラルースからF1デビューを果たす。その後、アメリカのインディ・ライツやインディカー選手権、国内最高峰のスーパーフォーミュラやスーパーGT、ルマン24時間レースにも出場。2010年に現役を引退。2013年に「NODAレーシングアカデミー」を開校し、世界で活躍するレーサーの育成に力を注いでいる。