とにかく、よく飛ばすバッターだった。 上林の母校である仙台育英高のグラウンドは、以前、遠征に来たプロのチームが練習場として借りた際、あまりの大きさに驚いたほどのサイズを誇る。両翼100メートル、センターは130メートルほどあり、見上げ…
とにかく、よく飛ばすバッターだった。
上林の母校である仙台育英高のグラウンドは、以前、遠征に来たプロのチームが練習場として借りた際、あまりの大きさに驚いたほどのサイズを誇る。両翼100メートル、センターは130メートルほどあり、見上げるほど高いネットがぐるりとグラウンドを取り囲む。
5月2日の西武戦で1試合2本塁打を放った上林誠知 そのネットにガンガン当てていた、いや”突き刺していた”のが上林だった。バッティング練習で、練習試合で、上林の下から上に向かって振り上げるスイング軌道から、とんでもない弾道の打球を何度も見せてもらった。
「とにかく体が強い。室内に天井からぶら下がっているロープがあるんですけど、上林はあっという間に腕だけで天井まで上がっていきますから」
仙台育英の佐々木順一朗監督があきれて笑っていた。
3年春のセンバツでは、どう見てもショートバウンドにしか見えない低めのボール球を器用に拾って、ライト前に持っていった曲打ちも見せた。上林の独特のスイング軌道がはまったのだろう。
だからといって、高めを苦にしているわけでもない。高めは高めで、とっさに両腕をたたみ込んで打ってしまう。でも、プロに入ったら、インコースに苦しめられるだろうな……そんなことを思っていたら、2年目の2015年、ウエスタンリーグで上林は、ツボの低めだけを狙い打って、首位打者を獲ってしまうんだから驚いた。
そして今年の春季キャンプ。140キロ後半のインコースの球を、バットのヘッドでボールの頭をポンと引っ叩くようなスイング軌道を見せた。難易度の高いスイングをいとも簡単にやってのける上林に、”覚醒”の予感が漂っていた。
しかし、ソフトバンクの外野陣は12球団随一のレベルの高さを誇る。これまでの実績、実力を考えれば、柳田悠岐、中村晃、長谷川勇也の3人で決まりのはずだが、長谷川のケガが長引き、席がひとつ空いた。
開幕当初は、江川智晃、福田秀平が”日替わり”でつとめていたが、4月終わりから先発で起用されるようになった上林が、5月に入り、3ラン、2ラン、満塁、ソロとアーチを量産。チームの5連勝の原動力となり、レギュラーの座をつかみ取った。
上林の活躍を見て、思い出すシーンがある。今年の春の宮崎キャンプでのことだ。
バッティング練習中にあっさり打ち損じて、苦笑いを浮かべていた上林にコーチ陣から鋭い声が飛んできた。
「若手のホープやったら、なんぼでもおるぞ、ウチには!」
一転、キリッと引き締まった表情で上林が振り返ると、さらに鋭い喝が追い討ちをかけた。
「外野にはな、内野からも回ってくるんやぞ!」
釜元豪に真砂勇介。入団当初はマシンの球でもなかなか前に飛ばなかった彼らも、このキャンプでは一軍に混じって、まったく遜色ない鋭い打球を右に左に飛ばしていた。
一躍スターダムにのし上がった選手が、半月もしたら別の名前に取って代わられても、誰も驚かないのがソフトバンクというチームの強さ、いや”怖さ”なのだろう。
だから、上林はいいチームに入ったと思う。突き抜けたセンスを持った者は、より高いレベルに置くほど、その実力を発揮する。上林の才能はまだまだこんなものじゃない。きっと我々が驚くようなことを、平然とやってのけるのだろう。猛烈なスピードで成長する上林のこれからが、楽しみでならない。