女子格闘家ファイル(3)鈴木なな子インタビュー 前編(連載2:「オンナ堀口恭司」渡辺華奈、アメリカで頂点を獲るためにやるべきこと>>) 東武東上線・東武練馬駅の線路沿い、ガラス張りのすっきりとオシャレな3階建ての建物が三迫ボクシングジムだ。…

女子格闘家ファイル(3)

鈴木なな子インタビュー 前編

(連載2:「オンナ堀口恭司」渡辺華奈、アメリカで頂点を獲るためにやるべきこと>>)

 東武東上線・東武練馬駅の線路沿い、ガラス張りのすっきりとオシャレな3階建ての建物が三迫ボクシングジムだ。吹き抜けで明るい2階のフロアに、数名の男子ボクサーとトレーナー、鈴木なな子の姿があった。挨拶をかわすと、鈴木は窓際に座ってシューズの紐を結び始めた。

 鈴木がボクシング女子日本ミニマム級王座を獲得したのは、立教大学4年時の2021年12月。この春に大学を卒業したが、就職はせずにプロボクサーとして社会へ踏み出した。そんな鈴木に、日本チャンピオンになった試合とその後、自分につけられる肩書などについて聞いた。



女子プロボクサーの鈴木なな子

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――鈴木選手はこの春、立教大学を卒業しましたが、コロナ禍で卒業旅行などは難しかったですか?

「そうですね、海外に行きたかったんですが難しかったので、1回も行ったことがない長崎がいいかなとは思ったんですが、それも、"まん防"の措置が取られたのでやめました。長崎は平和公園など、見てみたかった文化財がたくさんあるので、いつか行けたらと思います」

――卒業後はボクシング一本。就職は考えませんでしたか?

「まったく考えなかったですね。大学に入ってからずっとボクシングをやってきましたけど、卒業後もそのままやっていくことが『当たり前』のような感じになっていたので。悩むことはなかったです」

――大学4年間で目標だったベルトを獲得しましたが、チャンピオンになって心境の変化はありますか?

「達成感はあります。目標を達成できたことによってちょっと自信がつきましたし、『もっと上に行きたい』と強く思うようになりました」

――昨年12月の女子日本ミニマム級王座決定戦(同級2位の鈴木は、同級1位の瀬川紗代に2-1の判定勝ち)は競った試合でしたが、自身の動きはどうでしたか?

「自分でも『ちょっと硬いな』と感じていました。あとで映像を見たんですが、緊張しているのが表情に出ていて。ビックリするほどでしたね(笑)。それまでの試合も緊張はしましたけど、あの試合は特別でした」

ベルトを獲得して「あぁ、よかったぁ」

――試合前に、相手選手の研究は?

「普段から、相手の映像は見ますが、そんなに徹底的に研究をするわけではありません。自分はある程度のイメージを掴むくらいにして、あとはトレーナーの方に任せています」

――ラウンドが進むにつれて、その緊張がほぐれていった感じでしょうか。

「そうですね。私はもともとスロースターターではあるんですが、体が温まってきて、ちゃんとセコンドの声も聞こえるようになった。女子の場合は1ラウンドが2分ですし、タイトル戦でも6ラウンド。だからスロースターターなのは大きな課題です」

――勝利が決まって手が上がった瞬間の気持ちは?

「ホッとしました。すごくホッとした。1年ぶりの試合で緊張もしていたし、プレッシャーも大きかったですから。嬉しいというより、『あぁ、よかったぁ』と」

――相手の瀬川選手は日本体育大学ボクシング部出身で、いわゆるアマチュアエリートでした(アマチュア戦績:42戦31勝・14KO・9敗)。

「キャリアでは圧倒的に差があって、技術でも劣っていました。だから練習量は負けないようにしようと。試合でも気持ちでは上回ることができたと思いますし、それで競り合いを制することができたんだと思います」

――鈴木選手がプロデビューした時(高校3年時の2017年5月)と今とでは、女子ボクシングを取り巻く環境も少しずつ変わってきたんじゃないですか?

「選手はちょっと増えたような気がします。アマチュア上がりの選手も出てきたり、特に若い選手が多くなった印象です。これから、その流れが大きくなっていったらいいなと思います」

――競技の普及という点では、SNSを積極的に活用している選手もいますが、鈴木選手はどうですか?

「SNSは苦手です......ただ、プロボクサーとして何もしないのはよくないですよね」

色モノにはなりたくない

――ただ、同じ三迫ジムの晝田瑞希選手のSNSで、一緒に写っている様子からは楽し気な雰囲気が伝わってきます。

「彼女はとても面白いので、よかったら今度は一緒にインタビューしてください(笑)。彼女にもいろいろ聞きながら、SNSでさまざまなことを発信できるようになっていきたいです」

――これまでは、"女子大生ボクサー"などと肩書をつけられることが多かったと思います。それが気になることはありましたか?

「"女子高生"とか"女子大生"という肩書がつくことに関しては、特別な感情はなかったです。記事で読んだりすると、『そうですね』って感じで(笑)。女子大生のボクサーはアマチュアを含めたらたくさんいますし、その肩書きがなくなったからといって何も思いません」

――他にも、"美女ボクサー"というように、ビジュアルが注目されることも多かったですね。

「そういったふうに"色モノ"にはなりたくないですね。見た目を取り上げられるのもそんなに好きじゃないですし。私に興味を持ってくれるきっかけになるならいいと思いますが、そっちが主になっちゃうと違うかなと思います」

――今は日本チャンピオンですから、もうそんな扱いにはならないんじゃないですか?

「そうなってくれるといいですね。チャンピオンという肩書がついて、その印象のほうが強くなったらうれしいです。でも、チャンピオンとしてはまだまだ実力が不足してますし、上には上がいますから、もっと強い王者にならないといけないですね」

(後編:「2、3年以内に東洋チャンピオンになりたい」>>)

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(取材協力:三迫ボクシングジム)