日本人4人目の女性プロゲーマーとして活躍したはつめはつめインタビュー前編体が追いつかなかった 近年、eスポーツが急速に注目を集めている。全国高校eスポーツ選手権、STAGE:0、RAGE、X-MOMENTなどの主要な大会やリーグをはじめ、毎…



日本人4人目の女性プロゲーマーとして活躍したはつめ

はつめインタビュー前編

体が追いつかなかった

 近年、eスポーツが急速に注目を集めている。全国高校eスポーツ選手権、STAGE:0、RAGE、X-MOMENTなどの主要な大会やリーグをはじめ、毎週のようにコミュニティー大会が数多く開催されている。eスポーツの試合観戦や動画視聴をするファンは国内で約700万人と言われ、この数はさらに伸びていく見込みだ。

 しかしeスポーツの浸透度を考えるとまだ黎明期にあると考えられ、多くの課題を内包しているのも事実。今回は2017年に日本人4人目の女性プロゲーマーとしてデビューしたはつめに、自身の経験から感じたeスポーツの課題について語ってもらった。

 はつめは、格闘ゲーム「ストリートファイター」の全世界ツアー「CAPCOM Pro Tour」へ出場し、世界有数のプレーヤーが集う「EVO」にも参加。2018年にはプロゲーミングチーム「父ノ背中」に加入するなど、格ゲー界では知る人ぞ知る存在だ。プロゲーマーとしてメインストリームを歩んできた彼女に、当時を振り返ってもらった。

「毎年夏にラスベガスで開催されたEVOは、ティア(大会の規模や実力の階層)が高いのと、長く続いている大会ということもあって、毎年楽しみにしていました。3年くらいツアーで海外を回っていたんですが、本当に全部すごくいい大会でした。回数を重ねるごとに、全然知らなかった地元のプレーヤーたちに顔を覚えてもらったり、海外大会に行かなければ経験できないコミュニケーションがたくさんあったので、楽しかった思い出がいっぱいあります」

 はつめは、世界各地で開催された大会に出場し、充実の日々を送っていたが、負の側面も少なからずあった。

「当時は、金曜日の朝に飛行機で時差のある国に行って、大会に出て、月曜日に戻ってきて、また次の金曜日に飛行機でまた別の時差のある国に行く生活をしていました。それを3年くらい続けていたので、体調を崩すことが多かったです。

 最後の1年は、日本に帰ってくるたびに40度の熱が出ていて、数日で治して、また飛行機に乗るという生活をしていました。一緒に参戦するみんなも飛行機で寝るために睡眠薬を飲んで時差を合わせていたんです。それはやっぱり体にきますよね」

純粋なファンにはほぼ会えない

 楽しくも過酷な日々を送るなかで、はつめの意識は少しずつ変化していった。2020年夏にプロゲーマーとしての選手生活に区切りをつけ、2021年3月には父ノ背中を退団した。その理由をこう語る。

「当時、仲のよかったプレーヤーと、『プロゲーマーは、誰のためにゲームをやっているのかわからなくなるよね』と話をしたことがあるんですが、まさにそのとおりで、私も楽しさを見いだせなかったんです。プロの場合、大会のシーズン中に別のゲームをやっていると叩かれてしまうんです。だからやりたいゲームがあっても隠れてやっていました。

 そうなると、何が楽しくてプロをやっているのかわからなくなったんです。それがプロと言われるのもわかるんですが、心労のほうが大きかったですね」

 一般的にプロゲーマーは、アマチュア選手もエントリーするオープン大会にも出場している。リアルスポーツであれば、プロプレーヤーとファンは線引きされるが、eスポーツのオープン大会の場合、今までファンとして接していた人が、対戦相手にもなる。それゆえ、「純粋な気持ちで応援してくれる人に会うことはほとんどないんです」とはつめは語る。

 リアルスポーツの多くの選手が、「ファンのみなさんの喜ぶ顔を見たい」、「ファンの声援が後押しになる」と語るが、eスポーツではその思いが芽生えにくいケースも少なからずある。

朝起きてもやることがない

 はつめは現在プロゲーマーの肩書を捨て、ゲーム実況などをライブ形式で配信するストリーマーとして活動。気持ちも一新し、「ゲームって楽しいんだな」と再発見する日々を送っている。彼女は主にストリーマーとして生計を立てているが、日々の生活は一般的な社会人とはだいぶ趣が違う。

「(活動は)夜型です。一番大きく違うのは、朝起きてもやることがないことですね。(オンライン対戦する)プレーヤーがまずいなくて、マッチングしないんです。配信をしている人もいないからやることがない。だから午前中に起きると、損したなと思っちゃうんですよ」

 はつめのようなストリーマーは、基本的に夜型。ゲームのアクティブタイムが夕食を食べ終わってからということもあり、ゲーム配信をしたり、オンラインで対戦したりすることを考えると、体内時計をそちらに合わせざるを得ない。当然、この不規則な生活は健康にも悪影響が出る。

「眠れないとか、眠りが浅いという話はよく聞いています。2時間寝て起きて、今度は3時間寝て起きてを繰り返し、計10時間くらい寝ているからOKみたいな生活をしています。それで体調を崩している人が多いですし、みんな自律神経を壊しがちだと思います」

 さらに「プロゲーマーやストリーマーのなかには、学生や社会人などと二足の草鞋を履く人もいて、授業中に寝たり、仕事の合間に寝たりと、さらにハードな日常を送っている」とはつめは言う。

 彼女自身は、そこまでハードな生活ではないが、起きるのはやはり昼過ぎ。先日、WOWOW主催の大会「WOWOW eSportsアマチュア No.1 決定戦」に出場した際には、13時の開始時間に「起きる自信がなかった」ため、寝ずに大会に臨んだほどだ。

精神と時の部屋でゲーム

 さらに、はつめをはじめ、ゲーマーのプレー環境にも改善の余地がある。

「(パソコンの排熱もあって)冬でも暖房をつけなくても大丈夫です。外の気温はわからないし、カーテンもほとんど閉め切っています。窓に遮音材を貼ってあって、時間も曜日もわからない。私はこの場所を『精神と時の部屋』と呼んでいるんです(笑)。ゲームをやればやるほど、人はどんどん暗くて狭いところに入っていく。

 それはもう体調を崩しますよね。ほとんど外に出ないので、外出するときに(気温に合わせられず)服を間違えたという話をよく聞きますし、そこで体調を崩す人も多いと思います」

 深夜の長時間プレーが常態化し、健康への悪影響が叫ばれているなか、eスポーツの課題を解決するために、近年、企業側も積極的に参入している。

「私がお世話になっている眼鏡ブランドは、目に特化した専門家がたくさんいて、目の筋肉の構造から教えてくれました。私の目の弱い部分を教えてくれて、そのためのトレーニングをしたり、目の休め方も学びました。選手によっては整体師がケアしてくれたりしています。最近はどんどんいろんなものが導入されている途中かなと思います」

 団体戦のリーグに参戦しているeスポーツのプロチームでは、食事が用意される合宿所で、練習に支障が出ない程度に規則正しい生活を送れるようになっていたり、学校のeスポーツ部では、プレー時間に制限を設け、定期的な体調管理も行なうなど、健全に競技を楽しめるようにと、さまざまな取り組みが始まっている。

 はつめが語ってくれたように、eスポーツ選手を取り巻く環境の改善は年々進歩しているものの、まだ着手したばかりという印象が強い。はつめが「eスポーツの課題はひとつやふたつでは語れない」と言うほど、まだ山積しているのが現状だ。

後編に続く>>

■Profile
はつめ
1998年生まれ、千葉県出身。18歳でプロ契約し、格闘ゲーマーとして活躍。世界各地で開催されるCAPCOM Pro TourやEVOなどに参加。2018年にプロゲーミングチーム「父ノ背中」に加入。2020年夏にプロゲーマーからストリーマーに転身。2021年3月にチームを退団。現在はストリーマーとして活躍し、テレビ、新聞などにも出演している。