今年は、人気球団の阪神とBIG BOSS・新庄剛志監督の話題で日本ハムがペナントレース早々に連戦連敗が続き、「勝てない」ことばかりがフィーチャーされるなど、珍しいムードでシーズンが進んでいる。 そんななか、パ・リーグは楽天が首位を走り、2…
今年は、人気球団の阪神とBIG BOSS・新庄剛志監督の話題で日本ハムがペナントレース早々に連戦連敗が続き、「勝てない」ことばかりがフィーチャーされるなど、珍しいムードでシーズンが進んでいる。
そんななか、パ・リーグは楽天が首位を走り、2年ぶりの王者奪還を目指すソフトバンクが0.5ゲーム差で追っている(4月24日現在)。藤本博史新監督のもと開幕8連勝を飾るなど、上々のスタートをきった。
4月24日現在、パ・リーグの打率5位と活躍中のソフトバンク・三森大貴
代役から不動の1番へ
その8勝目を呼び込んだのが、三森大貴(まさき)の逆転3ランだった。2点リードされた2回、前の打者・甲斐拓也が三振に打ちとられて二死になった直後、嫌な流れになりそうな気配を覆(くつがえ)す打球は、福岡 PayPayドームのライトスタンドに飛び込んだ。
いかにも三森らしいバッティング──青森山田高校時代から彼のプレーを見てきた者には、そう思えた。
その力感で、どうしてそんなに飛ばせるんだ。オリックスの先発・山﨑颯一郎が少し力んだ感じで投げた速球が高く浮いたところを、バットのヘッドを立て、上からパチンと引っ叩いた打球は「ええっ......」と思うほど、飛距離が出た。
2020年の盗塁王・周東佑京が、昨シーズン途中に右肩関節唇の手術で戦列を離れ、ポッカリ空いたセカンドのポジションを、育成出身の12年目の叩き上げ・牧原大成や、快速ルーキー・野村勇らと競い、三森は2月のキャンプからしぶとく、勝負強く、一軍内野陣に踏みとどまった。
キャンプ後半の紅白戦やその後のオープン戦で、追い込まれてもファウル、ファウルで粘り、根気の尽きた投手の失投をスパッとヒットにする場面を何度も見た。その打撃が認められ「1番・セカンド」で開幕スタメンを果たすと、その後も22試合中18試合にリードオフマンとして出場している。
守備でも、セカンドだけじゃなく、ショート、サード、ファーストも守って、同様の高い水準で堅実にアウトを重ね、とくに難しい打球をさばいてアウトを奪う時の球際の強さには、目を奪われるものがあった。
強いチームというのは「アンダースタディ」が必ずいる。いつ出番が回ってくるかわからないのに、いつも準備万全で控えていて、いざ起用されると、レギュラーとなんら遜色のない働きをみせる。まさに、今年の三森がそれである。
ガリガリだった高校時代
じつは、2016年のドラフトで、三森がソフトバンクから4位指名を受けた時、「ええっ」と声が出るほど驚いた。それほどに、当時の三森は体力的に心もとなかった。
前年の秋、明治神宮大会に出場した時の三森の姿は、今も鮮烈な印象として残っている。ショートを守って、4番打者。しかし当時で、184センチ、70キロほどの薄っぺらく見えるユニフォーム姿からは、4番らしい威圧感はまるで漂ってこなかった。
ところが、初戦・東邦(愛知)との試合で三森はセンスを見せた。たしか、左腕の内角ストレートだったと思う。右半身の開きを目一杯我慢しておいて、コマのようにクルッと鋭く体を回転させると、体に巻きついたようなスイングからあっという間にライナーがライトポール下に届いていたから驚いた「ガシャン!」と聞こえたインパクトの衝撃音と、打球スピードがすごかった。
あの細い体から、どうしたらあの打球になるのか......。
守備、走塁でも、長い足を生かした大きなストライドで、ワンプレーの輝きをさらにまぶしく見せていた。
「中学の頃から、運動神経とボールの扱いのうまさは抜群でしたね」
兜森崇朗監督は青森山田中学・高校で、三森の「青春期」をともに過ごした。
「中学の野球部を指導している時に入学してきて、彼が高校2年の秋に、私が高校の監督に移りましたから。当時から野球カンの鋭さやバットコントロールは光ってましたね。バットの重さと長さをうまく利用して、打球を飛ばせる独特なバッティングスタイルを持ってました」
反面、体は細く、筋力や体力はまだまだだったと言う。
「結構、野球の話も、突っ込んだ話をしたがる子で、バッティング技術も一級品でしたけど、それ以上に、ピッチャーの配球に対する"読み"が鋭かった。私もそういうことに興味があったので、カウント球は何なのか、勝負球は何なのか、こういう場合はどんなボールの確率が高いのか。正攻法でくるピッチャーなのか、裏をかいてくるタイプなのか......そんな話を選手たちによく話していました。なかでも三森はすごく熱心に聞いていました。高校時代から思いきりよく『スパーン!』と飛ばしていたのは、配球読んでないとなかなかできないですよね。2年生の秋には5割ぐらい打って、三森の活躍がそのままチームの台頭になって、センバツにつながりましたから」
青森山田の二遊間コンビの可能性
186センチの長身がゆえ、一軍に定着しようかという今はどうしても足元を攻められる。それでも150キロ前後の速球にスライダー、サウスポーからはツーシームを沈められても、ギリギリまで球筋を見極めて、最後の最後でスパッとバットを出して、ファウルを打てるのは、立派な「プロの技術」だろう。バットコントロールの自在性とスイングスピードが兼ね備わっていればこその"芸当"である。
相手バッテリーにしてみれば、なかなかアウトになってくれない打者......。散々、体力を消耗させられ、面倒くさくなったところで、ポンとシングルで出られた時の"疲労感"は、やられた者でなければわからない。
鼻の下にヒゲをたくわえ始めたせいか、クールに見える横顔のせいか、攻守にプロらしい渋さを感じるプレースタイルのせいか、もう10年ぐらいはプロの飯を食ってきた選手かと思っていたら、1999年2月生まれの23歳。まだプロ6年目の「若手」じゃないか。
2016年のドラフトでソフトバンクに入団した同期10人(育成も含む)のうち、現在チームに残っているのは、田中正義と九鬼隆平、そして三森の3人しかいない。想像をはるかに超えるサバイバルを生き抜いたしたたかさが、まだ若い「23歳」の表情に、人としての深みを刻み込ませたのかもしれない。
「去年までの5年間、ファームが長くて、故障もあったのに、よく腐らずに辛抱したと思いますね......ソフトバンクの競争の激しさは有名ですものね。立派だと思います」
今年の三森のプレーをテレビで見ながら、兜森監督にはちょっと思うところがあるという。
「プロで鍛えて、今年6年目ということですけど、まだ体力的に未知数の部分がありそうだな......というか、もっと頑丈な体になれるんじゃないかっていうのか、まだ体力的な伸びしろを感じるんです。とりあえず、開幕1カ月は活躍させてもらってますけど、このまま今年1年、フルシーズン働ける体力があるのか......そこが心配な部分でもあるし、楽しみでもあるんです。彼の真価が問われるシーズンですよね。今年の三森が23(歳)でしょ。27、8ぐらいになって、本当に頑丈な体になったら、とんでもない選手になるんじゃないかなぁ」
そういえば......と、思い出したことがあった。
三森に遅れること4年、同じ青森山田から2020年ドラフト4位でソフトバンクに進んだ川原田純平。この「なかなかエラーしない2年目の遊撃手」も、ファームの実戦のなかで、じわりじわりと腕を上げていると聞いている。
兜森監督が楽しみにする27、8歳の三森の横で23、4歳になった川原田がショートを守っていたら......。
青森山田の二遊間コンビ──そこまで青森山田を持ち上げることもないのかもしれないが、そういう「妄想」って、なんだかとっても楽しいものなのだ。