投手・大谷翔平がいよいよ本領発揮だ。4月20日(現地時間:以下同)、敵地ヒューストンで行なわれたアストロズ戦に「1番・…
投手・大谷翔平がいよいよ本領発揮だ。4月20日(現地時間:以下同)、敵地ヒューストンで行なわれたアストロズ戦に「1番・投手兼DH」として出場したエンゼルスの大谷は、6回1安打12三振無失点で今季初勝利を手にした。

大谷自身も開幕当初は打撃が本調子ではないと自己分析していたが、現在は?
アストロズとの対戦は開幕初戦(4月7日)以来、今季2回目。その初戦、大谷は4回2/3を投げて4安打9三振1四球1失点だったが、交代後に指名打者を務めた大谷を含めたエンゼルス打線は不振に終わり、試合は1−3で負け投手になった。
2回目の先発となった14日のレンジャーズ戦は6失点を喫して2連敗。しかし、20日の大谷は別人だった。昨季の地区優勝チームであるアストロズ打線を相手に、6回1アウトまでパーフェクト。この日、大谷は「自身の状態や相手打線の反応を見ながら配球の割合を変えた」と試合後に語っていたが、それは数字にはっきりと表れていた。
過去2度の登板はフォーシームが全体の約40%を占めたが、20日のアストロズ戦では主体をスライダーに変更。81球のうち35球で全体の約43%。過去2試合での約30%に比べるとその違いは明らかだ。試合ごとに修正を重ね、理想的な形を追う姿勢が、大谷が進化を続ける理由なのかもしれない。
一方で打者・大谷についてはどうだろうか。今季は、現時点では少々控えめな印象があるファンも多いかもしれない。それは、13試合で13安打3本塁打9打点17三振、打率.236という打撃成績が理由だろう。
ただ、ここまでの大谷の打撃成績は、実は昨年の同時期(同試合数)の成績とほとんど変わりない。2021年4月1日から4月16日までの13試合で、17安打4本塁打12打点14三振、打率.333だった。
確かに開幕直後には、一部の現地メディア関係者から大谷の打撃に心配を寄せる声はあった。『AP通信』のグレッグ・ビーチャム記者は4月12日、自身のSNSで「大谷は今日3三振を喫し、これで今季8個目。(昨季の)ア・リーグMVPのシーズン開幕は24打数で3安打とスランプな状態だ」と発言した。
大谷の驚異の修正力
2年連続MVP獲得への期待の大きさを考えると、今季開幕から8試合、31打席目で本塁打が出るまで、このように心配する声が上がっていたのも無理はないだろう。ただ、シーズンは始まってまだ3週間。序盤もいいところだ。大谷への期待が過剰になってしまっているのかもしれない。
大谷自身、開幕直後に打撃が本調子ではなかったことをメディアに明かしている。4月14日、敵地でのレンジャーズとの試合後の会見ではこのように話した。
「(14日までの自己評価)甘い球を見逃すことがあるので、自分の状態がそこまでよくないかな、という印象は強いです」
大谷はさらにこう続けている。
「(その時点で29打席5安打という状況に)すごくいい状態ではないですけど、結果よりは、そんなにひどくはないかなとは思います。一歩の動きの少しの遅れとか、そういうことが原因かなと思うので、もう少し大胆に動けるような準備をしたいなと思います」
それ以外にも大谷は、スイングの動き出しに遅れがあることや、打球の軌道のズレがノーアーチの原因であると自己分析を語った。
しかし、大谷の修正力は驚異的だ。翌15日の試合で1試合2本塁打を、16日の最後の打席でも本塁打を放った。2試合連続弾で3本という活躍に現地も大興奮。熱狂的な大谷ファンで知られる『FOXスポーツ』のアナリスト、ベン・バーランダー氏は4月19日、自身がMCを務める「フリッピン・バット」で「彼がついに目覚めた。昨季のMVPが戻ってきた」と喜びを爆発させている。
もっとも、現地でも大谷の打撃復活はすでに予見されていたことである。スポーツメディア『ジ・アスレチック』の記事(4月15日付)で、エンゼルスのジョー・マドン監督のコメントが次のように紹介されている。
「彼は大丈夫だ。問題ないとだけ言っておこう。スイングはいいし、調子もすぐに上がる。彼はホットになり、ショーヘイらしいことを始めるだろう。現在の数字がどうであれ、彼は昨季とまったく同じ(好調な)状態だ」
三振数、出塁率も改善
30打席ノーアーチは、大谷にとってもチーム首脳陣にとっても大した問題ではなかった。大谷の打撃力は昨季よりも向上している。その一端が見えたのは4月10日、本拠地でのアストロズ戦で3回に放った、今季初長打となる二塁打。その打球速度は自己最速の119.1マイル(約191.7キロ)。左打者ではメジャー最速だ。本塁打が出なかったのも、本人の言うとおり、ただ軌道にズレがあっただけだったのかもしれない。
昨季と大きく違う点のひとつは、今季の大谷の後ろ(2番)にはマイク・トラウトが控えていることだろう。昨季に比べると相手バッテリーから勝負される機会が増えており、大谷自身も「ストライクは去年より、特に最後のほうより多い印象はあります」と認識している。前出の『ジ・アスレチック』には次のような記述もあった。
「『ベースボール・サバント』(MLB公式のデータ分析サイト)によれば、2022年大谷に投げられた球のうち29%がプレートの中心を通っている。これはリーグ平均(26%)よりも高く、(大谷の)昨季の22%をはるかに上回っている」
トラウトは16日に四球を受けてスタメンから外れているが、現地時間22日からの本拠地でのオリオールズ戦で復帰すると予想されている。チームにとってはもちろん、打撃の調子を上げてきた大谷にとっても成績アップの追い風になるだろう。
さらに、エンゼルスの専門メディア『ヘイロー・ハングアウト』のエバン・デサイ記者は、大谷の打撃について次のような意見を述べる。
「(大谷に対する)相手投手のアプローチは変わったかもしれませんが、それは昨季の成績から予想されていたことで、彼はそれらに対応できる才能があることを私たちは知っています。もちろん長いシーズンの間で調子が落ちることはあります。大谷選手にとってそれが、たまたまシーズン序盤だっただけのことでしょう」
とはいっても、昨季の同時期に比べるとわずかであるが三振数は増えている。それについて、デサイ記者は、次のように反論した。
「大谷選手は"馬鹿げたスイング力"を持っている男です。そのおかげで本塁打や長打が出ているわけですから。常に最高速度でボールを打てるわけではありませんし、大谷選手にはフルスイングが求められているので、シングルヒットを打つことなどに集中できなくなっている可能性はゼロとは言えません。
しかし、18日からのアストロズとの3連戦では、たったの2三振で出塁率も.429でした。彼はまったく問題ないし、今でも世界最高の選手であることに変わりはありません」
著者はエンゼルス地元紙『オレンジ・カウンティ・レジスター』で番記者を務めるジェフ・フレッチャー記者にも大谷の打撃について意見を求めた。しかし彼は、「大谷選手の打撃について何かを語るにはまだ早すぎると思いますよ。彼は大丈夫です」という回答を得た。
このように現地メディア関係者の見解によれば、現時点の大谷は投打ともに「まったく問題ない」ようである。打撃の調子も取り戻し始めた大谷に、さらなる躍動が期待できそうだ。