皇治インタビュー 前編 4月7日、那須川天心と武尊が約2カ月後に迫る「世紀の一戦」に向けた会見を行なった。昨年12月24日の対戦発表会見以来となる顔合わせで、両者は煽ることも、慣れ合うこともなく心境を語った。 6月19日の「THE MATC…

皇治インタビュー 前編

 4月7日、那須川天心と武尊が約2カ月後に迫る「世紀の一戦」に向けた会見を行なった。昨年12月24日の対戦発表会見以来となる顔合わせで、両者は煽ることも、慣れ合うこともなく心境を語った。

 6月19日の「THE MATCH 2022」で勝ち名乗りを上げるのは "神童"か"3階級王者"か。ふたりと対戦経験がある皇治選手に、それぞれの強み、勝敗のポイントを聞いた。




那須川天心と武尊、両者と対戦経験がある皇治が試合展開を予想した

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――あらためて、注目の一戦の展望をお伺いできたらと思います。

「ホンマはこの試合のことを話すのは嫌で、そういうオファーも断ってきたんやけど......今回は特別ですからね」

――ありがとうございます! では、今回の契約体重、前日計量が58kgで、当日が62kgという点から。リカバリーできる幅が4kgな点についてはいかがですか?

「戻していい幅が4kgまでなら、普段の試合とあんまり変わらないんじゃないですかね。俺も若い時はリカバリーで5、6kgくらい戻してましたけど、今は4kgくらいですし。あんまり戻しすぎても動けなくなっちゃいますから。

 戻していい体重を考えながら、というのはストレスにはなるでしょうけどね。しんどくて長い減量が終わったあと、一気に飲み食いしたいでしょうし。でも、集中が切れにくくなることはあるかもしれない。これは"格闘家あるある"で、計量が終わると集中が切れちゃう選手も多いんですよ。それでリカバリーで食べすぎちゃったり。そういう意味では、この条件は選手にとって損ではないと思います」

――皇治選手は、2020年9月の『RIZIN.24』で天心選手と対戦したあと、「武尊のほうが強い」とコメントしていました。これは、2018年12月に行なわれた武尊選手との試合と比べての感想ですか?(試合はどちらも0-3の判定負け)

「ルールがあるスポーツという点では、圧倒的に"うまい"のが天心。一方でケンカじゃないですけど、単純に"強い"のは武尊という印象です。武尊とは『コイツとは命をかけて戦わないとヤバい』と思ったんですけど、天心との試合は『うわ~、オモロない』って感じでした」

――簡単に言うと「決闘か競技」か、という感じでしょうか。

「そうですね。でも、武尊がこれだけ注目されながら"ド突き合う"のはもちろんそうだけど、勝利のために天心が空気を読まずに"スポーツする"のもかなり勇気がいること。その2人がどう相対するのかは注目ですね」

――予想される試合展開は?

「さっき注目と言いましたけど、たぶん噛み合わないでしょ(笑)。メチャクチャ面白くない試合になる可能性も大いにあると思います。負けた側が言うのもアレやけど、俺と武尊の試合は面白かったと思うし、それなりに反響はあった。でも、俺と天心の試合はそうじゃなかった人が多いでしょうね。俺の実力不足っていうのは置いといて。

 俺が武尊とは噛み合って、天心とはそうじゃなかったということは、単純に考えたら2人は噛み合わないってこと。面白くなるかどうかは、天心がどう戦うかがカギになるんやろなと。武尊はいつもどおり殴り合って、圧力をかけていくと思いますから」

――ワンキャッチワンアタック(相手をつかんでの攻撃は、1回のつかみにつき1発だけ)のルールについては?

「それは、どっちが有利ってのはないと思いますよ。影響があるとすればラウンド数でしょう」

――ラウンド数の影響とは?

「長くなれば圧力がある武尊が、短いラウンドだったら天心が有利だと思います。昨年12月の会見では、武尊が『延長無制限で』とも言ってましたけどね。実はちょっと前に、偶然サウナの中で天心と会ったんですよ。その時は、ラウンド数について『もう決まっている』みたいな話をしてましたが、どうなるか注目ですね」

※4月7日の記者会見で発表されたラウンド数は、3分3ラウンド・延長1ラウンド。延長ラウンドのみマストジャッジで必ず優劣をつける。

――実際に対戦して感じた、両者の攻撃時のプレッシャーの違いは?

「武尊は殺気を感じるくらいきますよ。天心は、そういう圧力はない。『2人は階級が違う(武尊は現在60kg、那須川は主に55kg)』という人もいるんですけど、もともと武尊も軽いですからね。最初はスーパー・バンタム級の55kgだったから、天心のほうが少し小さいかもしれないけど、骨格はそんなに変わらないはず。いずれにせよ"ちびっこ対決"ですね(笑)」

――皇治選手と対戦した時の天心選手は、契約体重が58.5kgでした。あの試合での印象は?

「その体重でも、パワーはそんなに感じなかったかな。でも、スピードはメチャクチャあってフットワークが速かった。天心はパンチを打ったらもうその場所にいないから、その点は武尊も相当シンドイでしょうね。ただ、今の天心はスタイルが変わっちゃってるので、また違うかもですけど」

――スタイルの変化とは?

「最近、天心はKO勝ちがない。それは『パワーに走ってるから』です。俺も若い時は"浪速のKOエンペラー"って言われるくらい倒してましたが、大事なのはスピードとタイミングなんです。いわゆる"相手には見えないパンチ"を打てるかどうか。でも、キャリアを重ねると力に自信を持ちすぎて、逆に倒せなくなっちゃうんですよね」

――武尊選手との試合に向けて、修正してくるでしょうか。

「幼い頃から天心を指導してきた親父さんがしっかり見れるなら、以前のような感覚も戻るかもしれないですね。俺が見てる感じでは、最近はあんまり指導できていないのかなとも思うの で。まぁ、親子ですからいろいろあると思いますけど」

――天心選手はボクシング転向を見据えてジムに通ったりと、パンチの意識が変わったことも影響していますか?

「かなりあると思います。天心がパンチでいかずに、蹴り中心でいったら強いですよ。あの蹴りがあるから、パンチも当たっていたわけだし。......と口で言うのは簡単なんですけどね。『じゃあ、お前がやれよ』とも言われるやろうけど(笑)、難しいんですよ」

――武尊選手で心配な点はありますか?

「武尊は、前回のレオナ・ペタス戦(2021年3月28日)から1年以上もガチの試合をしてないし、天心のことだけを考えて追い込むのが早すぎる。あれだと、天心戦まで持たない気がするんですよ。

 一方で天心はいい感じに"抜けて"いる。先ほど言った、サウナで会った時もリラックスしてましたね。サウナで天心と会うのは初めてでしたけど、周りの人らもビビってましたよ。『あれ、皇治や!天心もおるやん!』みたいに(笑)。サウナでリベンジしたろと思ったら、天心はサウナも強かった......。俺が『もう無理』と思って出たあとに5分くらい入ったままでしたし、そこでもストイックに追い込んでました」

――サウナでは、ラウンド数のほかにどんな話を?

「そもそも俺は、ほかの選手とは仲良くしないんです。表でバチバチやって、裏で仲いいっていうのが気持ち悪くて。でも、もう俺も32歳だし、天心は戦ったあとだからいいかなと思ってフランクに話してます。サウナでは、天心から『スパーリングして下さい』と言われたかな。武尊が圧力ある選手だから、それを仮想してでしょうね」

――もうスパーはやったんですか?

「いや、『ええわ~』って断りました(笑)。やってもよかったんですけど、俺はサウスポーが嫌いなんですよ」

――武尊選手は、サウスポーの選手との相性はどうなんでしょうか?

「苦手な印象はありますね。ここが、天心の一番のアドバンテージだと思います。天心はオーソドックスの選手とやるのが普通。一方の武尊は、これまでサウスポーとの対戦自体が少ないですし、対策はなかなか難しいですからね」

――カード発表から試合までの6カ月で、サウスポー対策は?

「難しいですね。オーソドックスのアウトボクサーvsサウスポーのファイターだったらしっかり戦えるんですけど、今回は逆だから。武尊はオーソドックスのファイター、天心はサウスポーでアウトボクシング寄りだから、特に武尊はやりづらいと思います。ガチガチに打ち合うサウスポーだったら苦にしないでしょうけど......」

――なるほど。さまざまな視点からのお話、ありがとうございます!

「予定よりだいぶ語ってもうたな......まぁ、喋ると決めたことはとことん喋らんとね(笑)」

(後編:「成功する人は、ホンマに挑戦した人だけ」。金と知名度を手に入れて気づいた、バカにされても挑戦を続ける理由>>)

【プロフィール】
■皇治(こうじ)
1989年5月6日生まれ。大阪府出身。
日本拳法の師範であった父の影響を受け、4歳から始めた日本拳法、空手の大会でも好成績を残す。プロ転向後、初代HEATキックルールライト級王座、ISKA K-1ルール世界ライト級王座を獲得。2016年より主戦場をK-1に移して人気選手に。地元・大阪での2018年12月の大会では、メインイベントで武尊と壮絶な殴り合いを演じた。2020年7月、RIZIN参戦を発表した。