皇治選手インタビュー 後編(前編:那須川天心vs武尊をマジメに予想>>) 皇治の専用ジムは、世田谷区の閑静な住宅街にある3階建て。1階はリングとサンドバッグ、高い天井からはロープが垂れている。2階はさまざまな器具を揃えた筋トレルーム、3階は…

皇治選手インタビュー 後編

(前編:那須川天心vs武尊をマジメに予想>>)

 皇治の専用ジムは、世田谷区の閑静な住宅街にある3階建て。1階はリングとサンドバッグ、高い天井からはロープが垂れている。2階はさまざまな器具を揃えた筋トレルーム、3階はソファやデスクが並ぶ事務所だ。

 格闘技で名を上げ、"自分の城"を築いた皇治。成り上がった男が考えるキックボクシングの引き際、さらなる夢とは?



K-1やRIZINなどさまざまな団体で戦ってきた皇治

***

――皇治選手はRIZINとK-1の両方でメインを張ってきました。武尊選手と那須川天心選手の試合が決まったことで、RISEも含めて各団体の"壁"が取り払われたことについて何を感じますか?

「俺はその壁を壊すために『みんなで頑張ろう』と思ってたんですけど、武尊と天心、2人だから今回の試合が実現した。それがすべてでしょう。同じ選手の立場としては悔しいですけどね。トップ同士の選手が対戦できずに終わったら、その下の選手は絶対に"交流戦"ができないままだったろうけど、それが覆った。

 俺もK-1で勢いのある時にいろいろ動いて(RIZIN参戦など)、それにみんなが続いて盛り上がればいいなと思っていました。まぁ、ひとりで暴走してたって言う人もいるでしょうけど(笑)」

――皇治選手も、「人気選手が団体を離れ、別の舞台に上がる」という選択肢を示しました。それでも武尊選手と天心選手のビッグマッチは別物なんですね。

「ものすごく高くて分厚いと思われてきた壁が壊されたのは、紛れもなく2人のおかげ。だから6月の大会は2人のものなのに、ダサい格闘家はみんな『自分もあの団体の、あの選手とやりたい』って乗っかるでしょ。ずっと所属の団体だけで試合してきて、YouTubeで『武尊と天心、どっちが勝つか』みたいな予想で再生数を稼いで、いざ試合が決まったら『自分も出たい!』って......ホンマに選手としてプライドはないのかと」

――でも、もし皇治選手に熱烈なオファーがあった場合は?

「それは当然......ファイトマネーがすごかったら(笑)。ってのは冗談で、武尊と天心の試合を盛り上げられるような、ファンが本当に熱望するようなカードが組めるなら。そのくらいじゃないと無理です」

――以前は、「5月がキックボクシングのラストマッチ」とも発言されていました。K-1参戦の前に皇治選手が出場していた『HEAT』の大会ですね。

「HEATのチャンピオンになってから、『ISKA』で世界のベルトを獲って、そこからK-1で活躍することができた。HEATにはすごく恩があるから、それを返したいと思っているし、しかも今回が50回の記念大会。RIZINの榊原(信行)CEOは他の団体の試合に出ることも禁止しないですし」

――それが、最後のキックボクシングの試合になる可能性もあると。

「できれば、そこから次に挑戦できたらいいなと思っていますけどね。これまでもですけど、やっぱり『新しいことに挑戦したい』って思いが強いので」

 今回のインタビューは『RIZIN.34』(3月20日)での梅野源治との再戦直前に行なったが、その試合に勝利後、皇治は6月の「THE MATCH 2022」での「キックボクシングのワンデートーナメント(60kg)」開催を提案。そこでも「武尊と天心にちょっとでも力になれるカードなら」と発言した。K-1、RISEの選手の名を挙げていたが、複数団体がミックスされたトーナメントも、皇治の「新しい挑戦」なのかもしれない。

――皇治選手はプロ格闘家として、子供の頃に描いていた夢をもう叶えているようにも思います。

「そうですね。小学生の頃の日記に書いた夢が、『有名になること』『K-1選手になって金を稼ぐ』ですから、それは成し遂げましたね。そのために、周囲の人に止められるくらい練習しました。三部練、四部練も当たり前でしたよ。

 でも、有名になって、金を持つようになってからは全然練習しなくなって。女の子とも遊ぶようになったし、ありのままに生きてきたんです。そりゃあ勘違いもしますよ。ちょっと名が売れたら、どこに行っても『皇治くん、皇治くん』ってもてはやされて、何でも許されるようになるわけですから。

 もともとは俺自身がそうなりたかったはずなんですけど、あれはRIZINに参戦する前後でしたかね、『この生き方は本当にカッコ悪い』と気づいたんです。そこから遊びも卒業して、また一生懸命に練習を始めました。今は昔みたいに、トレーナーに『もういいよ』って止められますし、ハングリーな部分を取り戻せたのかなと思います」

――将来、指導者になる考えは?

「金にならんから......ってのも冗談で(笑)、格闘技は"生き方そのもの"だから、教えられるものじゃないです。上に行くのは『絶対に成り上がる』『こいつには負けない』『死んでも倒れない』とか、そういう強い思いをもともと持ってる選手だけなんですよ。どの世界も一緒かもしれないですけど、それをどんなに説明しても、生き方が違う人には響かないと思うんです。

 どこにいても、強くなる選手は強くなる。だから俺が教える側になることはないです。でも、格闘技にはすごく感謝しているので、盛り上げるための行動はしていきたい。自分で大会を開いたり、そこで活きのいい若い選手がいたらプロに推薦したり。さまざまな形で貢献できたらいいですね」

――夢を叶えて、酸いも甘いも味わった。あらためて、皇治選手にとって格闘技はどんな存在ですか?

「うーん......格闘技は、俺の生き様ですね。格闘技がなかったら今の俺はない。何よりも沢山のファン、スポンサーに支えてもらっていることに、すごく感謝しているんです。『きれいごと』って言われるでしょうけど、大切なものがいっぱいあるから、それを守るための手段でもあるかもしれない。だから、『命をかけて戦わないとダメやな』って思うようになりました」

 インタビューを終えようとした時、皇治は「最後に」とこうつけ加えた。

「世の中の人に伝えたいのは、成功する人、金を持ってる人も、どの世界でもそれはホンマに挑戦した人だけということ。挑戦してる人間を笑うヤツ、アンチとかにはいろいろ言われますけど、俺は"幸せ税"を払ってると思ってます。何もやらないヤツからすると『無理だ』『バカだ』と言いやすい、困難な挑戦をする姿を見せてあげてるって感じですかね。

 この記事を読んでくれた人たちのなかにも、頑張っているのにシンドイことがたくさんある人もいると思うんですけど、全然気にせずに。挑戦できていることの"幸せ税"だと思って頑張ってもらいたいです。

 ちょっと真面目モード入りました。最後は、金八先生みたいなことを言って締めるのが俺の流儀なんで(笑)」

【プロフィール】
■皇治(こうじ)
1989年5月6日生まれ。大阪府出身。
日本拳法の師範であった父の影響を受け、4歳から始めた日本拳法、空手の大会でも好成績を残す。プロ転向後、初代HEATキックルールライト級王座、ISKA K-1ルール世界ライト級王座を獲得。2016年より主戦場をK-1に移して人気選手に。地元・大阪での2018年12月の大会では、メインイベントで武尊と壮絶な殴り合いを演じた。2020年7月、RIZIN参戦を発表した。