「ムラタのハートはすばらしかった」 世界中の注目を集めたゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)対村田諒太(帝拳)戦から1週間が過ぎた4月16日。テキサス州アーリントンで開催された大興行(※)の会場にいたアメリカのボクシング関係者に、日本で行…

「ムラタのハートはすばらしかった」

 世界中の注目を集めたゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)対村田諒太(帝拳)戦から1週間が過ぎた4月16日。テキサス州アーリントンで開催された大興行(※)の会場にいたアメリカのボクシング関係者に、日本で行なわれた"ビッグファイト"の感想を聞くと、誰もが村田の闘志を褒め称えた。



ゴロフキン(右)相手に激しい攻めを見せ、評価を上げた村田

 結局はゴロフキンの完勝と認めた上で、多くのメディアが村田の勇気を評価した。強敵に真っ向から立ち向かい、最後まで勝利を目指した村田の戦いぶりに胸を打たれたのは日本のファンだけではなかったようだ。

(※)同日のメインはエロール・スペンス・ジュニア(アメリカ)対ヨルデニス・ウガス(キューバ)のウェルター級3団体統一戦

 4月9日のWBAスーパー・IBF世界ミドル級王座統一戦で、WBAスーパー王者の村田はIBF王者ゴロフキン(カザフスタン)に9回TKO負け。それでも序盤戦は攻勢に出て、エンジンのかかりがやや遅かったゴロフキンに強烈なボディブローを打ち込むシーンもあった。

 中盤以降は総合力の違いを見せつけられたものの、『Boxingscene.com』のキース・アイデック記者は 「村田は小細工せず、大舞台でも精魂込めて打ち合った。これほどの注目を集めたファイトで、地元ファンを喜ばせる戦いをしたことはリスペクトしたい」とその姿勢を評価した。

 村田に他の戦い方の選択肢はなかったかもしれないが、その不退転の覚悟と決意はおそらく世界中のファンに伝わっただろう。そして、これほどの頑張りを見せたあとだからこそ、「ここが引き際ではないか」という声も多かった。代表的なものは、『Boxingscene.com』のライアン・バートン記者のこんな言葉だ。

「村田は2度も世界王者になり、十分なお金も稼いだはずだ。現在の世界ミドル級でも最強と思える選手と戦い、堂々とした負け方だった。これ以上、いったい何を目標に戦うべきなのか。健康な体を保っているなら、今こそ最善の引き際なのではないかと思う」

 今後、現役を続けるとしても、36歳になった村田にゴロフキン戦以上の舞台が巡ってくることは想像しがたい。五輪金メダリスト&プロの世界王者という勲章を手土産に、第2の人生に足を踏み出すのもいいのだろう。

 一方で、村田が現役続行を望んだ場合も、存在感を誇示するチャンスがないわけではない。

 今回の統一戦はDAZNを通じてアメリカでも放送され、ゴロフキンが勝てば宿敵サウル・"カネロ"・アルバレス(メキシコ)との第3戦が内定と伝えられたこともあって、アメリカ国内でも話題のイベントになった。アメリカ西海岸では朝5時頃の開始だったため、ライブ視聴者は多くはなかったかもしれないが、オンデマンドも合わせれば世界中でものすごい数のファンが試合を見たはずで、村田が知名度を上げたことは間違いない。

「村田はこれまでのどの勝利よりも、今回の負けで評価を高めたと言えるかもしれない。今ならアメリカでも、村田の次戦に興味を持つファンは少なくないだろう。たとえばハイメ・ムンギア(メキシコ)であるとか、一線級からひとつ下のレベルのミドル級選手と対戦させたら面白いかもしれない」

 アイデック記者はそう述べ、戦うべき相手の名前も出してくれた。実際に村田が現役続行を選択し、アメリカのリングでの試合を望んだ場合、元WBO世界スーパーウェルター級王者のムンギアは興味深い相手ではある。

 25歳のメキシカンは36戦全勝(29KO)。見事な戦績を持ちながら、ミドル級での世界挑戦はなかなか実現しない。すでにWBC、WBOのランキング1位まで上がったが、プロモーターのゴールデンボーイ・プロモーションズがその真価に疑問を抱いているからだ、という見方もある。

 このムンギアは、過去に村田の対戦相手候補に挙がったこともある。ファイトスタイル的にも噛み合いそうで、「最善の引き際」と話していたバートン記者も「村田が勝つチャンスが十分あるんじゃないか」と述べた。母国を中心に確固たるファンベースも持つムンギアが相手なら、開催地はアメリカが濃厚。本場で再び注目ファイトをやろうと思えば最適の選手だと言える。

 ネームバリューのある選手との対戦にこだわらず、再び世界王者を目指すとしても、今のミドル級ならチャンスはあるかもしれない。「村田にはすぐにまたタイトル挑戦の機会が回ってくる」と話す『FightHype.com』のショーン・ジッテル記者は、そう考える理由をこう説明する。

「カネロはすでにスーパーミドル級から上の階級に戦場を移し、ゴロフキン、WBO王者デメトリアス・アンドレイド(アメリカ)も次戦はスーパーミドル級で予定している。ライバルがいなくなり、WBC王者ジャモール・チャーロ(アメリカ)はすぐに昇級を考えるだろう。そうなると、複数の王座が空位になり、王座決定戦が行なわれる可能性がある。ゴロフキンに善戦した村田もそれほどランキングは落ちないだろうし、母国での人気、知名度もあってタイトル戦出場の候補になるのではないか」

 ゴロフキン、アンドレイドは確かに次戦を168ポンドのスーパーミドル級で予定しているが、ミドル級の王座返上を決めたわけではない。それでも昨今のミドル級が過渡期を迎えているのは紛れもない事実。加齢ゆえにミドル級の体作りが難しくなっているだろうゴロフキンも、9月開催と報じられているカネロ戦後、スーパーミドル級への本格的な昇級を決めるか、あるいは引退しても不思議はない。

 そうなった場合、WBA正規王者のエリスランディ・ララ(キューバ)、ムンギアに加え、5月にWBO暫定王座戦に出場するジャニベク・アリムハヌリ(カザフスタン)、あるいはクリス・ユーバンク・ジュニア(イギリス)、カルロス・アダメス(ドミニカ共和国)、村田のアマチュア時代のライバルだったエスキバ・ファルカン(ブラジル)あたりが主軸となるが、層が厚いとはとても言えない。ジッテル記者の見立てどおり、村田が現役を続ければミドル級のメインキャストのひとりであり続けるだろう。

 ゴロフキンという大きな山に登りかけた村田が、こういった選手たちとのタイトル戦にモチベーションを掻き立てられるかには疑問も残る。繰り返しになるが、このまま引退という選択肢も多くのファンに支持されるに違いない。

 ただ......まだやり残したことがあると感じるのであれば、力を披露する舞台は残っている。イギリスで人気のユーバンク以外の相手なら、タイトル戦の日本開催も十分に可能。もう一度、ファンを喜ばせる戦い方をして、チャンピオンとしてリングに別れを告げるというシナリオは魅力的かもしれない。

前戦で敗れたあとでも、依然としてそんな展望を描くことができる。だとすれば、ゴロフキン戦での村田の勇敢な戦いは、やはり意味があるものだったのだ。