かつてないほど注目を浴びるアクションスポーツシーン。その発展のために、FINEPLAYが送る多角的視点の連載「FINEPLAY INSIGHT」。久々の再開は、おそらく業界では初めてとなるアクションスポーツの実態調査(β版)についてレポート…

かつてないほど注目を浴びるアクションスポーツシーン。その発展のために、FINEPLAYが送る多角的視点の連載「FINEPLAY INSIGHT」。久々の再開は、おそらく業界では初めてとなるアクションスポーツの実態調査(β版)についてレポート!

第12回で最終回と銘打って、その後音楽著作権に関する番外編を経て、長らく静まり返っていたこのFINEPLAY INSIGHTですが、久々の再開です(最終回ってなんでしょう)。

今回は、この連載を始めるときから構想として持っていた「アクションスポーツ業界の実態」について、β版ではありますが定量調査を行いましたので、そのレポートを皆さんと共有したいと思います。

客観的なデータが不足しているアクションスポーツ業界。16歳〜29歳の男女7,415名を対象に、アクションスポーツの実態調査を行いました。

この連載で幾度となく触れてきたように、アクションスポーツ業界ではまだまだ客観的なデータが不足しており、競技人口も把握できていませんし(それだけ競技人口が少ないということでもあります)、市場規模も客観的な議論ができませんでした。企業や団体によっては独自に調査を行っている機関も存在しているはずですが、よりオープンな議論を促進するためには、オープンな客観データが必要だろうと思います。そこで今回、ぼくが共同で代表を務めているBOX LLCの協力も得て、予備調査的な位置付けのβ版ではありますが、アクションスポーツの実態調査を実施してみました。

調査は調査会社を介して2022年1月末にインターネットで行い、BOX LLCが独自にローデータをクレンジングした後の有効回答数は7,415名でした。それをさらに人口分布に合わせて補正したのが今回の結果です。正直アクションスポーツのように実施者の出現率が低い市場調査の場合、もう少しパネルを取らないとデータの信頼度は上がらず、また回収したデータは文科省が公表している「スポーツの実施状況等に関する世論調査」ともそれなりの相違があるため、あくまで参考情報として取り扱っていただければと思います。(詳しい解説は避けますが、文科省の調査と比べると最大で2倍程度多く出ている傾向がありそうです)。

今回はBOX LLCが調査費用を持ち出しで行ったのでこの規模の調査になりましたが(笑)、今後、アクションスポーツに関わる企業や団体が共同でお金を出し合って調査を年次や半期ごとで実施していくと、業界全体の信頼度も上がっていくのではと思います。

ではさっそく、ざっと調査結果の概要を眺めていきましょう。

年に1回以上実施している割合はスノーボードがダントツ(14.1%)、週1回以上実施ではストリートダンス(ブレイキン以外)がトップ(2.3%)。

まずQ1ではアクションスポーツの実施頻度について質問しました。調査時期が2022年1月末だったことも影響しているかもしれませんが、ここではスノーボードが14.1%で1位になっています。


マーケティングやビジネスでは割合を量に直すことを心がけましょうと伝えてきました。そこで、上図を人数に直すと下記のようになります。


週に1回以上実施している人数では、スノーボードを超えてストリートダンス(ブレイキン以外)が39万人ほどでトップです。先に述べたとおり、今回の調査は最大で2倍程度多く出ている可能性がありますので、おそらく16歳〜29歳で週1回以上ストリートダンスを嗜んでいる人数は20〜30万人くらいの規模感でしょう。日本人トップダンサーのSNSフォロワー数が50万人弱くらいですので、海外フォロワーを差し引いても良い線なのではないかと思います。

また、「今後やってみたい」というポテンシャルも含めて質問していますが、「今後やってみたい」ではスケートボード、サーフィン、スポーツクライミング、パルクールなどが最大で200万人を超えるポテンシャルを持っていそうです。

1回でも大会に出場したことがある割合では、ストリートダンス(ブレイキン)が首位。

Q2では、大会出場などの競技志向について質問してみました。この設問はQ1で「年1回以上実施している」と答えた回答者に聞いています。それを分母として、割合に落としたのが下図です。


年1回以上実施している人を分母として、1回以上大会に出場したことがある割合では、ストリートダンス(ブレイキン)が首位でした(13.2%+28.3%=41.5%)。実施人口はさほど多くありませんが、ブレイキンは特に大会に出る競技志向が強いと言えそうです。

なおこの連載の第5回〜第7回で述べてきたとおり、スポーツビジネスの側面からは、実は実施人口はあまり重要ではありません。重要なのは観戦人口です(第7回参照)。ですので、この調査で競技人口について一喜一憂する必要はあまりありません。僕もブレイキン出身なので、多ければ嬉しいに越したことはないのですが(笑)、意外と冷静にみていって良い数字だと思います。

長くなるので割愛しますが、これも人数に変換してみたい人は是非してみてください。

市場規模ではスノーボードが首位で、ほかは横並び。

Q3では、ギア(ウエアや靴、ボード、車体、用具など)に年間どれくらいのお金をかけているかを聞いてみました。金額の回答選択肢の中間値を回答者の人数にかけ、想定の市場規模に落としてみたのが下図です。


ここでも人数が多いスノーボードが首位(約977億円)になりました。平均支出額の比較も行っていますが、人数をすでにお見せしているので、気になるかたは割り算して推測してみると面白いかもしれません。しかし今回の回答者数では、スノーボード以外は大きな差が出てくることはありませんでした。人数が多かったスポーツクライミングがやや高く、実施頻度も競技志向も高かったブレイキンは一番市場規模が少ない種目になりました。確かにブレイキンは「ブレイキン用に」なにかを買うというよりは、カラダ一つで出来てしまうものなので、市場性は他よりは低くてしかるべき、かもしれません。

同様に「月間で」練習や大会出場、教室代にかかっている金額もQ4で聞いてみました。


ここでも首位はスノーボード(約1,415億円)で、スポーツクライミングが次点となりました。全体としては、ギアの購入にかける金額よりも、先生や練習、大会参加にかかる金額のほうが多いのが特徴と言えそうです。全体としては、後者は前者の1.5倍くらいになっていそうですね。例えばダンスの肌感でいうと、ダンススクールの月謝が8,000円で、年間約10万円。それに対してダンスの衣装は年間で6〜7万円、みたいなイメージでしょうか。なんとなくあっている気がします(笑)。

実施コミュニティでは、ダンスのコミュニティ所属性が際立った

Q5では、アクションスポーツをどんなコミュニティに属して実施しているかを質問しました。回答者は年に1回以上実施している人たちです。


「学校のクラブ活動」で実施している割合が多い種目のTOP2はストリートダンス(ブレイキン以外)とストリートダンス(ブレイキン)でした。これはかなりイメージに近いかもしれません。ブレイキンについては「大学のサークル」でも首位(19.3%)です。「民間のスクールや教室」ではストリートダンス(ブレイキン以外)が首位(22.7%)で、「学校のクラブ活動」「大学のサークル」「民間のスクールや教室」3つの合計ではダンスとトリッキングが首位を争う格好になりました。トリッキングは意外でしたが、実施人数は少ないながら、意外と民間で習う場が多いのかもしれません。

反対に、スノーボードは「特に教室や団体には所属していない」がダントツで首位(61.5%)でした。これは人口が多い種目はロングテール(初心者やライトユーザー)が多いためだと思われます。法則的に、市場が大きいカテゴリはこのライトユーザーや非ロイヤル客の割合が増えますので、マーケティング観点では法則通りかな、という印象でした。

客観的なデータを、客観的な議論の端緒に。

経営やマーケティングの世界では、データは意思決定を助けることはあれど、決定打にはなかなかなりません。また、データが売上や利益の改善をもたらすような言説も、ほぼ虚構といって良いかもしれません。

しかし、データや数字は一応の客観性を帯びていますので、目線を合わせた議論の土台にはなりえます。その意味で、今回のβ版調査が、アクションスポーツに関わる企業、団体、プレイヤーなどなど、様々なステークホルダーにとって何かの足がかりになれば幸いです。

冒頭も申し上げたとおり、今回は予備調査的な側面がありますので、実際には今回の数倍のパネル数を用意して、より信頼度を上げた調査をすると良いと思います。いずれにしても、こうした定点的な客観データの整備をアクションスポーツ業界を挙げて行っていくことが、企業、団体、プレイヤーが「三方良し」の関係を築く未来につながっていくでしょう。

AUTHOR:阿部将顕/Masaaki Abe(@abe2funk)
BOX LLC. Co-Founder

大学時代からブレイキンを始め、国内外でプレイヤーとして活動しつつも2008年に株式会社博報堂入社。2011年退社後、海外放浪を経て独立。現在に至るまで、自動車、テクノロジー、スポーツ、音楽、ファッション、メディア、飲料、アルコール、化粧品等の企業やブランドに対して、経営戦略やマーケティング戦略の策定と実施支援を行っている。建築学修士および経営管理学修士(MBA)。

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