山﨑武司から見た今年のドラゴンズ 前編 今年の中日ドラゴンズはひと味違う――。 実質「補強ゼロ」で迎えた今シーズン。立浪…
山﨑武司から見た今年のドラゴンズ 前編
今年の中日ドラゴンズはひと味違う――。
実質「補強ゼロ」で迎えた今シーズン。立浪ドラゴンズの船出に重い印を打つ解説者はかなり限定的だった。ところが4月19日時点で貯金2を確保しての3位と、下馬評を覆してAクラスにつけている。
何より変わったのが打撃陣だろう。貧打に喘いだ昨年シーズンと異なり、すでに本塁打15本、長打率.382(昨季はシーズンで69本、.331とリーグダントツで最下位)と数字上でも明らかな変化が見える。まだ気が早いとはいえ、セ・リーグのサプライズのひとつとも言えるだろう。
今季のドラゴンズに何が起こっているのか。球団OBで2度の本塁打王に輝いた山﨑武司氏が、ドラゴンズの期待の若手打者たちを徹底分析する。

中日の右の大砲として期待されている石川
***
――まず率直に、現在のチーム状況をどう見ていますか。
山﨑武司(以下:山﨑) チーム全体で大きく変わった、とは見ていないんです。補強も新人以外ほぼないし、戦力的に大きな上積みがないですから。それでも、チームの活気という点でこれまでとは違う気がしますね。昨季までは応援歌の話などを含めて、野球だけに集中できていないようにも映った。今年は雰囲気が変わり、勝率が5割前後で推移するようなチームになってきている。そうなると自ずとAクラス争いに加わってくるのではないでしょうか。
――昨季、極度の不振が続いた打撃陣については?
山﨑 まだ投手力で勝っている印象です。もう少し打てないと上を目指すのは難しいでしょう。それでも、若手を使いながら"勝負強さ"もある。打線として打球が上がるようになってきており、意識改革があったのだろうな、と想像がつきます。
――現在の打線でキーマンになっているのは?
山﨑 阿部寿樹と大島洋平でしょうね。特に阿部は、昨季の鬱憤を晴らすように大事な場面で打っている。得点圏であれだけ打てる(.462)バッターがいるのは監督としても心強いと思います。高橋周平がケガをして、そのチャンスを活かして結果を残し、もはや外せない選手になった。阿部の活躍で、競争の意識が高まっている面もある。
大島もチャンスメイクだけではなく、去年までと違いチャンスでも打てるようになっている。この2人がチームを引っ張っているのは間違いありません。
石川が日本人の4番になるための課題
――山﨑さんはスタメン起用が続く石川昂弥選手に対して、ルーキーイヤーからずっと期待をかけてきました。今の石川選手はいかがですか?
山﨑 チーム関係者全員が「石川を早く一人前にしたい」と思っているんじゃないでしょうか。右の大砲でバンテリンドームでも30本塁打を打てる能力がある。ただ、もっともっとやれるし、今の打撃の内容は決してよくないです。
4月14日の阪神戦まで4試合連続のマルチ安打を記録していましたが、たまたまヒットになったような打球が多かった。バッテイングカウントで強く振り抜くような思い切りのよさがまだ見えません。石川に求められるのは、豪快な打撃でしょう。今は悩みながらやっているんでしょうが、ボールを飛ばせる、強く振れるということが自分の強みだということをもう一度考えてほしいですね。
――技術的な部分で課題を挙げるなら?
山﨑 単純に今のフォームは長打を打てる打ち方でない、というのはありますね。今はトップを作って、もう一度開けて、というフォームで、あの若さにして半速球を打つのはうまかったりする。それは技術があるからだけど、本来はストレートをレフト方向にもバチッと引っ張れるようなバッターになってほしい。
今のままだと今季は2割5分、10本くらいの成績で終わりそうで、それでも十分かもしれませんが、もっとやれる。巨人の岡本和真のように30本を毎年狙えるバッターになってほしいし、なれると思います。当然、年数を重ねるごとに本塁打は増えてくるでしょうが、今の段階で目につくのはそういうところです。
――ドラフト2位ルーキーの鵜飼航丞も、久しく表れなかった右の長距離砲です。
山﨑 鵜飼もあれだけ振れるわけですから、すごくいいものを持っていますよ。ドラゴンズだと生え抜きの日本人本塁打王は(1996年の)僕以来出ていないそうですが、鵜飼はそんな不名誉な記録を終わらせるポテンシャルがある。今季はなんとか20本を目指してほしいです。
そうすれば、来年以降に"本塁打を打つ技術"が理解できて、自ずと長打が増えてくる。彼の場合は外角の変化球への対応という明確な弱点がありますが、それも打席に立って解消していくしかありません。今はとにかく試合に出て経験を積むこと。それに尽きます。
根尾はレギュラー争いするところまでは来た
――石川と同期入団の岡林勇希もレギュラーとして起用されています。
山﨑 彼はルーキーの時からずっと「いい」と言い続けてきた選手です。何がいいって、タイミングの取り方、バットコントロールに天性のものがある。足も早く、守備もよく、高卒3年目ながらバッテイングも技術的には直すところがほとんどない。あとは体が小さい選手(175cm)なので、1シーズンを戦うだけの体力だけでしょうね。
気になるのは開幕前にケガしたという指。たぶん今も相当痛いでしょうし、それが守備や打撃でも影響があるはずなので、まだ上がり目もある。長打が出る打ち方ではないので、率と守備、走塁をどれだけ高められるか。将来的には大島の後釜になれる選手だと思います。
――期待の根尾昂も外野に守備位置を変え、レギュラーを狙っています。
山﨑 根尾に関しては期待が大きい分だけどうしても辛口になってしまうんですが、去年までと比べて打席での雰囲気、内容はかなりよくなっています。今の根尾に求められることはシンプルで、ストライクをしっかりと振り抜くこと。彼もバットコントロールは天才的なものがあります。ただ、そのバットコントロールのうまさゆえに、ボール球をうまくコンタクトしヒットにすることができます。
でも、それではレギュラーは獲れない。ボール球に反応するということは、シーズンで見た時に確率的には決して高い選択ではないわけです。タイミングの取り方も含め、変わってはきています。あとはヒットが増えてくれば、本人の自信にも繋がるでしょう。
――若手が台頭し、外野はかなり熾烈な争いが繰り広げられていますね。
山﨑 今はチーム状況と守備位置的に根尾を起用できる場所がなかなかないですが、計算が立つ選手は少ないので、チャンスは与えられるでしょう。素材がいいことは誰もが知るところで、あの身体能力に加えて努力家でもある。あとは打つだけ。キッカケひとつで、レギュラー争いするところまでは来たな、と見ています。
(後編:「僕ならブチ切れてる」。我慢強い立浪和義監督の采配、投打のキーマンは?>>)