最終クォーターの中盤までには20点ほどの差となり、勝負はすでに決していた。

それでも試合が終わると、トヨタ自動車アンテロープスの面々は喜びを爆発させ、抱き合って勝利を噛み締めた。

4月16日から開幕した女子バスケットボールWリーグファイナルで、富士通レッドウェーブを最短の2戦で下したトヨタ自動車が、昨シーズンに続いて頂点に立った。

レギュラーシーズンは20勝2敗の最高勝率(順位自体は勝ち点で決まったため2位)を挙げ、プレーオフではセミファイナル、そして上述のファイナルをいずれもスイープで締めくくった。

3人制バスケを含めると、実にチームの5人もの選手が昨夏の東京五輪に出場、その他、代表候補に選ばれたことのある者たちが数人いる。圧倒的なタレントと層の厚さ。しかし果たして、再度のリーグ制覇は当然の結果だったのだろうか。アンテロープスの面々に言わせれば、どうやらそうではなかったようだ。

◆【実際の映像】合言葉は“泥臭いトヨタ” トヨタ自動車アンテロープス、Wリーグ2連覇達成で迎えた歓喜の瞬間

■「本音でバチバチ話し合って」試みた“再始動”

中心選手としてチームを牽引した馬瓜エブリン(C)Wリーグ

優勝直後のコート上でのインタビュー。明るいキャラクターで知られる馬瓜エブリンが、歓喜の声を上げた後、こう言葉を紡いだ。「トヨタはけっこう個人の能力(で勝ってきた)とか言われますが、それ以上に努力してきました。それが今日、発揮できて良かったです」。才能を集めれば勝てるわけではないし、万事、道のりが平坦であり続けたわけでもない……。エブリンの言葉は、そこを強調するかのようであった。

通称「皇后杯」として知られる12月の全日本選手権、優勝候補だったトヨタ自動車は準々決勝で富士通に敗れたが、これが連覇へ向けての大きな転換点だった。

この大会で頂点に立てなかったことだけではなくシーズンを通して、どこか自分たちらしいプレーができないふがいなさがあり、この皇后杯の試合後、選手たちは集会を持ち、エブリンに言わせると「みなさんの想像のつかないくらい、夜中の1時くらいまで、本音でバチバチ話し合ってというところからの“再起動”」を試みた。

今シーズンは先発ポイントガードの安間志織がドイツリーグへの挑戦で抜け、川井麻衣や宮下希保らが移籍加入、新人も入ってきた。つまりは、初のリーグ優勝を果たした昨シーズンの陣容とは少なからず変わっていた。その中で、ベテラン勢が若手に厳しい言葉を投げかけたり、若手側もベテランにどこか頼ってしまうなど、その間にはどこか壁があったとエブリンは振り返った。

皇后杯直後の集会は、そんな壁を取り払うべく、忌憚なく思いをぶつけるために設けられたものだった。「ベテラン組がどうしても、新しいメンバーだったり、『新人のみんなに成長してほしい』という意味でちょっと言い方を間違えてしまったり、どう言っていいかわからなかったりとか、そういうコミュニケーションが全然うまくいっていませんでした。新人の子たちも『本当はこう思っていた』『しっかりと準備ができていなかったのは先輩たちがやってくれるから準備しなくていいやと思ってしまっていた』とか。自分たち(ベテラン勢)も『ちょっと言い方が良くなかった、ごめんね』というようなことを、正直に話し合った時間でした」。その夜のことを、エブリンはそう回顧した。

■合言葉は“泥臭いトヨタ”

そしてその集会を経て、アンテロープスの面々は“泥臭いトヨタ”という、個々の選手の集まりではなく、チームとして戦うための合言葉を設けた。

彼女はその経緯についても話した。「例えば試合に出て自分(勝手な)シュートしか狙わないなんていうこともあったんですけど、『でも、それじゃないよね』ということで、ちゃんとひとつ、何か言葉を決めてそれに向かっていく共通意識でやっていこう、ということで“泥臭いトヨタ”。そこで生まれた言葉です。この皇后杯の後からみんながまたそういうところに陥りそうになっても『そうじゃないよ、“泥臭いトヨタ”だよ』という風に声をかけていきました。そういう言葉があったからこそ、今こうやって優勝まで来られたのかなと」。

憎らしいほどの選手層の厚さで出場時間を分配し、それだけの戦力があるだけに多用な戦術を用いることもできる。そこがアンテロープスの強みであるのは、否定のしようがない。ファイナルでも、オコエ桃仁花や宮澤夕貴らがファウルトラブルに苦しみながら選手起用に苦心した富士通とのコントラストは明らかだった。

昨シーズンは先発メンバーではなかった山本麻衣、セネガル出身のシラ・ソハナ・ファトー・ジャ、エブリンの妹・馬瓜ステファニーがいずれも今シーズンはスターティング・ラインナップに名を連ね、はてはポストシーズンのベスト5に揃って選ばれた。山本にいたっては、プレーオフMVPにも選出されている。

前年からの貯金だけで勝ったわけでない。若い選手たちの成長があっての連覇だったということの、ひとつの証左だと言えよう。

■引退の三好南穂「心置きなくみんなに任せられる」

一昨シーズンまではエネオス・サンフラワーズが史上最長の11連覇を果たすなど、「一強」の時代が長く続いた。だが構図は変わり、ここ数年、選手移籍が活発になっていることも手伝って、今後はより多くのチームが優勝争いに絡むかもしれない。しかしその中で、選手やスタッフ、練習環境等が充実するトヨタ自動車の頭は一つ抜け出ているようにも思える。

2018年からトヨタ自動車の指揮官を務め、母国スペイン女子代表をワールドカップで2度のメダルに導いている名将、ルーカス・モンデーロ・ヘッドコーチは自身のツイッターで「この先何年もの間、連覇できるチームを作っていきたいです!」と日本語でつづっている。このファイナルをもって日本代表として五輪に2度出場の三好南穂がユニフォームを脱いだが、ファイナルでの後輩たちを「頼もしかった」とし「心置きなくみんなに任せられる」と述べている。

三好は、年齢や経験の違いを越えて、コート上では真剣に取り組むことでさらなる向上を目指す文化が、今のアンテロープスにはあると言う。「(対戦相手とだけではなく)チームの中でもやり合いますし、本当にみんなおちゃらけているように見えるんですけど、コート上では本当に真剣で、(年齢が)上の人がいるからちょっと抑え気味にやろうとか、そういうところはなくて、お互いにバチバチで、ケンカになるんじゃないかというくらいやり合っています。その後輩たちが成長していくカルチャーというか文化はこのチームにあるんじゃないかなと思います」。

28歳の若さでコートを去る決断をした彼女は、続ける。「そして後輩たちが先輩たちの背中を見て、どんどん吸収しようと自主練をしたり、そういったものがこのような結果に結びついています。あと、後輩たちも頑張りましたけど、河村(美幸、キャプテン)やエブリンの頑張りだったり、(ベテラン勢が)後輩たちに思い切りプレーできるような雰囲気を作れたのも、良いチームを作れた理由になったのかなとも思います」。

東京五輪での日本代表の銀メダル獲得の影響もあり、Wリーグにも注目が例年以上に注がれたシーズンとなった。この日、代々木第一体育館に詰めかけた観客は7151人。Wリーグ史上最多のファンを集めた。

熱しやすく冷めやすいところのある日本のスポーツ観戦文化にあってこれがどれだけ継続していくかはわからない。だが、ただ強いだけではない、明るく、個性の強いトヨタ自動車アンテロープスというチームが日本の女子バスケットボールを、その強さだけでなく存在感でもリードしていくのではないかという予感がある。

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著者プロフィール

永塚和志●スポーツライター 元英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者で、現在はフリーランスのスポーツライターとして活動。国際大会ではFIFAワールドカップ、FIBAワールドカップ、ワールドベースボールクラシック、NFLスーパーボウル、国内では日本シリーズなどの取材実績がある。