イベントプロデューサーなど多方面で活躍中 国内女子ゴルフツアー6勝で47歳の天沼知恵子(IMPACT A BODY)は今、“5刀流”で活動している。選手、コーチ、トレーナー、経営者、イベントプロデューサーだ。2011年に腰の手術を受けたが、…

イベントプロデューサーなど多方面で活躍中

 国内女子ゴルフツアー6勝で47歳の天沼知恵子(IMPACT A BODY)は今、“5刀流”で活動している。選手、コーチ、トレーナー、経営者、イベントプロデューサーだ。2011年に腰の手術を受けたが、昨季も45歳以上を対象にしたレジェンズツアー2試合に出場。18年からはセカンドキャリアとしてコーチ、トレーナーを務め、ジムも立ち上げた。若手選手が台頭する状況下、30~40代選手を対象にしたイベントや試合開催にも動き出している。天沼は「THE ANSWER」に、超多忙でも充実した現状、50代での夢を語った。(取材・文=THE ANSWER編集部・柳田 通斉)

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 天沼の職場は今、東京・麻布十番にある。18年4月に開業したトレーニングジム「IMPACT A BODY」だ。1回20分で、ダイエット、リハビリ、ゴルフのスコアアップを含め、幅広い目的に合わせた効率的なトレーニングが可能だという。会員は約300人で、利用客は月平均350人。天沼はトレーナーの1人として利用客に接し、CEOとしてジムの経営も担っている。

「きっかけは腰の大手術を経験し、復帰の過程においてトレーニングの重要性を感じたことです。そして、年齢を重ねてアスリートのセカンドキャリアについて考えるようになり、それならば自分が先陣を切って、モデルケースを作っていこうと思いました」

 アスリートとして輝ける期間は短い。女子プロゴルファーでは、30歳を前にレギュラーツアーの出場機会を失う選手が少なくない。天沼自身は26歳の01年にツアー5勝を飾り、31歳の06年に1勝。シード権は35歳の10年が最後だった。

「私の場合は腰を痛めたことが大きかったのですが、毎週のように試合があり、車での長距離移動が多いプロゴルファーは腰を痛めやすい傾向にあります。ただ、実力のある若い選手が多く出ているのは事実で、狭き門のプロテストも合格枠を20位ではなく、25位にしてもいいのではと、私は思っています。その分、試合に出られない選手は出てくるので、彼女たちが稼げる場を作ることが必要。レジェンズツアーは45歳からですが、私は44歳以下の選手たちでイベントや試合を組む準備を進めています。そのグループ名は『CORE IMPACT』です」

 天沼は若手育成にも尽力している。プロテスト合格を目指す23歳の瀬賀百花と今綾奈をレッスンし、トレーナーとして体作りのサポートもしている。そもそも、その両方ができる指導者は稀有。なぜ、天沼はできるのか。

「私は96年に21歳でプロテストに合格しましたが、翌97年には地元の静岡県御殿場市にあるフジ虎ノ門整形外科病院で、働かせてもらっていました。午前中は仕事をして、午後はゴルフ場で練習という日々でした。病院なので、リハビリ法やトレーニング法を学ぶことができ、トレーナーの仕事もするようになりました。そこが原点になっています」

50代目標は全米シニア女子OP出場「アニカが刺激に」

 試合に出場するようになっても、ゴルフに適したトレーニング法を学び、結果につなげていった。そのノウハウを生かしている形だが、今は昨季賞金女王の稲見萌寧のことが気になっている。今月上旬に開催された富士フイルム・スタジオアリス女子オープンの開幕前日、稲見はオフの間に契約した新トレーナーと重ねたトレーニングで、スイング時の重心の取り方や体幹の感覚がズレてきたことを明かしたからだ。

「稲見さんが話されたことはよく理解できます。正直、ゴルフが分からないまま、選手と向き合っているトレーナーは少なくありません。稲見さんの言う通り、体はとても繊細で、ゴルフには少しの変化がとても影響していきます。例えば、背筋や右腕が強くて、左手の筋力が弱かったら、球が左に曲がるスイングになりがちです。そうしたスイング作りの面を意識したトレーニングも必要。今のままだと、トレーニングでつぶれる選手も出てくるので、トレーナーのレベルアップが急務だと感じています」

 選手を指導する中で、自身も週2ペースでラウンドをしている。ドライバーで240ヤードの飛距離は全盛時と変わらないといい、今も試合出場の機会をうかがっている。

「QT(ツアー予選会)は受けませんが、レギュラーツアーで推薦出場の機会があればありがたいです。実は50歳を超して、全米シニア女子オープンに出場することを目標にしているので」

 プレーへのモチベーションも高めてきた理由は、米女子ツアー72勝で51歳のアニカ・ソレンスタムが、昨年の全米シニア女子オープンで優勝し、今年6月の全米女子オープン出場を決めたニュースを知ったからだ。

「アニカが日本に来た時は、何度も同じ組で回らせてもらいました。ツアーを長く離れていたのに、50歳を超えてまた活躍している姿に刺激を受けています。私と同じ47歳のカリー(・ウェブ)も、シニアの試合に向けて準備しているはずです。なので、私もあの2人とまた一緒に回れるように頑張りたいです」

 そのためにも、残り3年でジム経営、セカンドキャリアの環境整備、若手育成を進めることが目標。天沼は当面は“5刀流”を続け、後輩たちに1つの道筋を示していく。

■天沼知恵子(あまぬま・ちえこ)
 1975年(昭50)4月23日、静岡県御殿場市生まれ。91年、中学卒業と同時に小田急西富士GCに入社し、初心者からゴルフに取り組む。96年にプロテスト合格。00年に賞金ランキング27位で、初のシード権を獲得した。翌01年には初優勝を含めて5勝を飾り、同ランキング3位。06年には5年ぶりの優勝を飾った。その後も試合出場を重ねるも、11年の日医工女子オープンで腰痛を発症。「腰椎分離すべり症」と診断され、5時間に及ぶ大手術を受けた。12年から復帰。レギュラーツアーでの生涯獲得賞金は2億6045万6645円。165センチ、血液型A。(THE ANSWER編集部・柳田 通斉 / Michinari Yanagida)