イニングが進むにつれて、ますます釘づけになった。
1週間前に完全試合を達成したばかりのロッテ、佐々木朗希がまたもパーフェクトピッチングを続けている。前回登板に比べて「制球、球質がよくなかった」と試合後に振り返ったが、それでも163キロのファーストボールとスプリットの切れ味は抜群。人類史上初の2試合連続完全試合達成の期待が高まった。
◆【実際の映像】佐々木朗希が8回102球14奪三振、幻の2試合連続となる完全試合ハイライト
ところが8回が終了後、井口資仁監督がベンチから現れると、なんとピッチャー交代を告げてしまった。満員の観客で埋まったマリンスタジアムは大きな落胆の溜め息に包まれた。試合後、指揮官は「7回終了時点でちょっとへばりつつあった」「試合前から100球と決めていた」「8回に得点をしていても代えた」と交代の理由を述べた。
■選手の将来と記録達成に立ち会う醍醐味
しかし、ファン心理からすれば簡単には納得できない。やはり9回の投球を「観たかった」というのが本音だろう。「2試合連続完全試合」はマンガの世界でしかありえない、長いメジャーリーグの歴史にもない夢の偉業。今後、2度と起こらない可能性もある。球場に来た少年ファンにしてみれば、一生語れる思い出になったはずだ。対戦チームの新庄剛志監督ですら、「(ファンとして)あと1イニング見たかった」とコメントしている。
「選手の将来」は理解できる。だが、プロ野球選手である限り、ファンを喜ばせることが最優先とではないのか。素晴らしい記録に立ち会うことは、スポーツ観戦の醍醐味でもある。
元巨人の江川卓さんが現役時代、100球を目処に降板するようになったときは「100球肩」と揶揄された。果たして「100球」に医学的な根拠はあるのだろうか。もう一度考えさせられる試合だった。この日の8回までの佐々木の投球数は102球だった。
■大きな物議を醸した落合監督の采配
達成寸前でパーフェクトゲームを逃した「完全未遂」は、過去にもある。まず、思い出されるのが、2007年11月1日に行われた中日ドラゴンズと日本ハム・ファイターズの日本シリーズ第5戦。ドラゴンズは53年ぶりの日本一に王手をかけ、大切な試合のマウンドを山井大介に託した。
山井は本拠地で完璧なピッチングを披露し、8回終了までファイターズをパーフェクトに抑えていた。史上初の日本シリーズでの完全試合達成かと思われた9回表、落合監督はリリーフエースの岩瀬仁紀をマウンドに送った。異様な雰囲気の中で、岩瀬はファイターズの攻撃を3人で終わらせ、「完全リレー」を達成させた。
MLBでは1956年、ニューヨーク・ヤンキースとブルックリン・ドジャースの「サブウェイ・シリーズ」となったワールドシリーズ第5戦、ヤンキースのドン・ラーセンが完全試合を達成。WSで唯一の記録となっているが、日本シリーズにおける記録は、今もってない。
勝ちにこだわった落合監督の采配は、今日以上に物議を醸した。後年、落合は著書の中で「山井は指のまめを潰して出血していた」と明かした。
■4度も悔しい思いをした西口投手
2005年8月27日、西武ライオンズの西口文也投手は楽天イーグルス打線を沈黙させ、9回終了までパーフェクトに抑えた。しかし、西武打線にも援護がなく、0-0のまま延長戦へ。西口は10回もマウンドに立ったが、先頭の沖原佳典にヒットを打たれてしまった。試合はその裏に西武が得点を上げ、「最も残念な完封勝利」となった。
なお、西口投手は1996年の近鉄バファローズ戦で1回の2番打者にヒットを打たれた後、その後の26人を完璧に抑える「準完全」を達成。2002年のロッテマリーンズ戦、2005年の読売ジャイアンツ戦では、9回二死までの「あわやノーヒットノーラン」を経験している。とことん記録に縁のなかった投手といえる。
■誤審で幻となったパーフェクトゲーム
メジャーリーグにも完全未遂はある。2010年6月2日、デトロイト・タイガースのアーマンド・ガララーガ投手は、9回二死までクリーブランド・インディアンズを完璧に抑えていた。そして、27人目の打者を一塁ゴロに打ち取り、自らファーストのベースカバーに入ってパーフェクトゲームを達成したかに思えた。
しかし、一塁線審、ジム・ジョイスは、これをセーフと判定。内野安打となって完全試合は幻に終わった。ガララーガは抗議もせずに判定を受け入れたが、試合後のビデオ確認で明らかな誤審であることが判明、ジョイスもそれを認めた。
■連続アウトの世界記録は更新中
4月17日の試合終了後、佐々木朗は「チームが勝つために仕事ができた」と、淡々と語った。ファンが熱くなるほどには、選手は記録に執着していないのかもしれない。
この試合で、佐々木はサンフランシスコ・ジャイアンツのユスメイロ・ペティットが2014年に記録した46打者連続アウトのメジャー記録をも更新。4月3日の西武戦において8回2死から鈴木将平にツーベースを許した後、岸潤一郎を三振に切って取って以降、3試合にまたがり52打者連続アウトとして記録更新中だ。ペティットはリリーフとしての記録ではあるが、佐々木は先発のみでの達成。それだけにさらに価値を見出すことができる。
次のパーフェクト投球はあるのか……。記録はどこまで伸びるのか……。
令和の怪物が登場する試合は全国でチケット完売となりそうだ。
◆【実際の映像】佐々木朗希が8回102球14奪三振、幻の2試合連続となる完全試合ハイライト
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著者プロフィール
牧野森太郎●フリーライター
ライフスタイル誌、アウトドア誌の編集長を経て、執筆活動を続ける。キャンピングカーでアメリカの国立公園を訪ねるのがライフワーク。著書に「アメリカ国立公園 絶景・大自然の旅」「森の聖人 ソローとミューアの言葉 自分自身を生きるには」(ともに産業編集センター)がある。デルタ航空機内誌「sky」に掲載された「カリフォルニア・ロングトレイル」が、2020年「カリフォルニア・メディア・アンバサダー大賞 スポーツ部門」の最優秀賞を受賞。