埼玉・むさしの村ローンテニスクラブを練習拠点とする正林知大にインタビュー今年1月に開催された全豪オープンで3回戦進出を果たしたダニエル太郎(エイブル/世界ランキング106位)がかつて練習していた埼玉…

埼玉・むさしの村ローンテニスクラブを
練習拠点とする正林知大にインタビュー

今年1月に開催された全豪オープンで3回戦進出を果たしたダニエル太郎(エイブル/世界ランキング106位)がかつて練習していた埼玉・むさしの村ローンテニスクラブ(以下MLTC)。ここを練習拠点としているのが、山崎*純平(日清紡ホールディングス)、齋藤惠佑(富士住建)、住澤大輔(橋本総業ホールディングス)、正林知大(Team REC)の4選手である。2年ほど前から一緒に練習し、切磋琢磨している4選手に迫った。

*=「崎」の異字体(たつざき)

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第4弾は、正林知大をフィーチャー。ジュニア時代では、2010年全国選抜ジュニア12歳以下男子シングルス3位、2012年全日本ジュニア14歳以下男子シングルスベスト8をマークし、現在所属するレック興発ではリーグ戦でシングルスに出場しチームの勝利に貢献。高校卒業後、一度大学に進学した経歴を持つ彼が、今どのようにテニスに取り組んでいるのかを聞いた。



――MLTCを練習拠点にした経緯を教えてください。
昨年の3月頃からお世話になっているので、約1年が経ちました。高校を卒業して中央大学に進学しましたが、3年目の年に中退。それと同時にプロに転向しました。ただ、プロに転向したものの練習拠点となるような場所が決まらず、その状態で3年近くやっていました。毎日、その日に練習する相手を探して、場所も転々としながらやっていて……このまま自分でやり続けるのは限界があるな、と試合に出場しながら気づきました。また、自分のテニスについても何を改善していけばいいのか徐々にわからなくなりました。やはり練習拠点やコーチが必要だと感じ、身近な方に相談して、武正真一コーチにお話を聞く機会をいただいたんです。同い年の純平をコーチしていることは知っていましたし、レベルの高いプロ選手が何人も練習している環境は魅力的でした。“ここでやりたい”と思い、お世話になることに決めました。

――以前からプロになりたいという思いがあったんですか?
はい。高校を卒業したら選手になりたい、という思いを持っていました。そこで、試合にたくさん出場できるように通信制の地球環境高校(長野)に進学したのですが、あまり海外の試合を回ることができなくて…。また、高3の時にインターハイには出場できず、全日本ジュニアにしか出場できませんでした。このままプロになれば中途半端になるかもしれないと思い、大学進学を選択。ただ、いざ大学に入ると授業との両立が大変で、卒業後はテニスはもういいかなという気持ちのほうが強くなりそうだなと感じてしまった。就職した後に、やっぱりテニスがやりたいと言って戻ることは僕としてはあまりしたくなかったので、大学3年になる時にプロ転向を決意しました。



――プロの道は諦められないと思ったんですね。大学を辞めてから、毎日練習相手を探していたとのことですが、コートなども自分で予約していたのですか?
そうですね。大学を辞めて2年近くは、毎日、練習相手を探しては移動して、という感じでやっていました。自分で市営のコートを予約して練習したり、知り合いの方やレック興発の先輩がいるところへお邪魔して入れてもらったり、コートを貸していただいたり。この期間はかなりたくさんの人にお世話になりました。そのようにやっていましたが、徐々に同い年の選手も少なくなって関わりも希薄になっていき、一昨年ぐらいから練習場所をちゃんと決めてやっていこうと思ったんです。大学を辞めて本当にいろいろな方々に迷惑をかけてしまったので、これ以上中途半端なことはできないと思い、MLTCでの練習環境がきついことはわかっていましたが改めてきつい環境に身を置きたいと思ってここに来ました。

「自分のいいところ、悪いところが明確にわかってきました」

――3人のプロがいる環境はどうですか?
意識的な部分もあるかと思いますが、僕に持っていないものを持っているということを、練習しながら感じることがたくさんあります。今は、そこに食らいつけるようになりたい。そして、それ以上に追い抜きたいという思いがあります。プロ4人の中では、今はランキングなどを含めて僕が一番低いですが、逆にクリアしなくてはいけない課題や学ぶべきことも見つけやすいと感じています。



――MLTCに来て成長しているという手応えはありますか?
はい。MLTCに来て、早い段階から実感しました。レック興発の社長さんが僕の試合を見た後に「変わったね」と言ってくださったんです。他の方々からも同じように言われることがあったので、“あ、変わってきているんだな”ということを少しずつ感じています。

――ご自身ではどのような点が一番変わったと感じていますか?
これまではなんとなくやっていたので、そのあたりが変わったと思います。プロに転向した当初は、国内のグレードの高い大会で優勝してから海外に行こうと決めていて、でも国内で勝っても次の週や2週間後の試合では勝った相手に負けてしまうことがよくあって、波がありました。おそらくそれは、なんとなくやっていたからだったのではないかと。当時は「なんで勝ったんだろう」ということがわかりませんでしたが、今は「ここがよかった」「ここがよくなかった」ということが、だいぶはっきりと見えてきた。これまでに比べて、1試合における課題や自分のやるべきことがより明確になったと感じています。

「カウンターショットは得意。自分の武器にしたい」

――ご自身が思うアピールポイントはなんですか? 
(少し迷って…)カウンターショットかなと思っています。相手から打たれた後からのスタートのほうが得意な気がします。自分としては、サーブや一発のウィナーがあるわけではないので、相手から打たれた後から流れを変えたりするほうが自信はありますね。



――正林プロのジュニア時代の写真を見ると、サイドに走りながらカウンターを打っているカットが多かったと思います。
そうなんですよね、そういう写真ばかりでしたね(笑) 自分から打っているようなカットはなくて、でも最近は少しそういう写真が出てきてちょっとうれしいなと思っています (笑) 正直に言うと、ジュニアの頃はあんまり走りたくなくて、“できれば一発で決めたい”と思ってしまうタイプだったのですが(笑)、今はカウンターショットも自分の武器にしたいと思っています。

――現在、重点的に取り組んでいる課題はなんですか?
すべてを底上げしているという感じです。カウンター系のショットについては、今までと比べて走れる量がだいぶ変わりました。フィジカルの部分が大きいですね。これまではまったく取れなかったボールが普通に返せるようになったり、長い間打ち続けても、“まだ大丈夫”と気持ちの余裕も出てきました。今はカウンターだけにならないようにできるだけテンポを変えてみたり、さまざまな球種を交ぜたり、緩急のあるボールを使い分けてリズムを変えたり、いろいろなことができるように取り組んでいます。やはり海外で試合をして、今はそうした点が一番必要だなと感じました。また、僕は割とそういうショットが好きですし、打てるほうだとも思っています。小さい頃から“楽しくやる”ってなると、スライスを打ったり、いろんなショットを打つことばかりやっていました(笑) 相手に慣れられないように変化をつけながらも、テンポを上げてポイントを取りにいけるようにしたい。また、コートの中に入ってできるだけ前で打つ、ということも取り組んでいます。今は”相手に合わせる”というよりも、”自分から仕掛けていく”テニスをしていきたいです。



――フィジカルを上げることも重点的に取り組んでいるんですね。
そうですね。MLTCに来た当初は、満足に走ることもできませんでした。他のプロ3人と比べてもボールに追いつけなかったですし、2対1の振り回し練習をやっても、みんなは10分近くできるのに僕は2〜3分ぐらいしか持たなくて。体力がなかったら集中力も持続しないですし、そういうところが今の自分には一番必要だと思っていて、できるだけ食らいついていこう、と取り組んできました。1年ほどやってきて、その差は少し埋められたのではないかなと感じています。トレーニングについては、もともとあんまり好きじゃなくて(笑)、これまではテニスもあまり疲れないようにうまくやりたい、という感じでした。でも、疲れるぐらいやらないと実力は上がっていかない、ということをここへ来て気づくことができました。今は、ダッシュ系や長距離系のトレーニングでたとえ疲れて途中でダウンしてしまっても、最後まできちんとやり切ることを徹底しています。ウエイトトレーニングも回数を決めて、疲れていてもその回数は絶対にやり切るように取り組んでいます。

「これまでお世話になった方々に感謝して頑張っていきたい」

――プロ転向後思うようにいかない時期も多かったかもしれませんが、プロ生活で印象的だったことはありますか?
実業団のリーグ戦ですね。僕は学生の頃、割と団体戦などのリーグ戦を戦っていましたが、やっぱり日本リーグのリーグ戦はそれまでとの感覚とまったく違っていて、印象に残っています。実業団のリーグに所属している方は、プロ選手だけではなく仕事をしながらやっている方も多くいらっしゃいます。プロの立場としては、ある意味負けられないというプレッシャーや独特の雰囲気があって、やりづらさなどを味わいました。レック興発にも、今は試合はほぼプロが出場していますが、コーチに社員の方が1〜2人入られていて、1年目の時はそういう雰囲気に飲み込まれてしまいましたが、とても勉強になる体験でした。

――昨年(2021年)を振り返ってみていかがでしたか?
昨年の一番大きいことは、やはりMLTCに練習拠点を移したことですね。ここを選ぶ、ということはきついほうの道だと思うんです。これまでの自分だったら選ばなかったと思いますが、大学を辞めてただでさえ中途半端なことをしているのに、これ以上中途半端なことをしたくない、という思いが強かったです。後悔はしたくなかったので、自分としては大きな決断でした。



――今年(2022年)の目標を教えてください。
コロナ禍で去年はあまり海外の試合に出場できず、またMLTCに移動したりしてバタバタしていましたが、今はだいぶ戦える準備が整ってきました。ほとんどゼロからのスタートとなりますが、今年からITF大会をきちんと回り始めたい。そして、来年にはチャレンジャーの土俵に立てるように世界ランキングを500位近くにまで上げたいです。そして、今までにお世話になった多くの関係者の方々や身近な人たちに感謝の気持ちを持って、今後も頑張っていきたいと思っています。

――将来の夢はなんですか?
グランドスラムに出場して、上位を狙いたいです。

――どんなテニスを目指しますか?
見ていて“おもしろいな”と思ってもらえるようなテニスをしたいですね。自分のパターンが決まっているというよりも、“こんなショットを打ってきたな”とか、“あ、こんなふうに変えたんだ”ということが目に見えてはっきりわかってもいいのではないかと思うぐらい、いろいろなショットを打ってオールラウンドにやっていきたいです。いきなりネットプレーに出たり、球質を変えてみたり、急にボールのスピードを速くしたり。僕自身もそういうプレーのほうがやっていて楽しいですし、やはり外国人選手と試合をすると、体格の面でパワー負けすることもあると思うんですね。そこをテクニックでカバーしながら、パワーでも押し切れるようにフィジカルを鍛えて、コートの中でさまざまなことができるような選手になりたいです。



〈武正真一コーチから見た正林知大〉
正林のテニスの魅力は、どんな体勢からでもバランスを崩さずに、またボールの質が落ちないでラリーができることです。そして、最近よくなってきたことの一つが、自分ができることとできないことをきちんと理解していて、そうしたことに対しての取り組みができるようになっていること。よりよくなっているなという印象です。今は課題に対して一生懸命取り組んでいるので、これを継続することが大事だと思っています。ただ、もう一段階ギアを上げて頑張ることができる選手なので、もっと上に向かってチャレンジしていってほしい。
コートの中に入って自分からストロークを打っていく、ストロークで攻撃していく、ということに対して少し消極的なので、自分から攻撃的に打っていくことが今の課題。そして、現在重点的に取り組んでいることです。本人からも全体練習が終わった後に、球出し練習の希望を受けるので、これを継続してやっていくことが大切ですね。


MLTCで心機一転、新たなスタートを切った正林。見ていて飽きない、変化に富んだ巧みなテニスを存分に発揮し、今後世界を魅了していってほしい。



【プロフィール】Tomohiro Masabayashi(まさばやし・ともひろ) ■プロテニスプレーヤー ■所属:Team REC ■1998年3月5日生まれ(24歳)、静岡県浜松市出身 ■身長172cm ■右利き(両手打ちバックハンド) ■プロ転向:2018年 ■ATP世界ランキング2149位(2022年4月11日付)、JTAランキング62位(2022年4月12日付)


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