大阪桐蔭が圧倒的な実力を見せつけ、優勝した選抜高校野球大会(センバツ)。だが、例年に比べて選手個々の能力は寂しい印象が強く、大会の視察に訪れたスカウト陣は一様に人材難を嘆いた。ただし、スカウトたちはこんな同情的な声も寄せていた。圧倒的な強…

 大阪桐蔭が圧倒的な実力を見せつけ、優勝した選抜高校野球大会(センバツ)。だが、例年に比べて選手個々の能力は寂しい印象が強く、大会の視察に訪れたスカウト陣は一様に人材難を嘆いた。ただし、スカウトたちはこんな同情的な声も寄せていた。



圧倒的な強さで今春のセンバツを制した大阪桐蔭

「彼らは高校に入学した時からコロナ禍が続く『コロナ直撃世代』ですから。例年と比べて練習をやり込めていないので、仕方がないでしょう」

 また、こんな感想を述べるスカウトもいた。

「早熟な選手が多い印象です。中学時代から名を馳せたような選手がそのまま高校でも活躍して、高校になって大化けしたような選手は少なく感じます」

 センバツを取材した者としても、「早熟」の印象にはうなずかされた。大会を思い返してみても、スケールの大きな選手は数えるほどで、肉体的にも技術的にも完成度の高い選手が活躍したシーンばかりが思い浮かぶ。

 例年であれば開花しているはずの晩成型の大器が、コロナ禍の練習不足もたたって眠ったまま。中学時代から目立っていた早熟型がそのまま高校でも活躍している。今の高校野球界は、そんな状況なのだろうか。

1回戦の本塁打数はわずか1本

 仮説を裏づけるため、ある人物に話を聞いた。東京農業大の勝亦陽一教授だ。勝亦さんは野球選手の誕生月と競技力の因果関係を研究しており、高校球児の「早熟・晩熟」について深い知見を持っている。

 高校球児を指導する立場でもある勝亦さんは「コロナの影響で練習時間が少なく、冬季練習後の身体やパフォーマンスの変化が例年より小さいと感じています」と実感を語ったうえで、今春のセンバツについても分析してくれた。

「出場選手の身長、体重、1回戦の成績などを見ると、身長と体重は例年の大会と同程度です。1回戦16試合の打撃成績は、本塁打を除くと例年と同程度でした。投手の球速は140キロを超える投手は少ないですが、奪三振率はイニング数を超える数字の投手が多く、その点では将来楽しみな投手もいるように感じました」

 1回戦16試合で出た本塁打数はわずか1本で、2021年の3本、2019年(2020年は開催中止)の6本と比べると少なかった。勝亦さんは「これは主観ですが」と前置きしたうえで、こう考察する。

「大会前の実戦経験の少なさや、カットやツーシーム系の芯をずらすようなボールが多いことも影響しているのかもしれません」

 ところが、2回戦以降で浦和学院と大阪桐蔭の選手が本塁打を量産。とくに大阪桐蔭は大会最多記録を更新する11本塁打を放った。最終的に大会で18本の本塁打が飛び出したが、そのうち大阪桐蔭が11本、浦和学院が4本と8割以上を占める。

体力強化の時間が圧倒的に少ない

 投手に関しては山田陽翔(近江)が1回戦で最速146キロをマークしたものの、全体的にスピードボールを投げる投手は少なかった。その一方、宮城誇南(浦和学院)が大分舞鶴戦で13奪三振、辻田旭輝(クラーク記念国際)が九州国際大付戦で11奪三振、五島幹士(大垣日大)が只見戦で18奪三振。球速以上にキレを感じさせる投手がいたことも確かだった。

 全体的な印象としては、勝亦さんも「スケールの大きな選手は少ない」とスカウト陣と同じ見解を示した。その背景を、勝亦さんはこのように分析する。

「新3年生はたしかにコロナ直撃の世代で、制限のなかでの練習を強いられています。限られた時間のなかで何を優先するのかは、高校によって異なります。項目で言うと、次の3つになります。

①体力面(出力)......投手なら球速、打者ならスイング速度や打球飛距離

②正確性......投手ならコントロール、野手なら打撃のミート率、守備の確実性

③連係・戦術・戦略......実戦での強さ、選手、指導者間のコミュニケーション

 ①を優先するなら計画的かつ定期的なトレーニングと、適切な食事が必要です。②の習熟にはある程度時間が必要で、③も実戦形式での練習やミーティングが必要になってきます。これらのうち、試合を成り立たせるのに必要なのは、②の投手のコントロールと、③の野手の連係でしょう。限られた時間の中で②③を優先せざるを得ず、①に割く時間が少ない、または個人に任せているチームが多いのかもしれません」

 本塁打数が多かった大阪桐蔭や浦和学院は選手個々の技量が高いうえに、①の体力面を疎かにしない環境が整っていた証拠だろう。勝亦さんは「ある程度②③の能力があり、試合が成り立つ選手が多ければ、①を重視できると言えるかもしれません」とも語った。

 一口に「コロナ禍」といっても、地域や学校によって活動内容は大きく異なる。鳴門のように大会前の対外試合が一切できなかったチームもあり、単純な比較は難しい。それでも、今大会が全体的に早熟傾向だったこととコロナ禍は無関係ではなさそうだ。

 最後に勝亦さんは希望を込めて、こう語った。

「今回大会に出場していないチームに、潜在能力を秘めたまま眠っている選手も多くいると予想できます」

 今はまだ"休火山"であっても、密かにマグマをたぎらせ、夏の噴火が起きる可能性は十分にある。夏の甲子園では、スケールに満ちた大器の目覚めに期待しよう。