昨年末のGIホープフルSを制したキラーアビリティ 今年の3歳牡馬戦線は、近年まれに見る"大混戦"だ。 その要因のひとつは…



昨年末のGIホープフルSを制したキラーアビリティ

 今年の3歳牡馬戦線は、近年まれに見る"大混戦"だ。

 その要因のひとつは、重賞ごとに勝ち馬が入れ替わって、GI皐月賞(4月17日/中山・芝2000m)に登録しているメンバーのなかに、重賞を2勝以上している馬が1頭もいない点が挙げられる。

 加えて、トライアルを使わないここ最近の傾向に拍車がかかって、昨年末や年明けの重賞を勝ってからクラシックへ直行する馬がますます増加。実力比較が一段と難しくなっていることが、そうした状況を生み出している。

 さらに、皐月賞をスルーしてGI日本ダービー(5月29日/東京・芝2400m)に向かう実力馬もいれば、その最高峰の舞台を目指して今後のトライアルでの台頭を目論む素質馬や期待馬も控えている。

 こうなってくると、皐月賞はもちろん、日本ダービーの予想は難易度が増すばかり。もはや素人には手が負えない状況と言えるかもしれない。ならば、ここは"プロの眼"に頼るのが最善だろう。

 そこで今回も、競走馬の分析に長(た)けた元ジョッキーの安藤勝己氏に3歳牡馬の実力診断を依頼。今年の牡馬クラシックにおいて、本当に強いのはどの馬なのかを見極め、独自の視点による「3歳牡馬番付」を選定してもらった――。



横綱:キラーアビリティ(牡3歳)
(父ディープインパクト/戦績:4戦2勝、2着1回、着外1回)

 素質的にはダノンベルーガと互角。それでも、順調に使われているという点で、こちらを「上」と評価した。それに、GIホープフルS(12月28日/中山・芝2000m)のレース前に、陣営が「ここを勝って、ぶっつけで皐月賞」と言っていたが、まさにそのとおりになった。この馬の強さに、相当な自信があるのだと思う。

 実際、ホープフルSでは先行して押しきる、という強い競馬を披露。この時期の2歳馬としては、勝ち時計(2分00秒6)も優秀だった。どんな競馬でもできるという器用さがあり、それでいて、終(しま)いでは確実にキレる脚を使える。欠点の少ないタイプだ。

 唯一の不安は、前々走のオープン特別・萩S(2着。10月30日/阪神・芝1800m)がそうだったように、折り合いを欠くシーンが時折見られること。それさえ克服できれば、今年はこの馬が堂々の"主役"を張れるはずだ。

大関:ダノンベルーガ(牡3歳)
(父ハーツクライ/戦績:2戦2勝)

 例年素質馬が集い、今年もレベルの高いメンバーがそろったGIII共同通信杯(2月13日/東京・芝1800m)を圧勝。最後の直線ではこの馬だけ脚色が違って見えた。あの抜け出し方は、並みの能力の持ち主ではない。

 デビュー戦を勝ったばかりで、キャリア1戦の馬があんな競馬ができるとは......。この馬はかなり強い。素質だけなら、もしかすると一番かもしれない。血統的にも父がハーツクライゆえ、この先もさらなる成長が見込める。

 問題は、牧場にいた頃に右後肢に大ケガを負った影響が今なお残っていること。皐月賞はどうかわからないけど、その結果に関係なく、ダービーでは勝ち負けだと思う。

関脇:イクイノックス(牡3歳)
(父キタサンブラック/戦績:2戦2勝)

 上位3頭のなかで、最も不気味な存在。2歳秋のGII東京スポーツ杯2歳S(11月20日/東京・芝1800m)を勝ったあと、レースを使うことなく、ぶっつけで皐月賞へ挑むという異例のローテーション。これが、どう出るか?

 ともあれ、最近は新馬の仕上がりが早いため、あまりレースを使わなくてもクラシックに間に合うのが流行り。その点では、これだけ間隔をあけた使い方もアリなのかもしれない。

 いずれにせよ、東スポ杯2歳Sは強かった。インパクトのある勝ちっぷりで、時計も速かった。上がりタイムは32秒台をマーク。2着に2馬半差の完勝には恐れ入った。父キタサンブラックというのがどうなのか? そこは未知数であるものの、レースにいっての自在性は十分に受け継いでいるようだ。

小結:ドウデュース(牡3歳)
(父ハーツクライ/戦績:4戦3勝、2着1回)

 デビューから3連勝でGI朝日杯フューチュリティS(12月19日/阪神・芝1600m)を制覇。その後、前走のGII弥生賞(3月6日/中山・芝2000m)では2着に終わったが、力負けではないし、決して悲観することはないだろう。鞍上が何かを確かめるような競馬をしているように見えたので、なおさらだ。

 完成度の高さと堅実さという点で、上位3頭に次ぐのはこの馬しかいない。ただ、乗りやすくて、まとまっている分、大物感が欠ける。特に決め手の部分で、「3強」と比べてやや見劣る印象がある。

 クラシックで活路を見出すとすれば、「3強」よりも前で競馬をして、早く動くこと。とりわけ皐月賞は、器用さのあるこの馬向きのレース。自らの武器を存分に発揮できれば、一角崩しの可能性はあるかもしれない。

前頭筆頭:ジオグリフ(牡3歳)
(父ドレフォン/戦績:4戦2勝、2着1回、着外1回)

 4番手まではすんなり決まったが、それらに続く存在については非常に悩んだ。候補馬は何頭か思い浮かぶものの、どの馬もここで名前を挙げるほどの強さを感じなかったからだ。結局、候補馬の中から消去法でこの馬を選んだ。

 前々走の朝日杯FSでは5着と凡走したが、あれは馬にとっては可哀相な競馬だった。後ろから行きすぎて、最終的には外をブン回すはめになって、届かずの5着。クリストフ・ルメール騎手にしては珍しく、精彩を欠いた騎乗だった。

 それでも、前走の共同通信杯ではこの馬本来の競馬で2着と奮闘。クラシックでも複勝圏内は狙える力はあると思う。

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 最近の牡馬クラシック戦線は、馬の実力比較がとても難しい。年々、有力馬がトライアルを使わない傾向にあって、本番前に直接対決を見られる機会がどんどん減っているからだ。今年は特にそれが顕著。その分、番付選定も難儀した。

 それでも、それぞれのパフォーマンス比較から、今年は上位3頭が抜けていると見た。クラシックもこの「3強」を中心に、熾烈な争いが繰り広げられるだろう。

 また、近年は皐月賞とダービーの二冠を目指すというより、ダービー1本に絞ってくる陣営が増えた。今年もその傾向があるようで、有力馬の多くが皐月賞を"叩き台"として、最大目標のダービーを見据えている印象が強い。そうなると、皐月賞では有力馬の仕上がり具合やレース展開次第で、伏兵が台頭するシーンが見られるかもしれない。

 そうはいっても、基本的には「3強」の牙城は強固。この壁を打ち破るのは容易ではないだろう。特にダービーでは、別路線から挑むにしても、トライアルでよほどインパクトのある勝ち方をするか、すごい血統馬が評判どおりの強さを見せるか、といったことがない限り、「3強」の牙城は崩せないと思っている。

安藤勝己(あんどう・かつみ)
1960年3月28日生まれ。愛知県出身。2003年、地方競馬・笠松競馬場から中央競馬(JRA)に移籍。鮮やかな手綱さばきでファンを魅了し、「アンカツ」の愛称で親しまれた。キングカメハメハをはじめ、ダイワメジャー、ダイワスカーレット、ブエナビスタなど、多くの名馬にも騎乗。数々のビッグタイトルを手にした。2013年1月31日、現役を引退。騎手生活通算4464勝、うちJRA通算1111勝(GI=22勝)。現在は競馬評論家として精力的に活動している。