試合前の本田圭佑ら選手たち。来季ミランに残るのは誰か(BUZZI/FOOTBALL PRESS) マネーゲームに精通…



試合前の本田圭佑ら選手たち。来季ミランに残るのは誰か(BUZZI/FOOTBALL PRESS) マネーゲームに精通している者なら、今回のミランの株式譲渡の仕組みをすぐにわかるだろうが、あまり詳しくないという方には、何がどうなっているのか、さっぱり理解できなかったに違いない。注意して私の話を聞いてほしい。なぜならミランと中国人の間の取引は、まるで興奮した子ネコが遊んだあとの毛糸玉のように、複雑にもつれ合っているからだ。

 とにかく最初から、いきさつを振り返ってみよう。

 ミランに一時代をもたらしたシルビオ・ベルルスコーニもすでに齢80歳。チーム運営にも疲れ、ついに愛するミランを売却することを決心した。彼の29年にわたる治世で、ミランは28のタイトルを獲得したが、一方では負債も2億2000万ユーロ(約270億円)に膨らんだ。

 当初、ベルルスコーニは株の一部だけの譲渡を目論み、筆頭株主の座は譲らないつもりだったが、家族たちが彼に一サポーターに戻るよう迫ったのも無理はなかった。結局、ベルルスコーニは売却を決断したものの、交渉は遅々として進まなかった。最初はタイ人ブローカーのミスター・ビーが売却相手と言われたが、話はまとまらなかった。

 その後、長く実りの少ない交渉の日々が続いた。そして売却を決心してから約2年あまり、ついにひとりの中国人企業家にたどり着いた。彼の名前は李勇鴻(リー・ヨンホン)。47歳の中国人企業家で、シノ・ヨーロッパスポーツ・インベスティメント・マネージメント(中欧体育投資管理長興)という会社の社長だ。シノ・ヨーロッパは、複数の中国人投資家を集めて運営している投資会社である。

 このシノ・ヨーロッパに出資している投資家の中に、ハイシャ・キャピタル(海峡基金)というファンドがある。この基金の会長はルー・ポー(路博)。このファンドの存在は非常に重要だ。なぜならハイシャの株主の中には中国政府そのものがいるからだ。そのためかハイシャは、2010年とまだ設立して間もないファンドであるにもかかわらず、最近ではフランスでも融資を行なうなど、急成長している。

 とにかく中国政府が関わっていることは意味深だ。中国は2030年にW杯を誘致したいと考えている。彼らはミランを買うことで、ヨーロッパサッカー界へ影響力を持とうとしているのだ。

 しかし、ミランは高かった。売却額は7億4000万ユーロ。そこでシノ・ヨーロッパは、5億2000万ユーロを自社で調達し、残りの2億2000万ユーロは借り入れることにした。リー・ヨンホンは金持ちだが(不動産業などで得た個人資産は5億ユーロと言われる)、それでも足りなかったのだ。

 では彼はどうしたか? まず法人税の安いルクセンブルクにロッソネリ・スポーツ・インベスティメント・ルクスという会社を設立し、アメリカのヘッジファンド、エリオットから融資を受けた。それをベルルスコーニへの支払いの一部に充てたのだ。

 このときエリオットから借りた金額は3億ユーロだが、金利は10%とべらぼうに高い。実をいうとリー・ヨンホンはすでに残りの資金も調達していたのだが、中国には外国への資金の持ち出し額に厳しい制限があり、一度にそれだけの金を払うことができない。目的達成のためには致し方ない措置だった。

 もちろん、このやり方には危険がある。リー・ヨンホンが期日までに返済ができなければ、エリオットは彼の資産を差し押さえることができる。つまりミランを差し押さえて転売することも可能なのだ。リー・ヨンホンも、さすがにそんなことはしないだろうが……。

4月の半ば、ついに株式譲渡は完了し、ベルルスコーニの持ち株会社フィニンベストがロッソネリ・スポーツから約束の金額を受け取った。これでみんな幸せ、めでたしめでたしとなったのだろうか?

 中国人新オーナーが手にしたのはロッソネロではなくロッソ――つまり赤字のチームだ。ヨーロッパにはUEFAが決めた有名なフィナンシャル・フェアプレーという規則がある。平たく言えば、赤字のあるクラブは、それ以上の赤字を増やすことになる新たな選手の購入をすることができないのだ。

 しかし、どんな規則にも抜け道はある。オーナーが交代した場合に限り、その運営が軌道に乗るまでの数年間(普通は3~5シーズン)、このルールから除外されるのだ。もちろんミランがこの除外対象に名乗りをあげたのは言うまでもない。

 ちなみにUEFAの主催するヨーロッパのカップ戦に出場せず、国内リーグだけを戦っているのならば、このルールは適用されない。しかしヨーロッパのカップ戦はワールドワイドな大きな舞台だし、そこで得られる賞金も無視できない。例えばチャンピオンズリーグで優勝すれば、そのクラブはUEFAから1億2000万ユーロの報奨金を得ることができるのだ。

 とにかくミランは新しいことでいっぱいだ。ミランが来シーズン、ヨーロッパリーグに出場できる可能性はかなり低くなってきたが、必要な選手を獲得し、ジャンルイジ・ドンナルンマを引き留めるためにどのくらいの資金が必要か、今、新オーナーは必死で計算しているところだろう。

 残念ながら来シーズンの生まれ変わったミランに、本田圭佑の姿を見ることはできないが――。