Bリーグ2016-2017 クライマックス(1) 6つのNBAチャンピオンリングを持つスコッティ・ピッペンは、プレーオフを勝ち抜くコツをCMでこう言っている。「これが人生で最後の試合だと思ってプレーするんだ。次の試合が始まるまでは」Bリ…

Bリーグ2016-2017 クライマックス(1)

 6つのNBAチャンピオンリングを持つスコッティ・ピッペンは、プレーオフを勝ち抜くコツをCMでこう言っている。

「これが人生で最後の試合だと思ってプレーするんだ。次の試合が始まるまでは」



Bリーグ初のチャンピオンシップに向けて想いを語る田臥勇太 60試合ものレギュラーシーズンを駆け抜け、上位8チームのみに出場が許されるBリーグ・チャンピオンシップ2016-2017(以下:CS)。クォーターファイナルで2勝、セミファイナルで2勝、そしてファイナルで1勝――。あと5つの勝利を積み重ねれば、ついにBリーグ初代王者の栄光が待っている。

 栃木ブレックスの田臥勇太(PG)は「このチームにはチャンピオンになるチャンスも、資格もあると思います」と言う。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

「もちろんCSでは楽な相手も、楽な試合もひとつもない。まずは千葉ジェッツとのクォーターファイナルの初戦のことだけ考えます。僕たちがシード上位ですが、ここまできたらレギュラーシーズンの順位なんか関係ない。そもそも、千葉とはレギュラーシーズンで4勝4敗。オールジャパンでは負けているので、トータルでは負け越している。チャレンジャーのつもりで戦います」

 田臥は、栃木ブレックスは、Bリーグ初代チャンピオンになるためにずっと準備してきた。そしていよいよ長い、長いシーズンのゴールが目前に迫っている。

「チームとしていかにチャンピオンシップに照準を合わせられるかを、ずっと考えてきました。コーチもシーズン開幕当初に言っています。『マラソンのようなシーズンになる。選手それぞれはもちろん、チームとしても成長していけるよう集中しよう』と」

 チームメイトの成長を実感した瞬間が、田臥にはある。

 5月3日、アウェー代々木第二体育館でのアルバルク東京戦。田臥は左足首の捻挫のため欠場し、コートサイドから戦況を見守った。栃木は田臥のみならず、ジェフ・ギブス(PF/C)もひざの捻挫で不出場だった。

 下馬評では栃木不利。しかし、試合は栃木が終始リードで展開する。終盤に一度は逆転を許すものの、土壇場で再逆転し、栃木が79-76で競り勝つ。この勝利で、栃木の東地区優勝が決まった。

「チームメイトが頼もしかったですね。『誰がコートに立っても、チームとしてやるべきことをやる』というマインドが徹底されていました。徹底できたことが、試合結果にもつながったと思います」

 そして地区優勝を決めたこの試合が、コートに立っていなかったにもかかわらず、田臥がより優勝を渇望した瞬間だった。

「地区優勝が決まり、改めて1番になることの達成感を感じたんです。だから、『ここがゴールじゃない』と改めて思いました。優勝したい――優勝を全員で掴み取りたいと」

 田臥が言う”全員”とは、チームメイトやスタッフだけではない。ブレックスファンも含まれている。

「Bリーグになってから、特に思います。以前からファンは、いい流れのときにはすごく盛り上がってくれました。でも今は悪いとき、だらしないパフォーマンスをしてしまったときには、厳しい言葉をぶつけてくれる。今季はそのシビアさがある。強いチーム、期待されるチームになればなるほど、ファンにそういうシビアな部分があるべきだと思います。それがチームの成長にもつながりますから。

 Bリーグ初年度の今季、ファンの人たちのなかにも『自分たちはリーグトップのチームのファンなんだ』という自覚のようなものが以前よりも芽生えているのかなと感じます。それをすごくありがたいことだと感じながら、今季はプレーしてきました。選手個々、チームだけじゃない、ファンも一緒に成長したシーズンだったという感覚があります。だから、全員で優勝を掴み取りたい」

 BAA(バスケットボール・アソシエーション・オブ・アメリカ)がNBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)という名称になったのが1949年。約70年後の現在、初代チャンピオンの名を知る人は、さほど多くないだろう。Bリーグがこのまま歳月を重ねれば、何十年後かには初代チャンピオンの名前など、きっと忘れ去られる。

 ただし、田臥勇太とともに、60試合のレギュラーシーズンを戦い抜いたチームメイトと、1試合なら40分、今シーズンを合わせれば多くの時間を栃木ブレックスとアリーナでともにしたファンにとっては、初代王者になった喜びを生涯忘れることはないだろう。

 もちろん田臥自身、「勝ちたいのはどのチームも同じ」と理解している。CSに出場する8チームの戦力は拮抗する。では、お互いの勝ちたい気持ちがぶつかったとき、勝敗を分ける微差はどこに生まれるのか?

「どのチームも、お互いを知り尽くしています。勝敗を分けるものがあるとしたら、それは戦術なんかよりも、もっと細かな部分な気がします。ルーズボール、リバウンド……五分五分のボールに、いかに泥臭く飛び込めるか。チーム全員で泥臭く40分間、戦い抜いたチームに勢いが生まれると思います」

 きっと、勝利の女神は細部に宿る。そして、もしもピッペンが伝授する極意が真理ならば、おそらく初代チャンピオンに輝くのは栃木ブレックスだ。

 田臥は最後に言った。

「選手それぞれのスタンスがあると思いますが、僕は1試合、1試合、先など見ずに、目の前の試合に集中しようと思います。この試合がラストだと思って。目の前の1試合にすべてを賭けます」

 栃木ブレックスが本命な理由――。それは、栃木ブレックスには田臥勇太がいるからだ。

【Bリーグ・チャンピオンシップ】
[準々決勝]5月13日~5月14日
栃木ブレックス(東地区1位)vs.千葉ジェッツ(ワイルドカード1位)
川崎ブレイブサンダース(中地区1位)vs.サンロッカーズ渋谷(中地区3位)
シーホース三河(西地区1位)vs.琉球ゴールデンキングス(ワイルドカード2位)
アルバルク東京(東地区2位)vs.三遠ネオフェニックス(中地区2位)