「中継ぎになってから、先発のときとは異なり野球をこれまでとは違った目線で見られるようになりました。試合展開やチーム状況など細かい部分に対し、いろいろと考えられるようになったことがいい結果につながっていると思うんです」 横浜DeNAベイス…
「中継ぎになってから、先発のときとは異なり野球をこれまでとは違った目線で見られるようになりました。試合展開やチーム状況など細かい部分に対し、いろいろと考えられるようになったことがいい結果につながっていると思うんです」
横浜DeNAベイスターズの砂田毅樹は、納得した面持ちでそう語った。
現在リーグ4位(以下データは5月11日現在)であるものの、19年ぶりの優勝を目指すDeNAは春先からまずまずのスタート切った。
昨シーズン途中、先発からリリーフに転向したDeNAの砂田毅樹 今後戦っていくうえでチーム全体を見てもっとも懸念される点は、リーグ5位となる防御率3.78の投手陣だろう。なかでもリリーフ陣は、昨シーズンのチームを支えた田中健二朗、須田幸太、三上朋也がまだ昨年ほどの輝きを見せることができず、守護神の山﨑康晃も序盤戦の相次ぐ失敗で中継ぎに回った。山﨑に代わる新守護神であるスペンサー・パットンもしばしば不安定さを露呈している。
しかし、そのなかにあって気を吐いているのが砂田である。ここまで17試合を投げ、防御率は1.32。昨年の前半戦では先発を務めていたが、8月から中継ぎへ転身し、適性を見せている。今シーズンは山﨑のクローザーから中継ぎへの配置転換の際、砂田はアレックス・ラミレス監督により三上とともに8回を投げる”勝ち継投”に組み込まれた。
砂田は好調の要因のひとつとして、まず「フォームの安定」を挙げた。
「自分が思い描いているフォームで投げられていて状態はかなりいいですね。真っすぐと変化球がわからないように気を使って投げていますし、その感覚が合っているから思ったところに投げられる。とにかくリラックスをして腕を振ることを心がけています」
砂田は育成時代からフォームには常に気を使い、研究を怠らなかった。ときにはオフィシャルカメラマンに投球を撮影してもらい、分解写真で細かいチェックを繰り返してきた。力が抜けたそのフォームは球離れが遅く、打者からすると非常にタイミングの取りにくいものであり、同じサウスポーの杉内俊哉(巨人)や和田毅(ソフトバンク)を彷彿とさせるものがある。
また、右バッターへの対応も昨年とは変化している。球威を増した打者のインサイドへ鋭い角度で刺さるストレート。そして膝元へ食い込むスライダーやカーブで多くの空振りを奪えるようになった。事実、昨年は.304だった右バッターへの被打率が、今年は.250と改善されている。
「右バッターの内側へ投げ込めるようになったのは自分でもいい傾向だと思うし成長を感じています。昨年は外一辺倒でそこを狙われてしまった。今シーズンは内にいくことによって、外への投球の幅も広がりました」
奪三振率が昨年の5.85から7.90にアップしていることも見逃せない。
「中継ぎになって一番変わったところはそこかもしれません。真っすぐで押せるようになったからこそツーストライクに追い込むことができ、そこから自分のボールが投げ切れている。もちろん、打たせて取ることも頭のなかには常に入っているし、それほど球数を使っているイメージもないので、三振も取りつつ、早いカウントで打ち取れているといった印象ですね。これもやはり、しっかりインサイドにボールが押し込めているからだと思います」
回またぎもあれば、ワンポイントでの起用もあり、安定した砂田の存在感は日を追うごとに大きくなっている。
中継ぎをやるにあたり、ブルペンを任されている木塚敦志ピッチングコーチからは「常に野球を、試合展開を読めるようにしておけ」とアドバイスを受けた。投球の感覚が空けばシャドーを積極的にやり、今年からは遠投も取り入れた。
「先発とは異なるトレーニング方法もあるので、コーチやほかの中継ぎの選手たちにいろいろと聞いて、自分に合った練習をしています。そういう意味ではピッチャーとしてあらゆる面で成長してきている」
そんな砂田の力投をハートの面で支えているのが、指揮官であるラミレス監督の存在だ。
「昨年の奄美の秋季キャンプでは『左の中継ぎであれば、君はトップを取れる実力があるから頑張ってほしい』と言われましたし、今年はオープン戦で結果を出せていなかったのですが、開幕の前日練習で監督から『これまでの結果は気にしていない。君が公式戦になったらやってくれるのはわかっている』と声をかけてくれたのが自信になっています。だからこそ思いっきり自分の投球ができている」
ここで失礼ながら愚問をひとつ。先発に対する思いはどうなのだろうか。未練はないのか?
「あきらめたわけではありませんが、今は先発としての実力はまだないんだと認識しています。ただ、中継ぎで結果が出ているし、チームの力になれていると実感しているので、今は任されたところで頑張りたい。とにかく結果を出すこと。一生懸命やっていく過程で、たとえば先発陣が崩れてしまって『ピッチャーがいないから砂田行け』と言われれば、しっかりとその準備をするだけです。とにかく先発、中継ぎを気にすることなく、任されたところで結果を出す。僕としてはホント、一軍で投げられるだけでありがたいことなんですから」
野球ができる喜びが砂田の言葉の端々からは感じられた。最後に「今は野球が面白いんじゃないですか?」と尋ねると、砂田は少し笑顔を見せつつも、すぐに引き締まった表情で次のように答えた。
「結果が出ているからというわけではありませんが、やっぱり面白いですよね。すべての経験が、今後の野球人生につながっていると実感できていますから」
育成上がりのシンデレラボーイも4年目を迎えた。リリーバーとして1年間コンスタントにチームに貢献し、優勝を遂げる──それが砂田の今の強い願いだ。