伊藤華英の For Your Smile ~ 女性アスリートの未来のために vol.2 先の北京冬季五輪で再び女子カーリングが脚光を浴びました。史上初の銀メダル獲得という結果もさることながら、藤沢五月選手、吉田知那美選手、吉田夕梨花選手、鈴…


伊藤華英の For Your Smile ~ 女性アスリートの未来のために

 vol.2

 先の北京冬季五輪で再び女子カーリングが脚光を浴びました。史上初の銀メダル獲得という結果もさることながら、藤沢五月選手、吉田知那美選手、吉田夕梨花選手、鈴木夕湖選手、石崎琴美選手の女性たちが、明るく前向きに競技に向き合う姿に心を打たれた人も多かったのではないでしょうか。スピードスケートの髙木美帆選手、フィギュアスケートの坂本花織選手らを始め、女性アスリートが輝いた大会だったと言えるかもしれません。



北京五輪では女子カーリングが話題に。女性の競技人口には課題も

 このような目覚ましい活躍を目にすることで、女性の競技人口の増加につながる可能性は高くなるはず。しかし数値を見るとトップスポーツの人気が、そのまま競技人口に反映しているかと言うと、そうではありません。

 カーリングの人口で言うと、全体の人口が2,306人、そのうち男性が1,719人、女性はわずか587人(※1)です。ちなみに全体の競技人口が多いサッカーは、男性が769,630人で、女性が48,784人(※2)と、女性は全体のわずか6%となります。バスケットボールについては、男女比が比較的少なく、男性284,497人、女性209,430人(※3)で、競技によっては女性の参加も多く見られます。
※1 笹川スポーツ財団「中央競技団体現況調査 2020年度」調べ
※2 JFA発表2021年3月末時点
※3 日本バスケットボール協会2020年度競技者登録数

 ただ総じて、メディアで話題になったとしても、それが直接、競技人口につながっていないという現実があり、ほとんどの競技において、男性の競技人口が上回っています。小学生の時は多くの女子がスポーツに親しんでいるのに、どのタイミングで女子がスポーツから離れてしまっているのでしょうか。

 2017年のスポーツ庁の調査によると、女子運動部参加率が中学で55%、高校で27%とほぼ半減しています。同データの男性は、中学で75%、高校で56%と減少はしているものの、減少率では女子が圧倒的に高いという実態が明らかになっています。

 女子が高校で半減してしまうのは、体の変化が関係しているかもしれません。月経コンディションもあると思いますし、月経の症状を指導者に伝えにくい状況があると思います。それにスポーツは男子がやるものというイメージも少なからずあるのではないでしょうか。それは完全にアンコンシャス・バイアス、つまり勝手な思い込みですが......。

 また、大学受験に専念するために、スポーツはやらないと言う人もいるでしょう。高校の部活動に時間を取られてしまうとか、厳しすぎるという印象を持っている人がいると思いますが、その背景には、部活動に勝利至上主義的な感覚が強すぎることが考えられます。シンプルに言うと、スポーツを楽しめないんだと思います。

 勝利が絶対で、厳しい環境で試合に出ることが正解という世界のなかにいると、スポーツをやっている本来の意味を見いだせなくなりますよね。それに、部活に入ったら部員が多くて試合に出られない。リザーブだったとしても、チームワークを学べたり、組織力を学べたりすると言いますが、やっぱり出られないとつまらない。弱小の高校に行ったら、公式戦ですぐに負けてしまって試合がほとんどなくなってしまう。そんな現実もあります。

 私は部活動には、ふたつの柱があったほうがいいと思っています。ひとつはエリートスポーツの道、もうひとつがスポーツを楽しむコミュニティです。

 エリートスポーツを育てていく意義は、当事者だけではなく、社会的にも心理的にも効果があることがわかっています。トップレベルのアスリートが競技をすることによって、多くの人々に感動を与えることができますし、アスリート自身もいろんな方々のサポートを受けて成長していくことができます。

 そのエリートスポーツを育てるためには、スポーツをやる人口を増やしていかなければなりません。氷山の一角であるエリートになりうる原石は、そのなかから生まれてくるからです。勝利至上主義ばかりに焦点があたってしまうと、競技のすそ野は広がっていきません。



部活動のあり方の改善を訴える元競泳選手の伊藤華英さん

 そのために大切なのが、スポーツを楽しむコミュニティとしての部活。勝利至上主義から脱却し、スポーツの楽しさを実感できる場所です。ふだんの生活で、もう少し軽やかに動きたいなど、自分のやりたい物事がうまくいくような体づくりができるところがあるといいと思います。

 スポーツ庁は「ゆる部活」を推奨しています。東京都の東深沢中学校では、「体力向上部」という部活があります。平日4日朝45分間、走ったり、馬跳びなどの運動をする部活で、体力向上や運動の楽しさを実感するための活動を行なっています。そのほか都内の中学には、週2回1時間くらい、その時々で球技やいろんな種目の運動を行なう部活もあるそうです。

 女性がもっとスポーツを楽しむためには、勝利至上主義とは違う道の提供や、体調の変化があっても気兼ねなく言える環境づくりなど、中高生年代からの根本的な改革が必要なのかもしれません。

【Profile】
伊藤華英(いとう・はなえ)
1985年1月18日生まれ、埼玉県出身。元競泳選手。2000年、15歳で日本選手権に出場。2006年に200m背泳ぎで日本新、2008年に100m背泳ぎでも日本新を樹立した。同年の北京五輪に出場し、100m背泳ぎで8位入賞。続くロンドン五輪では自由形の選手として出場し、400mと800mのリレーでともに入賞した。2012年10月に現役を引退。その後、早稲田大学スポーツ科学学術院スポーツ科学研究科に通い、順天堂大学大学院スポーツ健康科学部 博士号を取得した。