なぜ、日本生命レッドエルフだけが勝てるのか。4thシーズンを終えた卓球・Tリーグにおいて、男女合わせて唯一の4連覇を果たした。昨季の3連覇さえ、既に男女唯一だった。選手層の厚さ、恵まれた環境と指導体制の充実、とは昨年のインタビューで聞いたこ…
なぜ、日本生命レッドエルフだけが勝てるのか。
4thシーズンを終えた卓球・Tリーグにおいて、男女合わせて唯一の4連覇を果たした。
昨季の3連覇さえ、既に男女唯一だった。
選手層の厚さ、恵まれた環境と指導体制の充実、とは昨年のインタビューで聞いたことだが、でもやはり、総監督・村上恭和の「監督論」にも秘密があるのではないか。
その一端が垣間見えるインタビューとなった。
全員使いたい、レギュラーシーズンも優勝したい
――登録選手12人のうち10人が出場しています。4連覇を目指しながらも、できる限り多くの選手を起用したのはなぜですか。村上総監督:出場した選手は一番うちが多いかもしれませんね。はっきり言うと、名前だけ書いて“お前Tリーガーだぞ”っていうのは僕は嫌だったんです。
日本生命レッドエルフの中にジュニア部門も作って、同じ体育館で時々は一緒に練習をしているわけですから。
全員使おうと思ってましたが、レギュラーシーズンも絶対優勝したい。本当に悩みましたけど、できる限り使えるときに使ったという感じです。
――それで4連覇を達成したのは手腕だと思います。――うちのジュニア部門は、本当にみんな一緒に寮で生活する共同体なんですよね。親の顔が浮かぶわけですよ。中学生から高校3年生まで残って、その後レッドエルフを目指せるのか、違う道を進むのか。
普段の練習も、レッドエルフにエントリーしていないジュニア選手も協力している。
使って強くするのは当然だと思います。
写真:ジュニアアシストアカデミーの練習風景/撮影:ハヤシマコ
レギュラーではない麻生、笹尾、赤江、上澤らも、常にTリーグに出るんだという準備をして半年間ずっと練習していました。練習場が同じところにある利点ですよね。
だから、戦力が整っていないように見えても、前半戦もダブルスは勝ち越している。そこが持ちこたえた理由でしょう。
――村上監督としては、前半戦の勝ち越しも意外ではなかった。――外から見ると“意外に頑張ったな”と“意外”がついてくるんですが、私からすると、必然です。どこより練習を重ねてますから。他のチームもいろんなダブルスを組んでいますけど、やっぱり行き当たりばったりで、試合当日、会場に着いてから練習をしている。半年前から練習をしているペアってないよね。だから、名前よりもみんな弱い。
写真:長﨑美柚・森さくらペア(日本生命レッドエルフ)/撮影:ラリーズ編集部
森さくらの執念
――なるほど。ダブルス以外で、4thシーズンを振り返ってあれがポイントだったという試合はありますか。村上総監督:2つありますね。びっくりしたというか、すごいな、よくやったなと思ったのは、森さくらがヴィクトリーマッチで佐藤瞳に勝った試合です。2月19日、田川での九州アスティーダとの試合。
写真:シングルス、ダブルス共に11勝を挙げてチームを牽引した森さくら/撮影:ラリーズ編集部
でも森はカット打ちができないなかでも、最後の最後、執念で完璧に佐藤を打ち崩した。私の予想をはるかに超えた勝利でした。さすがです。あれで負けていたら、レギュラーシーズン1位は挫けていたかもしれない。
――4thシーズン、森さくら選手のシングルス11勝3敗、ダブルスで11勝2敗は見事な数字ですよね…長﨑美柚の成長
村上総監督:もう一つは、長﨑美柚の成長でしょうね。2月12日、木下アビエル神奈川との試合、第2マッチで木原美悠に負けたけど、ヴィクトリーマッチに起用しました。そして、もう一度木原と戦って、勝った。翌日は、木下さんは石川佳純がエントリーしてきたけど、好調を維持した長﨑が石川に勝利した。ここを繋いだから2月後半、レギュラーシーズン優勝の望みを繋げられた。
写真:長﨑美柚(日本生命レッドエルフ)/撮影:ラリーズ編集部
“チーム一丸”の作りかた
――選手の活躍はもちろんなんですが、今回は村上監督の“監督術”、マネジメント方法もお聞きしたくて。村上総監督:そりゃあ、30何年も監督やってますから(笑)。――だって男女唯一の4連覇ですよ。何か秘密があるはずです(前のめり)。村上総監督:聞くねえ(笑)。うーん。チーム一丸になって戦うとかよくみんな口で言うけど、じゃあ一丸になるためにはどうするんやということですよ。――というと。村上総監督:やっぱり30年日本リーグで戦ってきて、良いところも悪いところもあって。最初は報奨金も何もないアマチュアだったけど、アマチュアながら報奨金やモチベーションを高める制度を作ってきました。契約や仕組みに、まとまりが良いチームを作れるような色んな工夫は散りばめてますね。
――選手個人だけでなく、チーム成績も反映される査定ということですか。村上総監督:そうです。
写真:4連覇を果たした日本生命レッドエルフ/撮影:ラリーズ編集部
チームの目的によって、監督に必要なことは違う
――今季、交代となる監督も多いですね。Tリーグの監督に必要なことって何ですか?村上総監督:チームの目的によって違うと思いますね。会社の福利厚生費で運営しているチーム、スポンサーメリットを追求する新しいチーム、地域密着でそのファン目線を重要視するチーム、それぞれで求める監督は違うなと思います。――確かに。村上総監督:実際、負けたから交代になった人はいないんじゃないかな。チーム目的に合っていないから交代というケースが多いと思います。――それが良いことなのかどうなのか、わからないんです。村上総監督:本当は、プロなんだから勝ち負けの方が良いよね。サッカーは下位に行ったらシーズン中でも交代するわけで。でも、卓球はまだそこまで行ってないからね。
普通は2、3年契約で監督させて、ファイナル行かなかったらごめんなさい、だとわかりやすいですよね。でも実際そうはなっていない、ファイナルに行った2チームの監督が交代するわけだから。やっぱりチームの目的に合う合わない、で判断している。
写真:村上恭和総監督(日本生命レッドエルフ)/撮影:ラリーズ編集部
監督の葛藤とは
――卓球は、根本は個人競技じゃないですか。個性ある選手と球団の間で板挟みになることもあると思うんです。村上監督には全く感じないんですが(笑)。村上総監督:それは当然あるでしょう。うちの場合は、担当コーチ制にしているから、担当コーチと選手がうまくいかないときだってある。僕は複数のコーチとミーティングで調整しながらやっていますけど、なかなかそのときの利害に合わないこともあるから、難しいときもありますよね。
みんな雇われた監督。全体は会社や球団オーナーが見ているわけやから、監督は自分の上の、球団社長や会社オーナーが何を求めているのか、先に理解してスタートしないと、目的とずれてくるよね。
とにかく勝てばいいんだと思って、それが間違っていることさえあるからね。
――なんか、ビジネスでも同じことが言える気がします…。
写真:日本生命レッドエルフは選手毎に担当コーチ制をとる/撮影:ラリーズ編集部
Tリーグは、ほとんどの選手が最後の卓球人生に命を懸けているわけですよ。ここで終わらせたいという。結果的に移籍する人もいるけど、最初の気持ちは、ここで卓球人生終わるんだと思っている。だからこそ、自分がやりたいようにやりたいわけです。
チームのやりたいように従うわけじゃないんですわ。
監督は選手のその思いを汲んでやって、本人がやりたいようにやってるんだと思ってくれるように、チーム運営をやるということですね。各々、接し方は変わってくると思います。
――なぜ、村上監督だけそれができるんですか?村上総監督:ま、それがキャリアやね(笑)。あとは、当然コーチやスタッフが多くいるので、これも力になってますね。(後編につづく)
取材・文:槌谷昭人(ラリーズ編集長)