2022年のMLBは当初の予定より1週間遅れの日本時間4月8日に開幕。今シーズンの注目もやはり大谷翔平だ。2021年は…
2022年のMLBは当初の予定より1週間遅れの日本時間4月8日に開幕。今シーズンの注目もやはり大谷翔平だ。2021年は打者として打率.257、46本塁打、100打点。投手として9勝2敗、防御率3.18、156奪三振をマークし満票でMVPに輝いた。今季は昨季王者のアストロズ相手にメジャー5年目で初の『開幕投手』&『1番バッター』という究極の二刀流でスタートする。大谷翔平の北海道日本ハムファイターズ入団と同じ2013年から5年間投手コーチを務めた"ジョニー黒木"こと黒木知宏氏がMLB開幕を前に、あらためて大谷翔平のすごさやMLBの楽しみ方を語ってくれた!

昨シーズン、満票でア・リーグMVPに輝いた大谷翔平
大谷翔平のすごさは継続力
── 新しい労使協定を巡り機構側と選手会が対立して、なかなか合意せずヤキモキしましたが、1週間遅れの日本時間4月8日にMLBが開幕します。
黒木 ようやくメジャーリーグ、始まりますね。大谷選手......に限らずですけど、やっぱり大谷選手を見たい人が多いですよね。
── 見たいです! ジョニーさん、大谷選手って全部すごいのですが、「何が一番すごいの?」と聞かれたらどこなんでしょう?
黒木 "継続力"ですね。身体能力の高さというのが大前提としてあるけれど、もっと先を見据えて、『世界で一番の選手になりたい』という夢を持っていたし、夢に向かって地に足をつけてトレーニングをしていました。やらなきゃいけないトレーニングや課題を明確に持っていました。人って心が弱いから、ちょっと調子が悪くなったり、身体がしんどくなったりすると「もういいかな」って、自分のなかで制限をかけたりしますが、大谷選手はそれがなかった。自分がやろうとしていることを常にやり続けられるんです。
── その積み重ねがあって、今があると。
黒木 年々身体が大きく、そして強くなっていきました。ということは身体の動かし方が変わっていくのですが、しっかりアジャストできていました。とくに思い出すのは、大谷選手が黙々とボールを壁やネットに向かって投げていたこと。ただ漠然と投げるのではなく、身体をひとつひとつ動かしていく連動性をちゃんと頭に入れながらやっていました。柔軟性や肩回り、いろんなところの強化もあると思うんですけど、とにかく毎日やっていました。投げること以外でもウエイトトレーニングもやり続けているし、栄養の勉強も続けている。継続は力なりじゃないですけど、これがちょっと人よりもすごいところだなと思います。大谷選手にとっては当たり前のことかもしれないですけど、当たり前のことが普通はできないですよ。5年間一緒にやりましたけど、あらためて継続する力がすばらしいと思いますね。
── 身体のポテンシャルも飛び抜けているけれど、努力をする才能も兼ね備えているということですね。以前、ジャイアンツの桑田真澄投手チーフコーチが「僕は身体も小さいし、野球の才能はないけれど努力する才能はあったんだ」と話してくれましたが、大谷選手は身体もでかい、持って生まれた才能もある、さらに努力をする才能もある。ついでにカッコイイ......ならば、もう鬼に金棒以上ですね。
黒木 たしかにそうなんです。自分のポテンシャルの高さを大谷選手はわかっているんです。それをどう生かすかを考えた時に、「これぐらいで大丈夫だろう」ではなかったんですよ。たとえば、大谷選手は60%の力だとしても、僕らが出す100%以上のパフォーマンスはきっと出せちゃいますよ。手を抜いたとしても、ある程度結果は出せるだろうと思います。そうじゃなくて、圧倒したいということでしょうね。圧倒的にねじ伏せたいだったり、圧倒的なパフォーマンスを出したいとなると、やっぱり自分が持っているポテンシャルをちゃんと動かすことができるかだと思うので。そのためには身体を強くしていかなきゃいけないし、連動させていかなきゃいけないし、やり続けなきゃいけない。
二刀流には半信半疑だった
── プロ野球に入って数年間は二刀流に対して懐疑的だったですよね。そもそもジョニーさんは、どう思われていたのですか?
黒木 大谷選手が二刀流をできるかできないか、無理か無理じゃないかじゃなくて、ファイターズに入った時点で、大谷選手が二刀流をやるということは組織論としてやらなきゃいけなかったんですよ。とはいえ「どれくらい能力があるのかな?」と僕自身も正直、半信半疑でした。ところが春季キャンプ初日でそんな気持ちも簡単に覆されて、驚きに変わりました。ボールの質や投げる姿の美しさ、そしてバッティング練習をしたら誰よりも遠くへ飛ばすわけですよ。「これは、どっちかじゃなくて、どっちもだな」と自然に思えましたし、それくらい投手としても打者としても突出していました。
── ボールの質ってどうだったんですか?
黒木 春季キャンプの時に大谷選手がシート打撃でバッティングピッチャーをする時に、ウォーミングアップで僕が受けたんです。その時のキャッチャーミットは新調したばかりで硬かったのに5、6球受けたら、フニャっと柔らかくなったんです。そしてギアを上げたボールを投げたら、グーンとミットの中に吸い込まれて、その勢いのままミットを突き破ってしまうんじゃないかという......初めての感覚に「これは本物だな」と確信しました。それまでは、「スピードガンがおかしいんじゃないかな?」「160キロはあり得ないでしょ?」と思っていたんですが......本物でした(笑)。
── 二刀流ということは練習量も人一倍だから、当時は監督やコーチがセーブさせていたと聞きました。
黒木 してましたね。やっぱり「投げる」、「打つ」と単純に人の倍の練習をやるので、ケガをさせないようにやってましたね。こちらがある程度制限をかけてあげないと、本人はいくらでも練習をやってしまうんですよ。やりたくてしょうがないけど、壊れてしまったら本末転倒ですから。僕ら(ピッチングコーチスタッフ)はピッチャーとしての練習のボリュームを把握して、野手としての練習のボリュームを野手のトレーニングコーチから聞いて、どっちかを落としたりとかバランスを考えながら無理しないようにチーム全体で意識してやってました。
想像を超えた起用法
── 昨シーズン大谷選手は「パルススロー」をひじに巻いて負荷を数値化したりと細かく管理していました。ファイターズ入団当時は、どんな感じでしたか?
黒木 当時はそこまで進歩してなかったですし、そういう科学的な取り組みをファイターズのなかではやってなかったです。コーチや、トレーナーが見てパフォーマンスが落ちてきたら制限をかけるという感じでした。なにしろ前例がないから、比較しようがないですしデータ自体もないですから。

今年こそ10勝の期待がかかる大谷翔平
── 昨シーズンの大谷選手は1年間、フルスロットルでした。登板時に打つことも多かったですし、リアル二刀流も解禁しました。
黒木 正直怖かったです。僕はメジャーの解説(NHK−BS等で)をやっていて、毎日のように大谷選手を見るので、余計に怖かったです。トミー・ジョン手術が明けて2年が経過して、その間にも膝の手術もしましたし、ようやく「さあ行くぞ!」っていう年が昨シーズンだったんですが、オフの間に全体的に大きくなって、ケガやリハビリなどすべてクリアできたかのような身体つきだったので、いけると思ったんですよね。ただ、まさか咋シーズンは、あのような起用法だと思わなかったので、1年間持つのかと......。だから壊れないでほしいと思ってましたし、どこかで制限をかけないとガス欠しちゃうと思っていたんですけど、蓋を開けてみたらあの活躍で(笑)。
── 正直、あんな起用法になるとは思わなかったと?
黒木 制限をかけずにやってみようと、大谷選手に思いきり野球をやらせようとなりましたね。ボールを投げること、打つことというのが、全体の消費エネルギーとして大きいんですけど、その消費エネルギーのバランスをとるために、「じゃあバッティング練習は外ではなくインドアでやりましょう」とかに変わっていきました。練習量は落ちてないんだけど、練習の場を変えることによって、消費エネルギーをちょっと落として、その分、試合でいいパフォーマンスを出せるように持っていく。大谷選手は睡眠や栄養を摂ることもちゃんとできるし、自分で管理できる選手だからこそ、1年間ケガなくできたのだと思います。もちろん驚きましたけど、できるものだなって思いました。一番頑張ったのは大谷選手なんですけど、そこに目を向けたGMの考え方もすばらしかったと思います。
── しかも盗塁(26盗塁)も多かったです。
黒木 たぶんですけど、盗塁はまだ抑えています。『40−40』(40本40盗塁)もあるじゃないですか。2019年にアクーニャJr.(ブレーブス)ができそうだったんだけど、結局ケガして37盗塁(41本塁打)で終わっちゃった。大谷選手はすぐできますよ。一番近い選手だと思います。とはいえ、そこはバランスを考えてやるでしょうね。何も考えずに走れば、50盗塁だって可能性ありますよ。それくらい速いです。
大谷翔平と対戦するなら?
── 今シーズンも大谷選手、MVPいけますか?
黒木 十分可能性はあります。昨シーズン獲った時だって、僕は驚かなかったし、ファイターズにいた選手やスタッフは「翔平ならやるよね」ってきっと思ったはずです。ファイターズ1年目から見ていたから余計に驚かない。圧倒的なパフォーマンスを出せる選手だから、アメリカに行っても「すごいことをやるだろうな」というのはみんな信じて疑わなかった。怖いのはケガだけ。マイク・トラウト以上にホームランを打って、普通に投げたら12〜13勝できるわけですよ。リリーバー次第でもっと勝てる可能性だってある。サイ・ヤング賞だって不可能じゃない。となったら、毎年満票でMVPじゃないですか。ベーブ・ルースの103年ぶりが、毎年のように達成される(笑)。
── そんな何拍子も揃った怪物・大谷翔平に、もし全盛期のジョニーさんが対決するとしたら、どう投げますか?
黒木 大谷選手のミス待ちですね(笑)。イメージは勝負球をアウトコースの高めに投げたいです。変化球。これは大谷選手に限らずなんですけど、左バッターって右ピッチャーに対して右回りなので、うまく逃げることができるんですよ。だから、高めとか外めの球でフッと逃げたりすることができるんですよね。そこで強い振りをさせずに、ちょこんと当ててシングルヒットぐらいだったらオッケーで(笑)。内角に投げたらやられちゃうんで、フルスイングができないような場所に投げる。できれば追い込んでからいきたいんですけど、追い込むまでが僕の球じゃできないでしょうね。
── いやいや、『魂のエース』じゃないですか!
黒木 これをちゃんと書いてください「いやいやいやいや」って(笑)。メジャーのピッチャー、160キロですよ。160キロ投げても大谷選手はバコバコ打つんですよ。僕は出ても144〜145ですよ、抑えられるわけないですって。
── ジョニーさんは、全盛時にメジャーリーグに挑戦したいという考えはなかったですか?
黒木 興味はありました。意識したのが2000年の日米野球に登板させてもらった時に、バリー・ボンズ(ジャイアンツ)やカルロス・デルガド(ブルージェイズ)、ルイス・ゴンザレス(ダイヤモンド・バックス)、ゲーリー・シェフィールド(ドジャース)ら錚々たるメンバーが来た時に投げさせてもらって、いいピッチングができたんです。ボンズと勝負して抑えたのは自慢です(笑)。試合では三振を8つ取りましたしね(2000年日米野球第4戦・5回3安打8奪三振1失点のナイスピッチング)。一緒に食事もさせてもらったし、スーパースターたちと対戦できたということは楽しかったし、嬉しかったです。ただ、メジャーに行く実力はあの頃の僕にはなかったと感じていたので、挑戦したいとまでは思ってなかったです。
── 鈴木誠也(カブス)選手、菊池雄星(ブルージェイズ)選手も所属が決まりました。いよいよ始まる今シーズンのMLB、見どころを教えてください。
黒木 大谷選手はもちろんですが、今シーズンも日本の選手たちがどれくらい活躍できるかというところが注目です。必ず朝、アラートが鳴りますよね。「大谷翔平選手、ホームラン打った」だったり「ダルビッシュ選手が勝った」とか。西、東、中地区とバランスよく日本人選手が所属しているので、朝を楽しみにしてほしいなと思います。あとは、スーパースターたちがポストシーズンに向けて戦っていく時に、流してやる姿というのがないんですよ。何十億ももらうような選手たちが、顔色や目の色を変えてやっている。その選手たちが正念場の8月、9月の表情を見てほしいと思います。
── NBAやMLBなどアメリカンスポーツはシーズンの前半と後半というのはまったく目の色が違うというか、変わりますよね。
黒木 そうなんですよ。盛り上げ方がやっぱり上手ですよね。最初から負け続けてコケちゃうと上がってくるのが大変なんですけど、徐々に上げていって、どこが勝負なんだ、今じゃないんだ、いや今だという(笑)。後半の時期に変わってくるので。だから、暑くなってからですよね。そのあたりから選手の表情が変わりますよ。変わる前の表情とのギャップも面白いから両方、見てほしいと思います。