3月31日に大阪桐蔭の優勝で幕を下ろした選抜高校野球大会(センバツ)。今大会は全体的に有望選手が少ないと言われたが、果たして本当にそのとおりなのか。NPBで50歳まで現役生活を送ったレジェンド・山本昌氏(元中日)に、12人の有望投手につい…

 3月31日に大阪桐蔭の優勝で幕を下ろした選抜高校野球大会(センバツ)。今大会は全体的に有望選手が少ないと言われたが、果たして本当にそのとおりなのか。NPBで50歳まで現役生活を送ったレジェンド・山本昌氏(元中日)に、12人の有望投手について分析してもらった。現役NPBスカウトも愛読していると噂の"レジェンド・レポート"を一気にお届けしよう。



初戦の大分舞鶴戦で2安打、13奪三振と好投した浦和学院・宮城誇南

宮城誇南(浦和学院/173センチ・73キロ/左投左打/ベスト4)

浦和学院が今大会でベスト4と躍進した原動力となった左腕エースでした。体格的に恵まれているとは言いがたく、球速も特筆するものがない彼がなぜ抑えられるかと言えば、「右肩のカベ」が優れているから。右肩をギリギリまで開かず、打者に胸を見せないフォームなのでタイミングが取りづらい。また、左手が出てくる角度もいいので、ボールが走っていました。気になるところを挙げるとすれば、時折左手がトップまで上がりきらずにリリースですっぽ抜けてしまうこと。右肩がもう少し捕手方向に体重移動できるようになれば、間(ま)がとれて左手がスムーズに上がってくるはずです。



強打の九州国際大付打線から11三振を奪ったクラーク国際の辻田旭輝

辻田旭輝(クラーク記念国際/182センチ・80キロ/右投右打/1回戦)

背番号3をつけていたので驚きましたが、強打の九州国際大付打線から11三振を奪った投手なのですね。大きな体と真上から投げ下ろす投球フォームが印象的で、球の走りもいい。キレとパワーを併せ持つ大型投手なのに、コントロールも悪くありません。将来、投手として大きく化ける可能性を秘めています。アウトステップ気味の踏み出しですが、それは菅野智之くん(巨人)も同じで、結局は腰が回りきれば問題ありません。辻田くんの場合は、まだ全体的にフォームがまとまりきれていないので、今後はバラつきを小さくできるよう取り組んでもらいたいです。



広陵の本格派右腕・森山陽一朗

森山陽一朗(広陵/181センチ・83キロ/右投右打/2回戦)

ひと目見て、「面白い」と感じました。動作にややぎこちなさがあるので、人によっては変則的と見られるかもしれませんが、私は将来楽しみな素材だと見ました。佐々木朗希くん(ロッテ)のように左足を高く上げて立ってから、勢いをつけて投げるフォーム。捕手に向かって真っすぐラインができているし、真上から投げ下ろす腕の振りもいい。球速表示は130キロ台前半でも、それ以上のスピード感を覚えるほど球が走っています。下級生時に故障をして実戦経験が少ないと聞きましたが、これから技術を覚えていけば楽しみです。ホーム方向への移動距離がよりとれるようになれば、球のキレはさらに増すはず。左肩を少しでも捕手に近づけるよう、取り組んでみてほしいですね。



チームの準優勝の立役者となった近江・山田陽翔

山田陽翔(近江/175センチ・77キロ/右投右打/準優勝)

私も彼のことを中学時代(大津瀬田ボーイズ)から知っていたくらいなので、怪童だったのでしょうね。今大会は直前の代替出場にもかかわらず、準優勝と大躍進。野手としても能力が高く、スカウト陣の評価は割れていると聞きました。でも、私は投手としての彼を推したいです。投球フォームは躍動感があって、腕を振る直前に一瞬、間(ま)があるのがすばらしい。この間があることで右腕が高く上がり、真上から叩きつけられる。ここまで角度をつくれる投手も珍しいです。レベルの高い投手なのであえて注文をつけさせてもらうと、時折シュート回転が強くなる点が今後の課題になるでしょう。フォームの間を絶賛しましたが、この一瞬で左肩がわずかに開くことがあり、強いシュート回転につながっています。



延長13回、サヨナラ押し出しで敗れたが高い能力を見せた山梨学院・榎谷礼央

榎谷礼央(山梨学院/179センチ・76キロ/右投右打/1回戦)

第一印象で「誰かと似ている」と思ったのですが、私の中日時代の同僚だった河原純一と重なりました。力というよりしなやかさを使って投げる、投手らしい投手。腕の振りはいいし、捕手に向かって真っすぐラインが出ているし、ボールにキレを感じます。これから本格的に体ができてくれば、より球が走るようになるでしょう。細身の体型にも将来性を感じます。惜しいと感じるのは、体重移動を始める際に軸足の右ヒザを早めに折って勢いを殺してしまっているところ。自然かつスムーズに体重移動できれば、もっとすばらしいボールを投げられそうです。



センバツで146キロをマークした木更津総合のエース・越井颯一郎

越井颯一郎(木更津総合/178センチ・75キロ/右投右打/2回戦)

今大会では近江の山田くんと並ぶ146キロの最高球速を出したと聞きました。腕の走りとボールを切る場所がすごくいいと感じますし、タテ変化がよく曲がりそうな腕の振りをしています。その一方で、1球1球のテンポがすごくよく、独特のリズムを刻むフォームを含め、「柔」と「剛」を混ぜ合わせた投球スタイルだと感じます。課題を挙げるとすれば、全体的にボールが高めに集まるところ。今のところ、ボールが一番走るのが高めのゾーン。それでも、奥川恭伸くん(ヤクルト)の高校時代もそうでしたが、今は修正できています。体をつくりながら、強い球を低めに集められるようになるとすばらしい投手になれるはずです。



初戦で花巻東の佐々木麟太郎を封じ込めた市和歌山のエース・米田天翼

米田天翼(市和歌山/175センチ・81キロ/右投右打/ベスト8)

大阪桐蔭戦では腰の張りがあって本調子ではなかったのが残念でしたが、初戦の花巻東戦でのストレートは見事でした。豊かな馬力を感じますし、球の走りも非常にいい。捕手へのラインもしっかりしているので、ボールに力が伝わり、コントロールも乱れません。市和歌山は昨年には小園健太くん(DeNA)もいましたし、連続してハイレベルな投手が出てくるのはすばらしいです。課題を挙げるとすれば、体重移動でしょう。軸足が早めに折れてしまい、右肩が落ちた状態で体重移動して、右手がトップに上がりきるための時間がとれていない。右ヒザを早めに折らず、捕手に向かって平行移動できれば、さらに上のレベルに行けるでしょう。



最速146キロを誇る大島のエース・大野稼頭央

大野稼頭央(大島/175センチ・64キロ/左投左打/1回戦)

離島の奄美大島から甲子園に出た話題性を抜きにして、個人的に好きなタイプの左腕です。まだ体の線が細く、完成度は低いものの、高い将来性を感じます。軸足でしっかり立てて、腕が出てくる位置がよく、腕の振りも鋭い。甲子園では残念ながら明秀学園日立を相手に大敗したものの、あくまでこれからの投手。高卒でのプロ志望だと聞きましたが、私がスカウトなら指名したいくらいです。ピッチング姿を見て、どことなく菊地原毅(元広島ほか)を思い出しました。課題を挙げるとすれば、軸足の左足で立った後、ヒザをガクンと折って体重移動するところ。体重移動しながら自然とヒザが折れる形にしたほうが、力まず放れるようになるはずです。せっかくいい素材なので、参考にしてもらえたらうれしいです。



身長188センチの大型右腕、大阪桐蔭の川原嗣貴

川原嗣貴(大阪桐蔭/188センチ・85キロ/右投左打/優勝)

センバツ初戦と準決勝で好投した長身右腕。背番号10なのにこれだけ能力があるのは、さすが大阪桐蔭だなと実感しました。見るからに上背がある投手らしい体型で、ゆったりしたモーションからいい位置に腕が出てくる投球フォームです。伸びしろもありそうなので、将来が楽しみです。もったいないと感じるのが、左肩の開きが少し早いところ。左肩を開く動作と連動して右腕をトップへと上げているので、左腕と右腕の動きを別にしてもいいのかなと感じます。左肩の開きを抑え、頭を振って腕を振るクセが矯正できればさらに成長できそうです。



大阪桐蔭戦で好投した鳴門の冨田遼弥

冨田遼弥(鳴門/178センチ・86キロ/左投左打/1回戦)

コロナ禍の影響で対外試合をできず、ぶっつけ本番で大阪桐蔭に好投したと聞き驚きました。投球フォームは力感がなく派手さもないのですが、打者に数字以上の体感スピードを感じさせます。捕手に向かってしっかりラインもできているので、コントロールにも苦労しません。腕が出てくる位置もよく、いろんな球種を覚えられそうなのも評価ポイントです。昨秋の公式戦で防御率が0点台だったそうですが、それも十分にうなずけます。課題を挙げさせてもらうなら、彼も体重移動に改善の余地があります。ホーム方向に素早く、もう少し長く移動距離がとれればボールにさらにキレが出るでしょう。



センバツでは13イニングで23個の三振を奪った大阪桐蔭・前田悠伍

前田悠伍(大阪桐蔭/180センチ・77キロ/左投左打/優勝)

以前から個人的に注目していたのですが、文句なしにすばらしい投手です。高校2年生でこれだけのボールを投げられるのは、ちょっと驚きです。左腕をムチのようにしならせて、リリースがワンテンポ遅れるので打者はタイミングがとりづらいし、猛烈なキレを感じるはずです。捕手に向かって真っすぐにラインもできているし、さすが早くも世代ナンバーワンと呼ばれるだけのことはあります。課題らしい課題も見当たらないのですが、強いて言えば変化球を投げる際の腕の振りがわずかに緩むように見えること。上の世界では、ちょっとした腕の振りの違いで打者がバットを振ってくれなくなります。スライダーやチェンジアップを投げる際に、いかにストレートと同じ腕の振りに近づけるか。まだ16歳ですから、この2年間でさらにレベルアップしてもらいたいですね。



コロナにより出場辞退となった京都国際のエース・森下瑠大

森下瑠大(京都国際/179センチ・76キロ/左投左打/出場辞退)

昨夏から高く評価させてもらっており、最上級生となった今春の成長を楽しみにしていた左腕でした。今大会は残念ながら出場辞退でしたが、昨秋の映像を元に分析させてもらいました。彼の評価ポイントは、やはり投球フォームのよさ。バックスイングをとる際に左手をかなり下まで落としますが、トップに上がってくるまでの十分な間(ま)をつくれています。だからいい角度で投げられて、真っすぐも変化球も球質がいい。ラインもしっかりしているので、コントロールも安定しています。球速が乏しいことを不安視する声もあるようですが、私はまったく気になりません。勝つことにかけては、彼の世代で右に出る者はいないのではないでしょうか。センバツ辞退から気持ちを切り替えるのは大変でしょうが、ぜひ夏の甲子園で見たいです。欠点らしい欠点がなく、順調に成長すればプロでも十分通用する投手でしょう。

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 今大会は人材不足という声も聞きましたが、こうして一人ひとり分析させてもらうと将来楽しみな人材ばかりでした。今回見た12人のなかでは、やはり森下くん(京都国際)の技術とフォームの完成度の高さが際立ちました。あとは山田くん(近江)、冨田くん(鳴門)、大野くん(大島)も自分がスカウトなら推したい投手ですね。山田くんの馬力と角度、冨田くんの完成度、大野くんの将来性が目を惹きました。

 彼らの順調な成長と無事を祈りつつ、夏にはまた新たな好投手との出会いを楽しみにしています。