今春の選抜高校野球大会（センバツ）は、全体的に小粒と言われた。だが、山椒は小粒でもぴりりと辛いもの。とくに遊撃手には、大学以降での成長次第で楽しみと思わせる有望選手がいた。２回戦の広陵戦では２安打を放った九州国際大付の尾崎悠斗新チーム結成…
今春の選抜高校野球大会（センバツ）は、全体的に小粒と言われた。だが、山椒は小粒でもぴりりと辛いもの。とくに遊撃手には、大学以降での成長次第で楽しみと思わせる有望選手がいた。
２回戦の広陵戦では２安打を放った九州国際大付の尾崎悠斗
新チーム結成以来、無失策
守備にかけてはナンバーワンと思わせたのは、尾崎悠斗（九州国際大付）だ。あるスカウトは尾崎について「守備だけで飯を食える選手になるかも」と語っている。１回戦のクラーク記念国際戦では、ヒット性の打球を何本もさばいて見せた。足場の荒れた第３試合でも難なく打球をさばく姿には、たしかな技術力が滲んだ。
チームメイトも尾崎の守備に絶大な信頼を寄せている。
「センター前に抜けたかな、という打球も尾崎が捕ってくれて助かりました。尾崎がいることで内野の守備範囲が広がりますし、下級生への声かけもしてくれるので頼りにしています」（捕手・野田海人）
「（ピッチャーゴロが）グラブに当たって後ろにいった時、『内野安打か』と思ったら、尾崎がしっかり走ってアウトにしてくれたので助かりました。とくに出したくないランナーだったので。ヒット性の当たりが何本かありましたけど、秋の大会から尾崎はアウトにしてくれていて。いつも安心して投げられます」（投手・香西一希）
尾崎に守備でのこだわりを聞くと、こんな答えが返ってきた。
「一歩目を大事にしています。それとスローイングにも自信があるので、深い位置からでも刺せる自信はあります」
糸島ボーイズでは投手も兼任し、侍ジャパンU−15代表に選ばれた実績もある。
ただし、尾崎の課題は打撃にある。現在の打順は９番で、昨秋の公式戦14試合での通算打率は.171に終わった。とはいえ、力強くバットを振る意思は感じるだけに、今後の進化に期待したい。
九州国際大付は黒田義信、佐倉侠史朗、野田海人とプロ注目の強打者が居並ぶタレント軍団だ。それゆえ、尾崎の超高校級の守備への注目度がかすみがち。「もっと自分に注目してもらいたい思いはありますか？」と聞くと、尾崎はこう答えた。
「新チームになってから公式戦では一度もエラーしていないので、このままノーエラーでいきたいです」
密かな誇りを胸に、九州国際大付の守備職人はショートのポジションを堅く締める。
攻守で大活躍の浦和学院の遊撃手・金田優太
センバツで打撃開眼
今大会でベスト４に進出している浦和学院には、金田優太という好遊撃手がいる。身長181センチ、体重80キロと均整のとれた体型で、ユニホーム姿が映える。ソフトな身のこなしもあり、シートノックから目を引く存在だ。
金田は試合中、「しなやかにプレーすること」を考えているという。
「甲子園初打席（ショートフライ）は少し緊張して、体が硬いなと思ったんですけど、守備から柔らかく、しなやかに使うことを意識しました」
初戦の大分舞鶴戦では、難しいショートバウンドの打球を柔らかいグラブさばきで処理するシーンも見られた。この場面について聞くと、金田は胸を張ってこう答えた。
「自分はバッティングより守備に自信を持っている選手なので。打球がきた時に体が固まるのではなく、打球に応じてゆっくり柔らかく入れました」
金田は守備に自信があるというが、センバツ初戦では３安打、２回戦の和歌山東戦ではライトポール際へ本塁打を放っている。これから一層スイングの力強さが増してくれば、大化けの可能性もありそうだ。
すでにつぼみは開きつつある。金田はしきりに昨冬のトレーニングの成果を口にした。
「体づくりをして体を大きくしたことでスピードが出てきましたし、守備でも腕を強く振らなくても伸びる送球がいくようになりました」
そんな尾崎と金田は、準々決勝で相まみえている。金田は先制タイムリーヒットを放つなど、３安打１打点と活躍。守備も安定したプレーを見せた。
一方の尾崎は８回裏の打席で代打を送られるなど見せ場こそ少なかったものの、強烈なショートライナーを好捕するシーンがあった。試合は浦和学院が６対３で勝利。尾崎は公式戦17試合連続ノーエラーを継続しながら、甲子園を去っている。
試合後、尾崎の守備について金田に聞いてみると、シートノック中の動きが印象的だったと答えた。
「送球の精度や、動きのなめらかさが優れていると思いました」
「不作」と言われたドラフト年に、意外とプロで活躍する選手が出現することは歴史が証明している。
尾崎や金田に限らず、いつか「小粒」の低評価を覆すような急成長を見せる選手がひとりでも多く現れることを願ってやまない。
