ラオウを覚醒に導いた男根鈴雄次インタビュー 後編(前編:ラオウ杉本を覚醒させた「鬼ダウンスイング」秘話>>) ラオウこと…
ラオウを覚醒に導いた男
根鈴雄次インタビュー 後編
(前編:ラオウ杉本を覚醒させた「鬼ダウンスイング」秘話>>)
ラオウこと杉本裕太郎を覚醒に導いた「鬼ダウンスイング」は、バットを横ではなく、上から下に縦軸で振り抜くスイング。それを指導した根鈴雄次氏はMLBの3Aや日本の独立リーグを含め、5カ国でプレーしてきた自身のキャリアを通じて、メジャー流の打撃理論をひたすら追求してきた。
インタビュー後編では、根鈴氏から見た大谷翔平の打撃、アメリカで求められる打者像、日本とアメリカの打撃理論の違いなどについて聞いた。

バットを縦に振るメジャー流のスイングで、昨季にホームランを量産した大谷 Photo by AP/アフロ
――根鈴道場では、「日本人のMLB本塁打王を出す」という非常に高い目標を掲げていますね。
根鈴 もしかしたら今季、大谷翔平選手が獲ってしまうかもしれませんが(笑)。ただそうなったら、僕の考えてきたアプローチが正しかったとも言えます。大谷選手のバッテイングは見事なまでの"縦スイング"ですよね。
象徴的だったのが、昨季の25号のホームランです。インコースのスライダーを、バットを縦にして振り切って左中間に放り込んだ。あれには驚きました。バットを横に使っていたら、絶対にあの方向には飛ばない。縦スイングの天才ともいえるマイク・トラウト選手の影響も大きいんでしょうが、明らかに日本にいた頃とはスイングが変わってきていると感じました。
――昨季の大谷選手の打撃をどう見ていましたか?
根鈴 大谷選手の何がすごいって、まずはメジャーの"化け物"たちの中に入っても体でまったく引けをとらないこと。これは、今までの日本人選手になかったことで、どんどん「MLBの体」になっている。昨季は、前半戦と後半戦で別人のように打撃が変わりましたね。前半戦はセンターから左中間方向への本塁打も多かったのが、後半は右中間方向への本塁打を意図的に狙っていた。
ただ、プルヒッターだと今のメジャーではホームラン王を獲れません。オールスターのホームランダービーの影響が大きかったな、と思います。辞退した選手は後半に数字を伸ばし、出場した選手は落としている。昨季はエンゼルスの成績も振るわなかったので、ホームラン王に狙いを定めて、それが悪い方向に出てしまったんだと思います。本来は、前半戦のように逆方向へも放り込めるほうが投手も怖いんですけどね。そのあたりは、本人が一番わかっていると思いますし、今季は修正してくると思います。
――根鈴さんはMLBとNPBの違いに「ファストボールへの対応」という持論を持っていますね。
根鈴 松井秀喜さんが巨人に在籍した最終年で、まだ日本にいた頃の話です。メジャーの某球団のスカウトが松井さんの視察をする際、アテンドでそれに同行したことがあるんです。松井さんのフリーバッティングはエグかったんですが、スカウトはそこに関心を持ちませんでした。その理由を聞くと、「メジャーでは打撃練習は調整。問題は試合でファストボールを一発で仕留める力をどれほど備えているかだ」と。ちなみにその試合で、松井さんは150キロ近いストレートを軽々スタンドイン。スカウトは「ゴジラ......」と唸ってましたよ(笑)。
――評価するポイントが日本とアメリカでは違うと感じたんですね。
根鈴 そのスカウトは、当時日本にいた助っ人のロベルト・ペタジーニやアレックス・カブレラ、タフィ・ローズらの試合も視察したんです。そこでスカウトは「ユウジ、なぜ彼らがメジャーでは活躍できなかったのか。答えはシンプル。150キロ超のファストボールをミスショットするからだ」と話していました。
今では日本でも150キロを超える球を投げる投手が増えましたが、当時は少なかった。僕が3Aでやっていた時も、相手の投手はコントロールはさておき、150キロ台のボールをバンバン投げ込んできていた。それを一発で仕留められるか、力負けしないか、という点が一番の評価ポイントだと確信した出来事でした。
――近年、日本でも「フライボール革命」という言葉が浸透してきましたが、この点について感じることは?
根鈴 正直、日本でいうところの「フライボール革命」には誤解があると思うんです。日本でフライボールというと、山なりのフライのイメージが浸透していますが、メジャーではライナーのことを指します。ここの認識から変えていなかいといけない。実際に大谷選手の打球もライナー性のものが多いし、好打者ほど同じような感じです。では、そのライナーを打つためにどんな技術が必要か、という視点がないといけないので、多くの日本の指導はそもそもの出発点に違和感があるんです。
――具体的に、ライナーを打つために必要な技術とはどのようなものでしょうか。
根鈴 これはバリー・ボンズやマーク・マグワイアがホームラン王争いをしていた頃から変わりませんが、向こうの一線級のスラッガーは"究極の手打ち"なんですよ。体全体を使ったり、打球にスピンをかけて飛距離を伸ばす、足を大きくあげてタイミングをとる、ということは高い技術を必要とします。例えば、メジャーの関係者が山田哲人選手のスイングを見た時には、「よく、あんなに足を上げてタイミングを取るなんていう難しい技術を身につけたね」といった表現を使ったりする。
これは「確実性を高める」という概念に起因しているんでしょう。それならバットを縦に振ってボールが当たる"面"を広げて、力で押し込むほうがミスショットは少ない。パワーがあれば、上半身の力を利用して打つことで自然と打球に角度がつくので、MLBでは筋力を重視します。単純な素振りもほとんどしませんし、その時間に筋トレをしている選手が多い。170キロ超のウエイトも軽々と上げる選手もたくさんいます。
――反面、日本では上半身の筋トレを行なわなほういがいいという概念もありますよね。
根鈴 メジャーの考え方はシンプルで、「150キロのボールをどうすれば確実に捉えられるか」。そこで主流となっているのが手打ちであり、縦のスイング。その理論で打つためには筋力も必要である、という結論に至るわけです。
これはすべての選手に当てはまるわけではありません。ただ、大谷選手をはじめ、MLBで活躍する選手はやっていること。技術で勝負するためには、イチローさんのような天才的な感覚を持ち合わせていないと、単純に力負けする可能性が出てきます。
ひとつ残念だったのは、パイレーツの筒香嘉智選手が、「筋トレはやらない」と発言したことです。もちろん個々の自由ですが、影響力もある偉大なバッターですからね。確実性を高める、メジャーを目指す、という視点からは逆行しているようにも感じてしまいます。特に最近では、高校野球の指導者でも筋トレや"食トレ"の意識が非常に高まってきているので。

根鈴氏が指導の一環で使うバレルバット
――今回名前が上がった打者は左バッターが多かったですが、今季は侍JAPANの鈴木誠也選手がシカゴ・カブスでメジャー挑戦します。
根鈴 彼は非常に総合力が高いバッターで、メジャーでも活躍すると見ています。フォームや打ち方ひとつとっても、MLBでやることを想定して作ってきたのが伝わってきます。彼はとにかく身体能力が高いということも評価されたポイントでしょう。「ファイブツール」という言葉がありますが、今はMLBでも、あれだけの身体能力と技術を併せ持った選手は希少ですから。
――フォームや打ち方を作ってきたというのは、どのような部分で感じますか?
根鈴 法政大学時代の後輩で、カープの2軍打撃コーチの廣瀬純とは今でも連絡を取るんですが、廣瀬はカープを変えようとしています。そのひとつが(※)バレルバットの採用。ウチの道場でも使用していますが、彼はそういった情報も積極的に取り入れています。
(※)手元にバレル(たる)型にふくらんだ重みがあり、それを利用することで正確に、最も長打になりやすい打球角度「バレルゾーン」に打ち込むスイング軌道を身につけることができる。芯の部分が体から離れないため、スイングスピードが増し、より強い打球を打てるようになる。
鈴木誠也選手もバレルバットを使ってトレーニングしていたと聞きます。MLBでやるには、身体能力や技術だけじゃなくて、アジャスト能力や柔軟性も求められます。鈴木選手はもともとメジャー思考が強かったと聞きますし、フォームやトレーニング方法もそのために準備してきたのでしょう。右打ちの外野手なのでハードルは低くないですが、彼ならやってくれるという期待感が大きいです。
(ラオウ杉本を覚醒させた「鬼ダウンスイング」コマ送り>>)
【プロフィール】
根鈴雄次(ねれい・ゆうじ)
1973年生まれ、神奈川県横浜市出身。大学卒業後、アメリカでトライアウトを受けてルーキーリーグから3Aまで昇格。計5ヵ国でプレーし、2012年に現役を引退。独立リーグでコーチを務めた後、2014年から野球塾で若手の指導にあたる。2017年に「根鈴道場」を立ち上げた。