伊藤真利奈が6度目のプロテスト挑戦、黄金世代と同学年 国内女子ゴルフツアーが活況を呈する中、今年も夏からプロテストが実施される予定だ。だが、合格率は3%台の超難関。何度も跳ね返されている選手が数多くいる。母がロシア出身の伊藤真利奈もその一人…

伊藤真利奈が6度目のプロテスト挑戦、黄金世代と同学年

 国内女子ゴルフツアーが活況を呈する中、今年も夏からプロテストが実施される予定だ。だが、合格率は3%台の超難関。何度も跳ね返されている選手が数多くいる。母がロシア出身の伊藤真利奈もその一人で、次が6度目の挑戦になる。ロシアの今を憂いつつ、自分の人生を切り拓こうとする23歳の思いを聞いた。(取材・文=THE ANSWER編集部・柳田 通斉)

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 伊藤は北海道で生まれ、12歳でゴルフを始めた。父親から、「半ば強制的に」クラブを握らされたという。

「小学校まではテニスをしていて、4年生までは北海道大会優勝など上位でした。ゴルフは中学から始めたものの、なかなかうまくいかなくて、試合に出れば100、90とたたいていました。その頃から、(同学年の小祝)さくらは70台で回っていて優勝。私はビリで辛かったです」

 ただ、恵まれたフィジカルと運動能力の高さがあり、本人も「やるならプロを目指す」と決意。シングルプレーヤーの父と二人三脚で腕を上げ、中3になる頃には70台で回り、高3で北海道高校選手権を制覇。そして、17年に初めてプロテストを受験した。1次予選の結果は3日間で通算27オーバー。70台を1度も出せず、カットラインに10打届かなかった。

「今、考えるとテストを受けるのも恥ずかしいレベルでした。ただ、その年の冬にコーチと出会って、私のゴルフが変わっていきました」

高卒1年目から日本ツアー通算5勝デビッド・スメイルに師事

 コーチの名はデビッド・スメイル。ニュージーランド出身のプロゴルファーで、日本ツアーでは、日本オープンを含めてツアー通算5勝の実力者だ。伊藤は勤務していた恵庭CCのメンバーにスメイルを紹介され、一緒にラウンド。プロテスト合格を目指していることを伝えると、「冬の間はニュージーランドにホームステイして練習するといい」と誘われたという。

「それまでは冬も氷点下10度の中、屋外の練習場で打っていました。ただ、その出会いをきっかけに夏季のニュージーランドで練習できるようになりました。コーチの指導でスイングも整い、球筋はドローからフェードになってプレーが安定してきました。日本語が一切ない環境なので、自然と英語も話せるようになりました」

 効果はてきめんで、翌18年度プロテストは最終まで進出。だが、第3日のカットラインに1打届かずに不合格となった。その後、3回のテストも力を発揮できないまま今に至っているが、昨秋、自身に大きな変化があった。アマチュア資格の放棄だ。

「私は昨年5月、北海道女子アマ選手権に優勝して、北海道開催のツアー3試合に出場することができました。19年のニトリレディスにも推薦出場していますし、アマの方がツアーに参戦できるという思いで資格を保持してきました。ただ、これ以上アマを続けるのは経済的にも厳しいので、ミニツアーなどに出て、賞金を得られるように資格放棄の手続きをしました」

 その後、DSPE(ツアープロを目指す女子ゴルファーを支援する団体)に加入。同じ目標を持つ選手たちとの月例競技会に参加し、BSフジ「激芯ゴルフ」、BS日テレ「ゴルフサバイバル」などのテレビ番組にも出演し始めた。途端に人気が急上昇。インスタグラムのフォロワーは1000から4500人以上に増え、スポンサーも獲得。練習場やコースで声も掛けられるようになった。

「DSPEでは同じレベルの選手たちと競う場を与えていただき、本当にありがたいです。テレビに出るようになってからは反響の大きさに驚いていますが、とても励みになっています」

スメイルからアドバイス「技術的には問題はない。強い心を持つことだ」

 注目度が高まり、テスト合格への思いはさらに強くなった。今年から千葉県内に移住。昨年から日本シニアツアーに参戦しているスメイルの指導も受けやすくなった。結果、アンダーで回れるラウンドも増え、スメイルからは「技術的には問題はないレベルまで来ている。あとはコースマネジメント力を高め、強い心を持つことだ」と言われている。ツアー出場を経験し、自身も差はそこにあると感じている。

「ピンを狙うばかりでなく、あえて刻んだり、外してはいけない場所を避けるなどの対応も必要だと痛感しています。正直、テストは何度受けても怖いですし、『ボギーを打ってはいけない』という意識になります。そして、落ちる度に『同学年で活躍しているプロも多い。このままゴルフを続けていいのだろうか』と考えます。それでも、両親、コーチ、私を支えてくださっている方々のためにも、『次こそは絶対に通る』と思っています」

 合格の報を届けたい人は海外にもいる。ロシアに住む祖父母だ。自身が幼少期、日本で会ったきり。伊藤はロシアに渡ったことはないが、毎週のように電話している。それは、ロシアのウクライナ侵攻が始まってからも継続しているが、伊藤は停戦を強く願っている。

「このまま続くと、ロシアで生活することも大変になってくると思います。早く日常が戻ってほしいです」

 祖父母も、伊藤の挑戦を心から応援してくれている。戦争が終わり、コロナ禍も収まれば日本での再会も可能。その時にはツアープロとして、活躍する姿を見せたい。それが伊藤の何よりの目標だ。

■伊藤真利奈 / Marina Itoh

 1999年2月9日、北海道生まれ。札幌光星高卒。父親の勧めで12歳からゴルフを始め、高3で北海道高校選手権優勝。昨年北海道女子アマ選手権優勝。ドライバー平均飛距離260ヤード。ベストスコア64。アマとしてツアー4試合出場。昨年7月のニッポンハムレディスでは、カットラインに1打届かず予選落ち。今年2月放送のBS日テレ「ゴルフサバイバル 2月の陣」では、最終ホールまで残ってプレーオフ敗退。168センチ。血液型B。

〇…伊藤も含めてDSPEのメンバー、日本女子プロゴルフ協会の会員、アマチュアの計80人が出場し、3月9日、茨城・浅見GCで開催された大会「DSPEインビテーショナル」が、31日午後7時からBS日テレで放送される。放送時間は、国内ゴルフ大会では異例の2時間54分。同大会は18ホールストロークプレーの1日競技で賞金総額500万円、優勝賞金200万円に設定された。なお、クラウドファンディングで集まった総額から返礼品の制作費・送料・人件費を除いた総額も「優勝副賞」として、優勝プロに贈呈される。(THE ANSWER編集部・柳田 通斉 / Michinari Yanagida)